神様会議、友情編
この世界のどこか、雲のずっと上。
見晴らしのいい空の上には、「神様たちの会議室」がある。
今朝もそこでは、小さな会議が開かれていた。
テーマは――「あの子に、友達を。」
神様たちは、円卓を囲んで座っていた。
天気をつかさどる青空神さま。
心の動きを読む風の神さま。
過去と未来のページをめくる時の神さま。
そして、机の中央には一枚のスクリーン。
映っているのは、地上のある女の子。名前は咲。中学一年生。
「最近、ひとりでお昼ご飯を食べてるみたいですね」
風の神さまが、さわさわと声を立てながら言った。
「授業中も、わからないことがあっても誰にも聞けないでいます」
青空神さまが空模様のノートをめくる。咲の小さなため息がそこに描かれていた。
時の神さまが静かにうなずいた。
「でも彼女、友達が欲しいと思っている。ただ、どうやって声をかけたらいいかがわからないんだ」
「……なら、出会わせよう」
風の神さまの声がふわっと強まる。「ぴったりの子がいる」
風がはらりとめくったのは、咲の隣のクラスの男の子。名前は凛。
趣味は絵を描くこと。ちょっと口下手だけど、心はとても優しい。
そして、実は咲の絵日記に感動して、こっそり図書室で見ていた子だった。
「この二人、会えば話せる気がするなあ」
青空神さまが、にっこりと雲を曲げて微笑む。
「明日の昼休み。図書室の窓際、咲の好きな本を、凛が手に取るように風を吹かせましょう」
風の神さまの声に、ふわりと空気が動いた。
「そして、咲の筆箱が落ちるようにして…拾ってもらえば、言葉を交わせる」
時の神さまが未来のページを開き、静かに頷いた。
「その時、空から光を差して、背中を押してあげましょう」
青空神さまが、雲の端を晴らした。
こうして、作戦会議は静かに幕を閉じた。
そして次の日。
咲はいつもどおり、一人で図書室へ行った。
でも今日は、誰かが先にその本棚にいた。
「……あ、この本、好きなんだ」
不意に口から出た声に、咲は驚いた。
凛が振り向く。
「ぼくも、です」
沈黙が流れるかと思ったその時。
咲の筆箱が、ぱたんと落ちた。
凛が拾い、手渡す。
「君の絵、すてきだね」
その瞬間、図書室の窓から光が差し込んだ。
空の上では、神様たちがそっと拍手をしていた。
「さあ、ここからは、彼らの物語だ」