中編
いやー、こんなストレス解消を読んでくださる方がいらっしゃってて感謝です。
「リュシア、どうかしら?似合ってる?」
社交界デビュー当日、お姉さまは着飾った姿を真っ先に見せにきてくれた。恥じらってる姿が尊い……。
わたしの目からは滝のように涙が流れた。もう一度言おう。ホロリとではない。滝だ。
「す、す、素敵すぎます!お姉さま!!!」
セラフィーナさまに直接お会いすることは叶わなかったけれど、同じ清楚な美しさを持つお姉さまをこうして間近に見られる喜び…。白いドレスはお姉さまにぴったりでまるで妖精のよう。お姉さまの妹に産まれられたことだけはあの両親に感謝しよう。
「ありがとう。リュシアもとてもきれいね!でも私もリュシアの半分でいいから、もう少し女性らしいスタイルになりたかったなあ…」
お姉さまが自分の胸元を寂しそうに見て溜め息をついている。思わず顔が引きつりそうになった。
お姉さまはご自分の価値がお分かりでないのだ。顔はともかく、妖艶という表現がふさわしい母からしっかり受け継いでしまったこの身体は確かに男性の受けがいいと思う。でもわたしは母と違って童顔だ。アンバランスでお姉さまと違って清楚なんて言葉をもらえることは決してない。
「お姉さまは妖精のようなお姿が素晴らしいのです!セラフィーナさまによく似たお姿…尊すぎます。きっと素敵な殿方がお姉さまを見初めてくださいますからっ」
デビュタントのわたしたちは王太子殿下が全員のダンスの相手をしてくださるそうだ………わたしの分もお姉さまのお相手願えないだろうか。まだご婚約者がいらっしゃらない殿下にはぜひともお姉さまを選んでいただきたい。
お姉さまが王太子妃で、ゆくゆくは王妃……想像しただけで大興奮だ。
「リュシア……」
お姉さまの目が潤み始めた。また何か自分のことを悪く考えているのではと焦ってしまう。あの両親のせいでお姉さまは自己肯定感が低いのだ。
「ありがとう、社交界デビューは諦めていたの。教養を身につけることができたのもリュシアのおかげだし、本当に感謝しかないわ」
またそんなことを言って……もともとすべてお姉さまが享受すべきものなのだから、感謝などしなくていいのに。感謝するのはわたしのほうだ。
「もう、お姉さまったら。それより!お姉さまの好みの男性を教えてください」
つられて潤みそうになるのを堪えて、おどけて見せた。ちゃっかり重要情報を聞き出すことは忘れない。
「え、好みの男性?」
戸惑うお姉さまに深く頷く。たとえば王太子殿下とか、王太子殿下とかどうでしょう?期待して見ると、頬を染めたお姉さまが目に入った。なんて愛らしい。
「……笑わないでね。昔読んだ物語の王子様に憧れていて─」
これは返事に期待できるかも!ワクワクしながら聞いていると。
「金髪碧眼で」
ん?
「中性的なお顔立ちがいいわ」
んー?え、容姿にいく!?わたしは瞬時に王太子殿下の容姿の情報を思い浮かべて───がっかりした。王太子殿下にあてはまらない。
いや、殿下とダンスしたら気が変わるかも!まだチャンスはある。
「お嬢様がた、そろそろ時間で」
乳母であり、今はわたし付きの侍女をしてくれているマチルダが嬉しそうに声をかけてきたと思ったら、わたしの顔を見て目を見開いた。
「リュシアさま!なんというひどいお顔ですか!」
あ、さっき滝の涙を流したから!そんなひどい?
「急いで直しますよ!」
「はーい」
お姉さまのお婿さん探し(もちろん、第一候補は王太子殿下)のスタートだもの。完璧にしなくてはね。マチルダに引きずられながらニヤニヤが止まらなかった。
王宮での社交界デビュー。国王陛下からのお言葉を賜り、いよいよダンスと貴族たちとの交流が始まる。お姉さまと王太子であるフェルディナンド殿下のダンスは誰もが見とれ、婚約者候補になりうるのでは、とひそやかなざわめきが起きた。
もっと言って!わたしもダンスしながらお姉さまの良さをアピールしておこうと、意気込んで順番を待っていたら、その時はやってきた。
黒髪に王族特有の金色の瞳をお持ちで、精悍な美貌の持ち主───フェルディナンド殿下。お姉さまの好みにはあてはまらないんだけど、ダンスをしている時は本当に楽しそうだったから期待したい。
「君が噂の『姉を全力で推す妹』か」
殿下とのダンスは踊りやすいなと感心していると、向こうから話しかけてきてくれた。楽しそうだが、内容は明らかにおかしい。お兄さまは殿下の側近だから仲がいいのかもしれないが……何を話しているんだ、兄よ!しかし、これはチャンス!
「はい、テオドール兄さまとリリアン姉さまの妹にございます」
「テオドールから話を聞いて、会うのを楽しみにしていたよ」
グッジョブお兄さま!ちゃんとお姉さまを売り込んでくださっていたなら、わたしをネタにしたことは許す。
「君を婚約者候補に考えている」
───え?
「そ、それは姉妹揃って候補ということでしょうか?」
「いや、君だけだが」
えええええ!?!?!?
「今後の交流を楽しみにしているよ」
ダンスを終えると、呆然とするわたしを置いて殿下はにこやかに去っていった。
これは恋愛のカテゴリーにならないのでは( ̄□ ̄;)!!