第4話「嘘つきの少女と、幻影の街」
【あらすじ】 ステラと大河が次に訪れたのは、嘘や欺瞞に満ちた街だった。この街では、人々の「嘘」が具現化した「幻影の怪物」が人々を惑わせ、街全体を「嘘の幻影」で覆い隠そうとしていた。ステラは、モンスター討伐の依頼を受けるが、相手は実体を持たず、しかも嘘が真実を覆い隠すため、魔法が効かない。ステラは、力で戦うのではなく、「真実」を具現化するという、新たな方法でこの問題を解決しようと試みる。
次の街は、まるで絵本から飛び出してきたように美しかった。色とりどりの花が咲き乱れ、通りを歩く人々は皆、満面の笑みを浮かべている。だが、ステラはその完璧さに、ひどく不自然な違和感を覚えていた。
「…この街、何かおかしい。」
大河もまた、警戒するように唸った。この街を覆う、薄い膜のような「嘘」の感情が、二人の感覚を刺激していた。
冒険者ギルドは、この街の美しさとはかけ離れた、古びた建物だった。ギルド内にいる人々も、どこかよそよそしい雰囲気をまとっている。 受付の男性に「幻影の怪物の討伐」という依頼について尋ねると、彼は顔色ひとつ変えず、しかしどこか早口で答えた。
「最近、街の外れに現れる、薄汚い怪物だ。奴は嘘をついて人々を騙し、街を汚している。ぜひ討伐してほしい。」
依頼主は、街に住む少女だった。彼女は、豪華なドレスを身につけ、にこやかに微笑んでいた。
「…この子も、嘘をついている。」
ステラは、彼女の心から発せられる、悲しい「嘘」の感情を感じ取った。
討伐現場へ向かうと、街の入り口に、灰色の幻影の怪物が立っていた。それは、街の美しい景観を、嘘で覆い隠すように、不気味な煙を吐き出していた。
「大河、行くよ!」 ステラは、いつものように魔法で剣を具現化しようとした。だが、彼女の想像した剣は、幻影の怪物をすり抜け、何の傷もつけられなかった。
「嘘が、真実を打ち消している…?」
ステラの心は混乱し、魔法が不安定になる。幻影の怪物は、彼女の心の隙をつき、様々な幻覚を見せてきた。
「お前は、この街の人たちを騙している…!」
「お前の力は、誰かを傷つける…!」 幻覚に惑わされた大河は、怪物の居場所を見失い、ただ闇雲に走り回るしかなかった。
(力で戦うことは、無意味だ…!)
ステラは、剣を具現化するのをやめ、目を閉じた。
(このモンスターは、人々の嘘から生まれた。なら、その嘘を暴けばいい…!)
魔法を使いすぎることへの恐怖と戦いながら、ステラは、心の中の「真実」を想像した。それは、武器でもなければ、防御壁でもない。ただ、全てを照らし出す、純粋な光だった。
「心の力よ…真実を具現化せよ!」
ステラの体から、まばゆい光が放たれた。その光は、街全体を包み込み、幻影の怪物を浄化していく。 光に照らされた人々は、着ていた豪華な服が消え、古びた布切れを身につけた姿に変わった。美しい豪邸は、ボロボロのあばら家に戻った。 依頼主の少女も、豪華なドレスが消え、泣きはらした顔に、つぎはぎの服を着た、本当の姿を現した。
「嘘だ…!全部、嘘だったんだ…!」
街の人々は、互いの「嘘」が剥がれ落ちた姿を見て、怒りや悲しみをぶつけ合った。 ステラが具現化した「真実の光」は、幻影の怪物を消し去ったが、人々の心には、憎しみという新たな闇を生み出してしまった。
ギルドに戻り、報酬を受け取るステラと大河。
「モンスターは、倒しました。でも…」
ステラは、依頼主の少女の悲しそうな顔を思い出し、言葉を濁した。 力でモンスターを倒すだけでは、根本的な解決にはならない。心の奥底にある嘘や偽りを浄化しなければ、また新たな怪物が生まれてしまう。 ステラは、自身の魔法が、心を具現化するだけでなく、心の真実を暴くことにも使えるという、新たな可能性を見出した。
街の混乱を背に、二人は次の旅へと向かう。 ステラの旅は、力で戦うだけではない。人々の心と、深く向き合う旅へと、変わり始めていた。