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前編

いやー、変わった主人公ですが……いいストレス解消です(笑)






  ───幼い頃、たまたま入り込んだ部屋にひっそり飾られていた肖像画を見た衝撃は今も忘れられない。心が震えるというのはこういうことを言うのだろう。ひとりの美しい女性が儚げに微笑んでいるその姿は、まさに天使でもあり妖精のようだった。




「ああ、セラフィーナさま!今日もその美しさを堪能させていただきますぅ~!!!」


 物置と化している部屋にこっそりと忍び込んだわたしの目に映るもの。興奮して壁にかけられている一人の女性…セラフィーナさまの絵の前で思わずお祈りするかのようにうっとりしながら手を組んだ。

 両親の目をごまかすため入ってすぐは物置としか見えない状態にしているが、奥まったところにはセラフィーナさまが描かれた肖像画が何点か、セラフィーナさまが使われたというアクセサリーが何点か、セラフィーナさまのお気に入りだというティーカップが……。


「はぁ、またここに来てるのか……」


 深く溜息をつきながら、呆れた声を出す若い男性が背後からやってきた。


「お兄さま」

「……増えてるね」


 若い男性───テオドールお兄さまは侯爵であるお父さまの前妻・セラフィーナさまの息子であり、わたしにとっては母親違いの兄である。

 お兄さまがコレクションを見て何やら呟いているけれど、それが何か?屋敷の皆さんは協力的なので、整理などをした際にしまいこまれているセラフィーナさまゆかりの品物を見つけるとコッソリ持ってきてくれるのだ。


「うっ……いいではありませんか!お兄さまとお姉さまはれっきとしたセラフィーナさまのお子さま…わたしなんて一滴の血も入ってないのですよ!!!ああ、どうしてわたしもセラフィーナさまの娘に産まれなかったのかしら……」

「……君の母親が聞いたら卒倒しそうだ」


 そう何を隠そう、わたしが日々崇め奉っているのは父の前妻であるセラフィーナさまである。初めて肖像画を目にした時は気絶するかと思ったほどだ。はあ、生きている時にお会いしたかった…。


 そしてわたしには姉もいる。兄と同じくセラフィーナさまのお子さまで……なんと!セラフィーナさまにそっくりの美貌の持ち主だ。わたしとはひとつ違い。まあ父はあれだ。控えめに言ってもゲスな男だ。セラフィーナさまが亡くなる前にわたしの母と関係を持っていたので、年が離れていないのだ。


 亡くなった前妻がよくある政略結婚の相手だった父は、これまたよくある話ですぐに後妻として、すでに子まで生した自分好みの女を迎え入れた。それがわたしの母だ。

 まあ、確かに母は美人だろう。男爵令嬢でありながら、侯爵の父に見初められるぐらいには。まあ父は巨乳好きだから、そこも多分にあるかと…。そして母の娘であるわたしを母はもちろん、父もこの上なく溺愛している。

 こんな中でまともな感覚に育ったのは乳母と執事長のおかげといえよう。感謝しかない。


「リュシアはヒマさえあればこの部屋にいるからね…。まずこの部屋から捜すようにしている」


 苦笑する兄はわたしに来客が来ていることを教えてくれた。なるほど、だからこの部屋に来たんだ。このお宝部屋は実の子であるお兄さまやお姉さまより圧倒的にわたしが来ることが多いからね。


「来客って…あ、社交界デビューのドレスの打ち合わせね!お姉さまに似合うデザインをしっかり吟味しなきゃ!」

「いや、リュシアもだよ?」

「ついでにね」


 口をパクつかせながら、やがて諦めたようにお兄さまはわたしの頭を撫でた。


「僕にとってはリュシア…君もかわいい妹だ。ちゃんと自分のドレスも考えるんだよ?」

「あ、ありがとうございます」


 あんな性悪女の娘なのにお姉さまと同じように大事にしてくれる兄…ありがたすぎる。

 

「礼を言うのは僕のほうだ。君のおかげでリリアンも社交界デビューさせてやれる」


 兄の言葉にイヤなことを思い出した。

 我が国の貴族は16歳になる年に社交界デビューをするのが普通なのだが、姉は昨年デビューのはずがさせてもらえなかったのだ。

 不覚だった。れっきとした侯爵家長女なのだ。母はともかく、父は面目を保つためにも用意するだろうと思っていたのに何もしていなかった。お姉さまの身体が弱いということにして。


「本当にふざけた夫婦だわ……」


 お姉さまがお父さまの愛人の娘などというものであれば、お母さまが快く思わないのは分かるし、百歩譲ってイビりたくもなるだろう。だが実際はむしろ……母はセラフィーナさまがご存命の時からお父さまと……。


 お父さまによく似たお兄さまは大切にされているが、セラフィーナさまによく似た娘に興味がないお父さまと前妻の娘が気に入らないお母さま。二人の間に産まれたわたしには格別に甘いのが幸いだった。これを利用せずして何としよう。


『社交界なんて興味がないの。お姉さまはデビューしなくて良かったんでしょ?そんなのズルい!わたしもデビューしませんから』


 あの時の二人の歪んだ顔はなかなかに面白かった。昨年の社交界デビューに関しては遅れをとったものの、これまでもわたしのワガママと称してあの二人にはアレコレお姉さまのために動いてもらってたけどね。


「セラフィーナさま、お姉さまはきっと幸せにしてみますからご安心くださいませ!」


 お姉さまの幸せは今のままでは得られることはない。だからこそ社交界デビューがチャンスだと思う。とびっきりの男性を見つけて、さっさと結婚してもらうのだ。

 できれば…できればだ。王太子さまには未だ婚約者がいらっしゃらないと聞く。お兄様からの情報だと素晴らしい方のようだし、お姉さまが見初められたら最高じゃないか。


 そのためにもとびっきりのドレスをお姉さまに仕立てなくては!

 わたしは喜び勇んでお宝という名のセラフィーナさまルームを後にしたのだった。






読んでくださってありがとうございました。

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