第10話「幻惑の森と、大河の過去」
【あらすじ】 追手の存在を警戒しながら旅を続けるステラと大河は、旅の途中で、迷い込んだ者を幻惑し、閉じ込める「幻惑の森」の噂を聞く。その森は、大河の故郷であり、彼が片眼を失った場所でもあった。ステラは、大河の心の傷に向き合い、共に森の幻影を打ち破ろうとする。しかし、森には、大河を呪縛する「後悔」と「無力感」の感情が具現化した、強力なモンスターが潜んでいた。
追手の存在に警戒しながら旅を続けるステラと大河は、人々の噂話から、旅人たちを惑わせ、閉じ込める「幻惑の森」の存在を知った。森に近づくにつれて、大河は明らかに動揺し、警戒心を強めていた。
「大河、この森、知ってるの?」
ステラの問いに、大河は低く唸るだけで何も答えなかった。ステラは、大河の心の奥に眠る、深い傷に気づいた。この森は、彼が片眼を失った場所でもあったのだ。
森の入り口に足を踏み入れた瞬間、ステラと大河は、それぞれの心の中の弱点をつく幻覚を見せられた。 ステラの目の前には、故郷の村人たちが、彼女を罵る幻覚が。
「魔女め!」
「お前なんか、いらない!」
幻覚の声が、彼女の心をかき乱す。 一方、大河は、過去の幻覚に囚われていた。彼は、かつて、誰かを守ろうとして失敗し、彼の目の前でその誰かが傷つけられた、悲劇的な光景を追体験していた。
二人は、幻覚に惑わされ、互いを見失ってしまう。 大河は、幻覚の中で、過去の自分を責め続けた。
(なぜ…なぜ、あの時、俺は何もできなかった…!)
彼の心に渦巻く「後悔」と「無力感」が、幻惑の森の力を増幅させ、より強力なモンスターを具現化させていたのだ。そのモンスターは、大河の心の傷そのものの形をしていた。
ステラは、幻覚に心を奪われそうになるが、大河の存在を思い出し、幻覚を振り払った。
「違う…!私は一人じゃない!」
彼女は、大河のいる場所へと向かう。そこで、大河がモンスターと一人戦っている姿を目にする。 モンスターは、大河の心を蝕むように、幻覚を見せ続けている。大河は、その幻覚に苦しみながらも、必死にモンスターと戦っていた。
「大河、戦っちゃダメ!」
ステラは叫んだ。このモンスターは、大河の心の傷から生まれたもの。力で倒すことはできない。 ステラは、魔法で大河の心を癒すことを決意した。 彼女は、目を閉じ、自分の心に「許し」を想像した。それは、他人を許すだけでなく、自分自身を許すための、温かい光だった。
「大河…過去を、許して…!」
ステラの魔法は、大河の心に深く入り込み、彼の心の傷を温かく包み込んだ。 大河は、過去の自分を許し、心の傷を乗り越えた。彼の心から「後悔」の感情が消えたことで、モンスターは力を失い、悲鳴をあげながら消滅していった。
幻惑の森は、元の静かな森へと戻った。 大河は、ステラに心を開き、彼がかつて、心の魔法を操る一族の守護者であったこと、そして、彼がステラを癒す力を持つ理由を語った。
「…君の魔法は、私たちの力の源でもある。君の心と、深く繋がっているんだ。」
ステラは、自分の魔法の危険性を改めて知り、旅の目的が、より深く、大河の過去と繋がっていることを知った。
二人は、叡智の図書館を目指す旅を、再び開始する。
「ねえ、大河。私たち、ただ力を手に入れるだけじゃない。きっと、この旅の先に、私たちの過去と未来が、待っているんだね。」
大河は、彼女の言葉に、力強く、そして優しく鳴いた。 二人の絆は、より強固なものとなり、彼らの旅は、新たな局面を迎えていた。