近いです!
建国記念日の祝賀祭が始まる。
私はリノーアが選んだ緑色のドレスに身を包んだ。
この1ヶ月は目まぐるしく、この世界で生きていくために必要なマナーや歴史を学んだ。
だが、1ヶ月でどれほど覚えられるのかといえば、見ていておかしくない程度。
緊張の糸を解けば、詰め込んだ知識が溢れてしまいそうだった。
揺れる馬車の中で、何度も何度も今日の挨拶を繰り返した。
(今日一日を乗り越えるだけならなんとか…!)
ぎゅっと瞑った目を開くと、エリオル王子の顔が間近にあって思わず叫んだ。
「きゃあ!?び、びっくりさせないで下さい!?」
「君は本当に面白いな」
「からかわないでくださいませ!今必死なんですから!」
王様への挨拶や、貴族に声をかけられた時の言葉、入室の順番まで多岐に亘る事柄を反芻していた。
「顔が強張っているぞ。他でもない、僕がエスコートするのだ。僕を大いに活用したら良いじゃないか。それに」
ふんわりと手を取って口元に寄せられた。
「君は努力しただろう?」
顔が熱くなる。
「い、生きていくのに必死なんです!」
耳までどくどくと脈打つ私の顔を見てエリオル王子は悪戯っぽく微笑んだ。
「…君とカリンの違いはそこだよな…」
「…え?」
「いや、すまない。誰かと比較するのは良くなかった。だが…」
((カリンを妻にするのはごめんだ))
「え?…あ…」
「僕の心の声が聞こえるかい。別に構わないが…」
((まずいな))
「祝賀祭までに何とかしないと、まずいだろう」
「人が多いからですか」
「それもあるがね、社交界だからな」
((色々と余計なことが聞こえるだろう))
「…なるほど…でも、どうしたら良いのかわかりません」
「困ったね」
((馬車を停めるか、水でも飲ませるか、時間が解決するのか…だが時間があまりないな…胃薬くらいしか持っていないし…いやそもそも薬が効くのか?))
「ぷっ…」
堪えきれず、つい笑ってしまった。
「あ、ごめんなさい」
「おい、僕は心配しているのだぞ」
((何を笑うことがある))
「いえ、色々と考えてくださってありがとうございます。なぜ、私にそこまで?と思うと可笑しくて」
「何か変か」
「変ですとも。こんな地味な異世界の女」
「自分をそんなふうに言うのはやめてくれないか」
「あら、黄色い薔薇を贈ったのは王太子様じゃありませんか」
黄色い薔薇の意味は、友情。
王子は黙した。
((人の気持ちは変わるものだろう。僕は気になって仕方が……))
「王太子様?」
ハテナが3つぐらい浮かんだ。
「…もう、心の声は聞こえないのかい?」
「聞こえなく…なりました…」
「それは残念だ」
意地悪っぽく笑ったエリオル王子は
「ふむ…」
と考え込んだきり、それから王宮まで一言も話さなかった。
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