表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

喰ってはいけない 第15話「誰かの昨日」

「昨日のこと、覚えてるか?」


久遠の問いに、とうまは目をそらした。


「……何が?」


「放課後、校門のところで話しただろ。おまえ、ずっと空見てて、“もう迎えには来ないんだな”って……」


「……そんなこと、言ってない」


とうまの声は、迷子のようだった。


だが、久遠は確かに聞いた。

とうまが、誰かを待つように空を見上げ、誰にも届かない言葉を呟いたことを。


(あれは……とうまじゃなかったのか?)


その日一日、とうまはおかしかった。

教室で、ふと席を立って黒板の前に立ち尽くした。

誰にも向けられていない目。

何かを思い出そうとして、何も掴めずにいるような沈黙。


「……今日、教室で立ってた時間、覚えてるか?」


「なにそれ。……立ってた?」


「五分以上、動かなかったぞ」


とうまは、黙った。

自分の中で、何かが抜けているのを感じていた。


“昨日のとうま”が、自分じゃなかった気がする。


手にしていたペンの感触が知らないものに思えた。

教科書のページに、小さな文字が書き足されていた。


《 ちがう、わたしは 》


書いた覚えはない。

けれど、文字の曲線は、とうまの指に馴染んだ。


自分の中の“もうひとり”が、昨日を生きたのかもしれない。


久遠は、その沈黙を見つめていた。

何かがとうまをすり抜けている。

何かがとうまを“書き換えている”。


とうまは、自分の胸元をそっと押さえた。


「……最近、“自分”って言葉が遠いんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ