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花梨とグノーシス伯爵

グノーシス・トノール辺境伯爵、またの名をヒグマ伯爵。


彼はその逞しい体躯と雄々しい髭、恐ろしげな顔の傷跡と面相で社交界では恐れられていた。


「本日の晩餐では軽めのシャンパンでも召し上がりますか」

「むぅ…儂は…りんごジュースが良いのだが…」

グノーシス伯爵は、給仕の提案をモゴモゴと断ると、花梨の今後を慮り、したためた王宮への書状にゆっくりとサインをした。


眼鏡をはずして目頭を抑えつつ、執事へ書状を手渡す。

「カリンはどうしているね」


書状を受け取りつつ執事は答える。

「相変わらずです。もう1ヶ月が経とうというのに、部屋から出たがりません。侍女からはなんだか変な要求も多いと聞いております。一応はマナー講師を呼んでいますが、真面目に習っているとは到底思えないそうです」

「…そうか…。今日の晩餐へは来てくれるかね?」

「一応聞いてみますが…彼女は…」

「だが、明日は建国記念の祝賀祭だ。そこでカリンとユーナを紹介するのだから…今日くらいは顔を合わせてカリンと話がしたいものだが…」

それは花梨も分かっているはずだった。


「…あの愛らしい娘は、この世界では生きていけぬ…」

グノーシス伯爵の独り言は虚しく霧散した。


ヒグマ伯爵とも言われ恐れられている、この城の主人は、美しく並べられたカトラリーを眺めながら、石に変じた自身の指輪を撫でた。


その様子があんまりちみちみとしているので給仕は溜息混じり聞く。

「いじけてらっしゃる…」

「いや、違うのだ、そうじゃないが…」

「もう、召し上がったらどうです。カリン様の分はお部屋にお持ちしますから」

言ったところで扉が開いた。


背を丸め、下を向き入室したのは他ならぬ花梨だった。


「おお…カリン…心配したのだ…ぞ…」


グノーシス伯爵は言葉に詰まった。

美しい色合いだった髪は茶色く変色し、根元は黒い毛が覗いている。

毛先の艶が失われ、まるで藁のようだった。


「カリン…本当にカリンなのか…」


ようやっと伯爵を見た花梨の容貌は初めて出会った時の愛らしさが失われていた。

瞼は赤く腫れ、眉毛もなく、肌はニキビが覆っていたのだ。


「…この世界のシャンプーもオイルも合わなくて。ギシギシよ」


合わないのではなく、毎週のように美容院でメンテナンスをすることができなかったからであるのは花梨にもよく分かっていた。

カラーは色落ちし、パーマは縮れていた。

根本は所謂プリンである。


「コンタクトの保存液もないし、ノリもハサミも二重テープもない。最悪」

「保存というのは、何か保存するのか…?それからノリとテープ…ならあったじゃろ…机の引き出しに」


この世界と花梨とはメイクの概念が違いすぎた。

多くの注文に侍女は困惑し、また日に日に目に見えて以前の自分を保てない事に花梨は焦った。

それでも侍女はできる限り手を尽くしたのだ。

椿のオイルと南の国から取り寄せた藻塩を混ぜたシャンプーやオリーブから抽出したオイルを髪に馴染ませもした。

しかし、湯に入れる度に髪はぎしぎしとしていった。


そしてあろうことか、花梨は何度も瞼に文房具のりやテープを貼っては剥がして、その瞼は赤く腫れ上がり爛れてしまった。

侍女はその姿に狂気を感じ、狼狽えた。


「…工作のようだわ…」

と数人いた侍女の誰かが言うのを聞いて、花梨はようやくその手を止めたのだ。

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