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これはささやかな意趣返し(セラフィーナ視点)

リュシアがセラフィーナさまに傾倒する理由がここに…先に番外編を書きたくなってしまいました。






「顔は申し分ないんだがな」


 これが初めて会った時の夫・イグナシオの言葉だった。視線が胸元にあることに気がついて、思わず後ずさりそうになるのを何とか堪えた。一瞬言っている意味が分からなかったが、その視線から察することができて……屈辱に顔が赤くなるのを止めることはできなかった。


「まあ侯爵家にふさわしい妻であれば、それでいい」


 ───女としては期待しない。その言葉どおりにイグナシオは結婚してすぐに、愛人を作った。相手は豊満なスタイルの夫好みの女性だった。愛人は何度か入れ替わっていたようで気にしないようにしていたけれど、二人目の子どもを産んだ頃に雲行きが変わる。

 一人の令嬢に夢中になり、別邸を与えたのだ。侯爵家に仕える使用人も何人か別邸に回され、その中にはイグナシオに嫁いでからよく尽くしてくれたマチルダも含まれた。


「セラフィーナさま、どうぞお元気で」


 別邸に移る際、マチルダは律儀に挨拶に来てくれた。まるで何か覚悟を決めたような顔は、イグナシオに諫言するつもりなのだろうことが分かる。有能な彼女だから別邸に引き抜かれただろうに、と思わず苦笑した。優秀なだけでなく優しさも持ち合わせているから、妻なのに愛されるどころか大事にされないことに憤慨してくれているのだろう。

 でも、それはだめだ。それより彼女にはお願いしたいことがある。


「マチルダにお願いがあるの。」

「はい、何でございましょう?」

「旦那さまには従順でいてほしいの」


 途端にマチルダの目が驚きで見開かれた。信じられない言葉を聞いたとばかりに、唇を引き結んでいる。


「なぜでございますか?」

「おそらくなんだけれど……今の愛人には子どもができたんじゃないかと思うの」

「!?」


 そう、ただの勘ではあるのだけど…きっと今の愛人には子どもができている。今は出産に備えて準備をしているのではないだろうか。


「そう思われるのでしたら、なぜ!」

「いずれ、その子に会わせてもらいたいの。もちろん、夫には内緒で。ああ、危害を加える気はないわ」

「なぜ…」


 意図が読めずに思わず呆然と呟いたマチルダはハッとして目を伏せた。理由を知ろうとしたことをおこがましいと思ったのだろう。


「お優しい奥様のことは信じております。そのお役目、承りました」




 ───それから3年ほどの月日が流れた。別邸に住む愛人のデリラが留守にするたびにマチルダが連絡をくれ、都合が良ければ顔を出しに行っていた。目的はイグナシオとデリラの間に生まれた娘のリュシアに会うためだ。

 リュシアは白金プラチナブロンドに空色の瞳を持った、イグナシオと同じ色を持つ愛らしい女の子だった。その色から見た目だけで言うならば、リリアンよりもとテオドールと兄妹と言うほうがしっくりくるだろう。


「ようせいのじょおうさま!」


 会うたびに嬉しそうに出迎えてくれるリュシアは、いつのまにか愛しく思える存在になっていた。今日も来るなり駆けてきて、ドレスの裾をぎゅっと掴んでいる。どうやら彼女にとっては妖精の女王という存在になっているらしく、驚くほどに懐かれた。

 デリラはイグナシオの愛を求めるのに忙しく、可愛がってはいるらしいがあまりリュシアを構えていないらしい。おかげでこちらが頻繁に訪れることができているのだけれど、寂しそうにしているリュシアを哀れに思う。


「おはなし、してくれる?」

「そうね、どんなお話がいいかな」


 目線を合わせるために身を屈ませると、嬉しそうに笑う。本当に愛らしくて、近くに控えているマチルダも表情が柔らかいものになっている。

 存外楽しいひとときだったが、それも今日が最後になると思う。というのも最近は少し歩くのも息苦しくなるほどこの身を病が蝕んでおり、外出も厳しくなってきたのだ。

 この身が天に召されたとき、イグナシオはきっとデリラを後妻に迎えるだろう。イグナシオによく似たテオドールはともかく、前妻そっくりなリリアンが丁重に扱われるとは思えない。


 ───ああ、どうか。幼いあなたの記憶の片隅に住まわせて。そして、リリアンの味方になってほしい。


 心からそう願いながら、まるで星が消えゆくように最後の物語を紡ぎ始めた。






リュシアはセラフィーナに会ったことを憶えていませんが、記憶のどこかにガッツリ残っているという。何だかこれを書いて満足してしまいました…(^_^;)

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