花梨の力
花梨は怯えていた。
誰のことも信じられない。
帰りの馬車の中、ぐうぐうと寝息を立てるグノーシス伯爵を見る。
【ねえねえ、カリン】
【止めなよ、また怒られるよ?】
【グノーシスのやつ、寝てやんの】
(うるさい…)
耳の周りでしょっちゅう声が聞こえる。
煩わしくて鬱陶しくてイライラする。
お陰で全然眠れず、ニキビだらけになってしまった。
だが、私自身の力である精霊だけが、この世界で信用できる唯一の存在なのもまた事実だ。
始まりは、ライターで火をつけた日の夜。
国王には散々質問され、グノーシスにも散々質問した。
何も知らない異世界の女を唆し、何が目的だったのか。
貴族や王族のつまらない掛け合いなのかよく分からないが、私は巻き込まれたんだと思った。
(何も知らないからって馬鹿にしやがって)
グノーシス伯爵から用意された部屋の中でその夜、一人ぽつんと蝋燭に灯った火を見た。
それは突然のことだった。
【グノーシス、相変わらず怖い顔してたね】
(ついに幻聴が聞こえ始めた)
【また聖女がやってきたね】
【二人いたよね】
(うるさいな…)
ボソボソ
【さっきのスープ美味しそうだったなあ】
【この子、カリンとか呼ばれてたね】
【なんか怖そう】
ボソボソ
「え、ねえ、誰?」
幻聴の割にははっきりと聞こえる。
【なになに、何だいきなり】
「いきなりじゃないわよ、さっきからボソボソうるさいわよ!誰かいるの?」
【え?まさか聞こえてる?】
【そんな訳ないでしょ】
【僕達の声が聞こえる訳ないんだから】
「その"僕達の声"が聞こえるから言ってるのよ!」
【げ!】
「げ!じゃない。なんなの、出てきなさい」
【うわあ、本当に聴こえてるっぽい…】
【どうする?】
「どうするじゃないわよ!姿を見せなさい!」
【あのー、えっと、カリンだっけ?僕達は、その…姿というか実体がないんだ。へへへ…】
「はあ!?何ふざけたこと言ってるの!さては泥棒ね!?どこに隠れてるの!?」
私はそこここを調べまわった。
だが、まるで何人もいるような声がするのに物音はひとつとしてしない。
【カリン、もうやめよーよ】
「うるさい!絶対見つけ出す!」
小一時間は探したと思う。
その間もずーっと耳元で声がする。
【困ったなあ…枕の下まで探してるよ?】
【カリンは聖女だから僕達の言葉が聞こえるんだね。ちゃんと自己紹介するから聞いてくれる?】
そうして、ようやく探す手を止めた。
【僕達は人間達に、精霊と呼ばれている者です】
【あ、達って言うのも変だけど】
【者って言うのも変だよね】
【僕達はたくさんの様で一つだし、一つの様でたくさんだから】
「いや、意味わからんし」
【僕達は簡単に言えば粒子だよ。世界は僕達で構成されてると言っても過言じゃないね】
【どこにでも存在するし、100キロ離れた精霊も同じ僕さ】
【意識を共有しあってる】
「はい、じゃあ自己紹介終わりね?出てって?」
【いやー、それは出来ない相談だなあ】
【僕達はどこにでも存在しているけど、裏を返せば不在の場所というのはないから】
【君の友達の所にもいるよ】
「こわ…やだー…」
両手を口に当てて、ドン引きした。
【うーん、普通の人には聴こえないんだけどな】
【今までの聖女でいた?僕達の声が聞こえる人って】
【いないよねえ】
「今までの聖女を知ってるの!?」
【うん、全員見てきたね】
【僕達は宇宙ができた時から今までずーっといるからね】
「は?おじいちゃんじゃん」
【うーん、僕達には性別も時間の概念もないから、おじいちゃんってのもちょっと違うなあ】
「あ、そー。で、そのうるさい声、ずっと聞こえるの?」
【えー、僕達喋るよ?聖女の力が覚醒したなら一生聞こえるんじゃないかなあ。僕達は嬉しいよ!ねえ、一緒にお喋りし…】
「はあ!?冗談じゃないわ!とっとと元の世界に戻ってやる!」
【え…カリン。聖女は元の世界に帰れないよ】
こうして私は、精霊達から色んな話を聞いて、一つの結論に達したのだ。
"絶対に協力できない"
(なんか知らないけど、馬鹿みたいに優奈がやる気になってるし勝手にやらせておけば良いわ)
揺れる馬車の中、ため息が充満する。
グノーシス伯爵は昨晩王宮のベッドで眠るのが緊張しすぎて眠れなかったらしい。
(呑気ね)
伯爵が寝てる隙にこのまま逃げてしまおうか、そう過ぎったけれど、逃げてそれでどこに行くと言うのか。
何も知らない国で生きていけるわけもない。
【ねー、カリンさー】
【止めなよ、また怒られるよ?】
【だってユーナちゃん、大変そうだよ?】
【カーリーンー!カリンってばー】
(最悪…)
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