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グノーシスの楽しい日々 (2)

グノーシス・トノール、29歳



恥ずかしながら、


恋をしております。




グノーシスが爵位を継承して一年。

領地は驚くほど安定した。

トノール家への税収はかなり減ったが、グノーシスと次男、使用人への給料諸々を考えても余るほど金はあった。


家族は亡くなったが、今までの使用人を継続して雇っている。


経緯はこうだ。

家族がグノーシスに対して冷たく当たっていたので、使用人もこそこそとグノーシスの陰口を言ったり、彼が優しいのを良いことに使用人の失敗をグノーシスに擦りつけたりしていたのだが

落石事故でトノール伯爵初め、その夫人、そして長男と長女が一気に亡くなってしまった。

使用人達はてっきり次男が爵位を継ぐものだと思っていたが、グノーシスにあっさりと爵位を譲ってしまったのだ。

使用人達は皆次男について行こうと思ったが、次男が住むことになる別邸にも沢山の使用人がいた。


グノーシスが伯爵になれば、自分達はクビになるだろうと思っていた使用人達は再就職先を探すのに必死だったが、件の落石騒ぎの後、宝石は石のままだと分かり、どこも人を雇う余裕などなかった。

新しい働き口は見つからず、使用人達はグノーシスに泣きついた。


出ていかなければならないのは重々承知しております、せめて次の働き口が見つかるまで雇って頂けませんでしょうか…と、そう聞かれたがグノーシスは使用人達が出ていく意味がわからなかったので継続して雇う意思を伝えた。

正直、グノーシス一人には多すぎる使用人だったが、雇用を維持するのもまた領主の務めと考え全員辞めずに一年が過ぎたのだ。


結局、領地が安定し雇用が拡大した今も誰一人欠けることなく働いている。



グノーシスはこの一年、懸命に領主としての役割を果たした。むしろ完璧にこなしたと言える。


そんなグノーシスは女っ気のない人生を送っていたので、次男が結婚した暁には、その子どもに爵位を譲るのだろうななどとぼんやり考えていた。


縁談話しがあるにはあったが、グノーシスを見るや断りの連絡が入った。

毛深いグノーシスは顔の傷も相まってヒグマ伯爵と呼ばれる様になる。

だから、自分には縁遠い話だと何の疑問も持たずにいた。



ある日、王宮から至急登城せよとお達しがあり、馬車を走らせた。


議長が、

泉から聖女が現れたのだ、それも二人などと宣っている。


何を馬鹿な、どこぞの国の女が不法入国したのだろう、とグノーシスは思った。

しかし、その二人を見つけたのはエリオル王太子だった。


グノーシスは産まれて初めて怒りを覚えた。

ティアナは一体何をしたのだ?あの落石事故に巻き込まれた家族が不憫ではないか。

血が逆流した様に感じて卒倒しそうになる。


国王陛下直々に聖女が紹介された。

こちらがユーナ、そう言って黒髪の女性を指した。


そして、カリンだ。そう言って国王がカリンを前に出る様促した。


現れたカリンという女性を見るやグノーシスは恋に落ちた。


天使が舞い降りたかと思った。

なんと美しく愛らしく可憐なのだろうと目が離せなかった。

まるでこの世のものとは思えない。


しかも、国王陛下はカリンの後見人にグノーシスを指定した。

この一年の目覚ましい活躍ぶりを買ってのことだった。



カリンはよろしくと言ってにっこり笑うではないか。

グノーシスはすっかり心臓を撃ち抜かれた気分だった。

天にも舞い上がる気持ちとはこのことか、今なら妹の気持ちが理解できる。

そんな風に思っていた。


妹の形見、石と化した指輪の宝石をそっと撫でた。

婚約の際相手方から渡されたものだ。

この石が宝石に戻る時、恋が成就するようにグノーシスは願掛けの様な事をした。



この二人のどちらかがエリオルの妻となろう、国王陛下がそう言ったので、グノーシスの高揚した気分は一気に地に叩きつけられた。


エリオル王太子相手に自分が敵うわけもない。


所詮叶わぬ恋なのだ。


いや、待て二人のどちらかならば、エリオル王太子がユーナを選べば良いのだ。


グノーシスは今まで人を騙したことも嘘をついたこともなかったが恋はグノーシスを盲目にさせた。


カリンが持っていた携帯用の着火器具を見て思いついてしまった。

グノーシスの知識の広さ、応用力は総動員されカリンに嘘をついた。


聖女は自然の力を操るので、その着火具で火を操る様に見せてはどうか、と。


当然そんな嘘はすぐにバレてしまうのだが、その後カリンとグノーシスの関係がこじれることまでは考えていなかった。


ただ、火を操るのは魔族の証であるから王太子はカリンを選ばないだろう、

着火器具であれば魔族ではないとすぐに分かることだし、

偽証とはいえ聖女候補相手にそこまで責められないだろう、

筋書きはそれだけだった。



国王陛下も王太子もカリンも散々グノーシスに問いただしたが、未だうまい説明が出来ずにいる。

結局カリンはその後部屋に篭って一カ月出てこなかった。


後から聞いたカリンの話によると、その一カ月で精霊と話せる様になり、その精霊から色んな事を聞いたらしい。


久しぶりに会うカリンは別人の様に変わっていたが、グノーシスの中で始まった恋は加速するばかり。

艶やかな髪が失われてもカリンを構成するものは何一つ変わっていないのだ。

瞼が腫れあがっていたのも、何とか自身の美貌を維持しようと努力したのだと聞いて意地らしく思った。


カリンが我が城にいるのだと思うだけでスキップしたい気持ちだ。

ほの甘いこの感情はいつだってカリンへ向いている。

世界は色づき、心の花は綻び、鳥が飛び交う空に口笛を吹いた。



ある日カリンにおっさんと不意に呼ばれた。

そこまで年齢はいっていないがなあと思い悩みながらも、気持ちを打ち明けられず、ただカリンと暮らす日常が愛おしくてたまらない今日この頃なのだ。

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