表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の心の処方箋  作者: 吉本アルファ
3/21

第3話「傲慢な騎士と、偽りの怪物」

【あらすじ】冒険者ギルドで、ステラは「ライオンの姿をした怪物の討伐」という依頼を受ける。依頼主は、街を守る騎士団の若きリーダー。現場へ向かうと、そこには街の紋章を持つ、ライオンの姿をしたモンスターがいた。しかし、そのモンスターは、他のモンスターとは違い、悲しみや後悔の感情を全く発していなかった。ステラは違和感を覚えるが、若き騎士はモンスターを「街の誇りを汚す偽物」だと断じ、討伐を急がせる。

次の街でも、ステラと大河は冒険者ギルドへと向かった。ギルドの掲示板には、多くの依頼書が所狭しと貼られている。その中から、ステラが選んだのは、「ライオンの姿をした怪物の討伐」という依頼だった。


「その依頼、我々が貼ったものだ。」


背後から、声が聞こえた。振り向くと、銀色の鎧を身につけた、若き騎士が立っていた。


「君たちのような若者が、街の守り手である我々を助けてくれるのか。」


騎士は、口元に傲慢な笑みを浮かべ、ステラたちを見下すように言った。


「街の紋章でもあるライオンの姿をした怪物が、街の誇りを汚している。見つけ次第、すぐにでも討伐してほしい。」


ステラは、彼の心から発せられる「傲慢」の感情に、かすかな胸の痛みを感じながらも、依頼を受けることにした。


騎士の案内で、二人は街の裏手にある森へと向かった。


「この先に、その怪物がいる。」


騎士がそう告げた場所には、たしかにライオンの姿をしたモンスターがいた。それは、街の紋章に描かれたライオンと酷似しており、威厳に満ちた姿をしていた。 だが、ステラは違和感を覚えた。


「…この子からは、悲しみも、後悔も、憎しみも…何も感じない。」


これまでのモンスターが発していた、心の奥底から湧き出る負の感情が、このライオンからは全く感じられなかったのだ。


「何の話だ? 見ろ、あの醜い偽物を。街の誇りを汚す存在だ。」


騎士はそう言うと、剣を抜き、ライオンに襲いかかった。 ライオンは、騎士の攻撃をただ受け止めるだけで、反撃しようとはしなかった。


「大河、見てきて。」


ステラの指示に、大河は素早くライオンの周りを駆け回り、その様子を探った。 ライオンは、騎士の攻撃を浴び、僅かに傷を負うが、その顔には苦痛の色はない。 大河は、ライオンがただの幻影ではないことを、ステラに伝えた。だが、彼が感じたのは、ライオンの「存在」だけで、心から発せられる感情は、やはり何もなかった。


「なぜだ! なぜ反撃しない!」


騎士は苛立ち、より強力な魔法を剣に込めて、ライオンに振り下ろそうとした。 その時、ステラは、はっきりと理解した。 このモンスターは、人々の負の感情から生まれたものではない。この騎士の「傲慢」が、自分の未熟さを隠すために、都合の良い「偽物」を作り出したのだと。


「やめて!」 ステラは叫び、騎士の前に飛び出した。


「想像の具現化…真実を映し出す鏡!」


彼女の掌から、光の粒が集まり、透明な鏡が具現化された。 鏡は、ライオンではなく、騎士の方に向けられた。


「な…何をする!?」 騎士は動揺するが、鏡は光を放ち、彼の心を映し出した。 鏡に映し出されたのは、威厳に満ちた騎士の姿ではなく、剣の腕も未熟で、街の人々の期待に押しつぶされそうになっている、弱い騎士の姿だった。


「ち、違う! これは…!」


騎士は鏡から目をそむけようとするが、鏡は彼の心の中の「偽り」を容赦なく映し出す。 自身の未熟さを認められない「傲慢さ」が、モンスターを「街の誇りを汚す偽物」だと決めつけ、討伐することで、自分の力を誇示しようとしていたのだ。


騎士の心が揺らいだことで、ライオンのモンスターは、霧のように消えていった。 騎士は、その場に立ち尽くし、自身の傲慢さが生み出したものを見て、顔を赤くしてうつむいた。


「…私の過ちだった。この依頼は、君たちを試すためのものでもなければ、街のためでもなかった。ただ…私の傲慢さを隠すためのものだった…」


騎士はそう言って、深く頭を下げた。


ギルドに戻り、依頼完了の報告をする。騎士は、正直に経緯を話し、報酬を渡した。 ステラは、報酬を受け取りながら、大河にそっと語りかけた。 「ねえ、大河。悲しみや後悔だけじゃない。人間の心そのものが、どれほど複雑で、多くのモンスターを生み出す可能性を秘めているか、少しだけわかった気がする。」 大河は、彼女の言葉を理解するように、静かにうなずいた。


二人は、次の街へと向かう道に、再び踏み出した。 彼らの旅は、人々の心と向き合う、終わりなき旅だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ