目を覚まして
爽やかな風が頬を撫でて目を開ける。
眩しい―布団を頭まで被った。
(あれ、今何時!?)
がばっと勢いよくベッドから起き上がると、見慣れない豪華な調度品の数々が目に飛び込んだ。
(なに、これ……あ、そうか夢じゃない)
「ユーナ様!?目を覚まされたので!?んもう、心配したんですよう?今医師を呼んで参りますね!」
長身のメイド、リノーアが一息に言い切ると部屋を出ていった。
(ああ、せめて、夢であってほしかった。)
「夢、どこから夢だったらよかったのかな…」
目から涙がこぼれ落ちたけど、それは声が出せることへの安堵なのか、悲観的になった自分を惨めに思ったからなのかは分からなかった。
リノーアの話によると三日三晩寝続けたそうで、医師からは1週間ほど様子を見る様に言われた。
薬を盛られたのかどうかということは教えてくれなかった。
「私が運んだもの以外は口になさいますな」
冗談なのか本気なのかリノーアからそう言われた。
(私よりも年下なんだろうな)
そのメイドはきびきび動く。
部屋の扉がノックされリノーアが応対する。
「やあ、ユーナ。目を覚ましたと聞いてね」
この城の主、眩い銀髪と優しそうな笑顔。
アランロルド・セイレス伯爵。
私の後見人を買って出てくれた。
なんでも、聖女になるにしろなれないにしろ、王太子の婚約者になるにしろならないにしろ異世界からこの世界に飛ばされた―漂流者というらしい―者は後見人がいるのだとか。
(まあ、それはそうよね。異世界から来て素性がしっかりしていない人がその辺で好き勝手してて良いはずないものね)
「ご心配とご迷惑をおかけして―」
「君は悪くないのだから、謝るんじゃないよ」
(ああ、やはり"盛られた"のね)
私は悟ってしまった。
意外とショックではなかったのが不思議で、でも…ここまでされたのなら私も最大限警戒しなければならなくなった。
「あの、伯爵。実はお伝えしたいことがあるのです」
「うん?なにかな?」
「花梨のあれは…」
「彼女の手から出現した火のことかな」
伯爵も後見人としてあの会議室に居たのだ。
「はい…」
「いや、驚いたよ…まさか自分で自分の首を絞める様な真似を…グノーシスは知っていてやらせたのか…?」
グノーシス・トノール辺境伯爵は花梨の後見人だ。
「どういうことです?」
「君の世界でどうか知らんが…いや、まず先に確認させてほしい。君は炎を操れはしないかい?」
「いえ。全く」
(花梨だってそうだ。あれは―)
「誓ってそうだね?」
「はい。今は何もできません」
「聖女の力は自然を操るものだ。今後君の力が覚醒して何か幻術を使えるかもしれん。が…」
伯爵は言いにくそうに言葉を選んでいる様だった。
「うむ、試す様な言い方になってすまなかった。そして君を疑って悪かった。万が一ということもあってね。君が炎を操れないということは信用するよ」
「伯爵…何を?」
「君の世界でどうか知らんがな、この世界で炎が操れるというのは…魔族なのだよ」
「…え?」
あの会議室の冷ややかな視線の正体はまさか優奈も魔族なのかという、それだったのだ。
知らずに花梨は炎を自信満々披露した。
知らなかったか、あるいは唆されたか。
「ち、違うのです伯爵!花梨は魔族などではないのです!花梨の炎は…」
(…私は何を必死に花梨を庇っているんだろう?でも―)
「あれは、ライターという着火器具です。この世界では手で覆い隠せる様な小型の着火具は見ませんが、私たちの世界では手で隠せるほどの小ささのものがあるのです」
花梨がビューラーに使っていたライター。ポケットにでも入っていたのだろう。
私たちはバッグ一つ持っていなかったのだから。
「ほう。それは興味深いな。しかし、彼女が魔族でないのなら、それはそれで立派な偽証になるからな。ただでは済まないだろう」
「花梨はどうなるのですか!?」
伯爵は大きな目をさらに丸くして言った。
「君が彼女の心配をするかね?いや、だからこそ私は君を受け入れたんだが。まあ、今頃そのことについて話し合っているところさ。」
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