第3話「傲慢な騎士と、偽りの怪物」
【あらすじ】冒険者ギルドで、ステラは「ライオンの姿をした怪物の討伐」という依頼を受ける。依頼主は、街を守る騎士団の若きリーダー。現場へ向かうと、そこには街の紋章を持つ、ライオンの姿をしたモンスターがいた。しかし、そのモンスターは、他のモンスターとは違い、悲しみや後悔の感情を全く発していなかった。ステラは違和感を覚えるが、若き騎士はモンスターを「街の誇りを汚す偽物」だと断じ、討伐を急がせる。
次の街でも、ステラと大河は冒険者ギルドへと向かった。ギルドの掲示板には、多くの依頼書が所狭しと貼られている。その中から、ステラが選んだのは、「ライオンの姿をした怪物の討伐」という依頼だった。
「その依頼、我々が貼ったものだ。」
背後から、声が聞こえた。振り向くと、銀色の鎧を身につけた、若き騎士が立っていた。
「君たちのような若者が、街の守り手である我々を助けてくれるのか。」
騎士は、口元に傲慢な笑みを浮かべ、ステラたちを見下すように言った。
「街の紋章でもあるライオンの姿をした怪物が、街の誇りを汚している。見つけ次第、すぐにでも討伐してほしい。」
ステラは、彼の心から発せられる「傲慢」の感情に、かすかな胸の痛みを感じながらも、依頼を受けることにした。
騎士の案内で、二人は街の裏手にある森へと向かった。
「この先に、その怪物がいる。」
騎士がそう告げた場所には、たしかにライオンの姿をしたモンスターがいた。それは、街の紋章に描かれたライオンと酷似しており、威厳に満ちた姿をしていた。 だが、ステラは違和感を覚えた。
「…この子からは、悲しみも、後悔も、憎しみも…何も感じない。」
これまでのモンスターが発していた、心の奥底から湧き出る負の感情が、このライオンからは全く感じられなかったのだ。
「何の話だ? 見ろ、あの醜い偽物を。街の誇りを汚す存在だ。」
騎士はそう言うと、剣を抜き、ライオンに襲いかかった。 ライオンは、騎士の攻撃をただ受け止めるだけで、反撃しようとはしなかった。
「大河、見てきて。」
ステラの指示に、大河は素早くライオンの周りを駆け回り、その様子を探った。 ライオンは、騎士の攻撃を浴び、僅かに傷を負うが、その顔には苦痛の色はない。 大河は、ライオンがただの幻影ではないことを、ステラに伝えた。だが、彼が感じたのは、ライオンの「存在」だけで、心から発せられる感情は、やはり何もなかった。
「なぜだ! なぜ反撃しない!」
騎士は苛立ち、より強力な魔法を剣に込めて、ライオンに振り下ろそうとした。 その時、ステラは、はっきりと理解した。 このモンスターは、人々の負の感情から生まれたものではない。この騎士の「傲慢」が、自分の未熟さを隠すために、都合の良い「偽物」を作り出したのだと。
「やめて!」 ステラは叫び、騎士の前に飛び出した。
「想像の具現化…真実を映し出す鏡!」
彼女の掌から、光の粒が集まり、透明な鏡が具現化された。 鏡は、ライオンではなく、騎士の方に向けられた。
「な…何をする!?」 騎士は動揺するが、鏡は光を放ち、彼の心を映し出した。 鏡に映し出されたのは、威厳に満ちた騎士の姿ではなく、剣の腕も未熟で、街の人々の期待に押しつぶされそうになっている、弱い騎士の姿だった。
「ち、違う! これは…!」
騎士は鏡から目をそむけようとするが、鏡は彼の心の中の「偽り」を容赦なく映し出す。 自身の未熟さを認められない「傲慢さ」が、モンスターを「街の誇りを汚す偽物」だと決めつけ、討伐することで、自分の力を誇示しようとしていたのだ。
騎士の心が揺らいだことで、ライオンのモンスターは、霧のように消えていった。 騎士は、その場に立ち尽くし、自身の傲慢さが生み出したものを見て、顔を赤くしてうつむいた。
「…私の過ちだった。この依頼は、君たちを試すためのものでもなければ、街のためでもなかった。ただ…私の傲慢さを隠すためのものだった…」
騎士はそう言って、深く頭を下げた。
ギルドに戻り、依頼完了の報告をする。騎士は、正直に経緯を話し、報酬を渡した。 ステラは、報酬を受け取りながら、大河にそっと語りかけた。 「ねえ、大河。悲しみや後悔だけじゃない。人間の心そのものが、どれほど複雑で、多くのモンスターを生み出す可能性を秘めているか、少しだけわかった気がする。」 大河は、彼女の言葉を理解するように、静かにうなずいた。
二人は、次の街へと向かう道に、再び踏み出した。 彼らの旅は、人々の心と向き合う、終わりなき旅だった。