後編
投稿寸前でデータが消えてしまい、何とか書き直しました……( ノД`)…
婚約者候補に加えるとの王太子殿下のお言葉に焦りを感じていたけれど、考えようによってはチャンスなのかもしれない。殿下との交流を通してお姉さまがいかに素晴らしいかアピールして差し上げよう……なんて思って頑張っていたわたしなんですが。
現在、仲良く兄妹3人でお茶をしているところです。おや、お兄さまの顔が青い気がしますねぇ?まあ、なぜ殿下がわたしたち姉妹のことをよくご存知だったのか、まずは確認したいとこの場を設けたわけです。婚約者候補として交流をしてみれば、そんなことも知っているの?ということがあったので。
「悪かったよ。殿下もさすがに婚約者を決めないといけないと困っていてね…以前、僕に妹がいることを思い出されて」
「それで根掘り葉掘り聞かれたと」
「まあ」
お姉さまはかわいらしく驚いていらっしゃるだけだが、わたしは腹立たしい。そこでなぜお姉さまのことを強く勧めなかったのか。
「リュシアの話はおもし……楽しそうに聞いてらした。まさか、婚約者候補に加えられるとは」
あー、はい。面白がられたということですね。ということは女性として見られているわけではないし、何とかなるかな。
「だけど、社交界デビュー後のリュシアの動きには感心していたよ」
「動き?」
何のことだかさっぱりだ。
「もともと義母上がリリアンの評判をさりげなく下げていただろう。それをリュシアがお茶会にも積極的に参加してリリアンの良さを広めてくれた」
「ありがとう、リュシア」
ああ、あのことかと納得した。お礼を言うお姉さまはとても嬉しそう。わたしの母がやらかしたことなのだから責めてくれてもいいのに、本当に人柄の良いお姉さま。当然のことをしただけだから、お礼など不要だ。
「僕も感謝しているんだけど、墓穴を掘ったというべきか……その手腕からリュシアは妃にふさわしいと認識されたようで…婚約者候補から『候補』が外れそうだな、と」
遠慮がちにチラチラと見てくるお兄さまに思わず身を震わせた。
殿下との交流時間の時にお姉さまのアピールを頑張っていたけれど、微笑ましいお顔をされているばかりだった。手応えをイマイチ感じられないと思っていたが、それは正解だったようだ。
『妃にふさわしい』───これは非常によろしくない事態と言える。王族としてそう認識されてしまったら、選ばれてしまう。
「お兄さま!どうしてお姉さまを強く勧めてくださらないのですか!」
「え、でも僕も殿下と同じ見解だし」
「は!?」
「あの…リュシア」
いま正に兄妹喧嘩勃発か?という時におずおずとお姉さまが声をかけてきた。お姉さまをスルーなんてできないので、振り向くと俯きながらも頬を染めた姿がある。
「お姉さま?」
不思議に思って声をかけると意を決したようにお姉さまは顔を上げた。
「実は、気になる方がいるの」
「えっ!?」
その言葉に衝撃を受けてお兄さまは知っていることなのかと見ると、同じく驚いている顔が目に入ってきた。お兄さまもご存知ないようだ。
「お兄さまのご友人のアルバートさまなのだけれど…」
アルバートさまは公爵令息で同じく王太子殿下の側近だ。お兄さまの昔からのご友人で、わたしたち姉妹も仲良くしている。
そこでアルバートさまの容姿が金髪碧眼であることを思い出す。なんだ……お姉さまは物語の王子さまが理想と言いつつ、アルバートさまのことを言っていたのだ。
「リュシアも実はアルバートさまが好きなのではと思ってずっと言えなかったのだけど…」
「!?それはありません!アルバートさまはもう一人のお兄さまみたいなものです」
「そうなの?」
こくこくと頷くとホッと安堵したように微笑むお姉さま。
アルバートさまとは気が合い、いかにお姉さまが素晴らしいかを語り合える仲だ。まさかそんな勘違いをされるとは思いもよらなかった。でも、近しすぎてお姉さまの相手にと思いつかなかったけれど、これは良いことなのでは。
「その、アルバートさまのことが好きだから……殿下とどうかなりたいという願望はないの」
……ですよね。そうなりますよね。ああ、でも!アルバートさまは嫡男なので未来の公爵夫人になるということだ。素晴らしい!
「アルバートも満更でもないと思うよ。僕からアルバートに話して公爵から話を通してもらおうか。父上に話すとどうなるか分からないし」
「そうしましょう!善は急げです」
「いえ、アルバートさまに無理強いは」
「「無理強いじゃない」」
お兄さまとわたしの言葉がついハモってしまった。アルバートさまなら『俺でいいのか!?』と畏れ多いと興奮しそう。なんだ、お姉さまを幸せにしてくれる人はこんなに近くにいたんだ。思わず拍子抜けしてしまった。
これで解決───ではなかった。二人が心配そうにこちらを見ている。
「あとはリュシアの件、だね」
「元凶のお兄さま、何とかしてください」
「あー…努力して、みる…」
なんとも頼りない返事に恨みがましい視線を向けたのは言うまでもない。
───わたしには野望がある。そのためにも早く婚約者候補を降りなければ。
「少し遅れてしまったな。すまない」
本日は殿下との(わたしにとっては)面接の日だ。約束の時間を15分ほど遅れてやってきた殿下はすまなそうに眉を下げた。婚約者候補が5人もいるし、今は特に多忙にも関わらず合間をぬってそれぞれとの時間を30分から1時間ぐらい作ってくれているらしいから仕方のないことだ。
「いえ、お気になさらず……あの、お忙しいようですし、本日はこれにて失礼いた───」
「帰さない」
よく見ると顔色もあまり良くなさそうで、遠慮したほうがいいと判断したのに……挨拶を言い終える前ににっこり微笑んだ殿下に遮られた。
「気遣い不要だ。私の楽しみを奪わないでほしい」
「楽しみですか?」
「君と会うのが最近の楽しみなんでね。座ってくれないか」
ああ、おもしろ枠だったな。遠い目になりそうなのを堪えて微笑むと、渋々座り直した。
「候補たちと会うのは、あと3巡だ。すまないが周囲を納得させるためにも、もう少し付き合ってほしい」
殿下とこうして会うのは2度目だ。ということは、一人に5度の面接があるということだ。
……大丈夫なのだろうか。ただでさえ、こんなにお疲れ気味なのに。せめて時期をずらすなりの対応を───そうだ。
「殿下、わたしとの交流は今回で終了にしてください」
「は?」
「その分身体を休めていただければ」
「却下だ」
なぜだ。殿下はゆっくりできて、交流の途絶えたわたしは婚約者候補から外れたと周囲に判断されるだろう。そうすると野望に向けて動くことができ、まさに一石二鳥なのに。
「楽しみだと言っただろう?……正直に言ってくれて構わない。私の妃になりたくない理由はなんだろうか」
おや、お兄さまから何かしら伝わったのだろうか。だとしたら話が早い。ここはきちんと誠意をもってお話ししよう。
「わたしがセラフィーナさまに憧れていることはご存知かと思いますが…」
「テオドールの母君だな。もちろん聞いている」
「セラフィーナさまの兄君である伯爵さまにはご子息がいらっしゃいまして、こちらもまたご婚約者がいないと伺っています」
「……それが?」
ん?若干、殿下の声が低くなったような。それに表情も少し硬くなっている?
はりきって話し始めたものの、殿下の様子につられて声が小さくなりそうになる。いや、ここはせっかくのチャンスだからきちんと話さねば。
「あの、あわよくばセラフィーナさまコレクションとともにご子息のもとに嫁ぎ、セラフィーナさまの生まれ育ったお屋敷で暮らしていけたらと考えています!」
伯爵子息はお兄さま・お姉さまと従兄弟にあたるため、わたしもお話ししたことが何度もある。さすがはセラフィーナさまの血筋で人柄の良い方だ。これ以上ないと言っていいほどの良い嫁ぎ先と言える。
そう、これがわたしの野望だ。
「………」
「………?」
殿下が急に黙りこんでしまった、と思ったら力が抜けたように笑い始めた。
「ブレなさすぎだ。百歩譲って、その伯爵子息に思いを寄せているというならまだ諦められるが……その理由では受け入れられない」
見ると、殿下はなぜか安堵したような顔をしている。初めて見る表情に思わずマジマジと見つめてしまった。
「あと3度の交流だ。それまでに私が納得できるような理由がない限り、君が妃だ」
「は!?」
「楽しみだな───君が花嫁となる日が」
「お、お待ちください!」
「ああ、今日はこのへんで失礼しよう。次に会うのを楽しみにしている」
不敵に笑いながら去っていく殿下にわたしは青ざめた。このままでは、王太子妃にされてしまう。……いや、諦めるのはまだ早い。あと3度ある面接、それまでに何としても。
───絶対、婚約者候補から逃れてやる!
心から強くそう願った。
書き直すと多少内容が変わりますね……。