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焦り

エリオル王太子が倒れた。


侍医は「失礼しますぞ」と言って王子の襟元を緩め、みぞおち辺りを深く押した。

「むう…時間が経ちすぎたの…」

側近達がエリオル王子を担架に乗せ連れて行った。


国王は顔面蒼白だ。


「失礼致します。給仕の女です。逃げようとしていたところを捕らえました」

側近が一人の女性を後ろ手に締め上げていた。

女性からはらりと落ちたハンカチを見て私は眩んだ。


サンドイッチの刺繍。


「あ、あなた…」

いつもは下ろしている髪を結って、王宮の揃えの制服を着ているが見覚えのある顔だ。

「知って…おるのか…」

国王は途切れ途切れに問うた。


「セイレス伯爵家の侍女です…」


国王は怒りに打ち震え、力のこもった目で侍女を見据えた。

「ひっ」と短い悲鳴をあげる侍女。


「貴様…何を入れた。誰の差金だ」

「あ…私は…そ、そんな…王子様が飲むなんて…だって…ユーナ様、私が運ぶものを召し上がらないからいけないんですよ!!」


(私のせい…だ)


確か私は会議室で倒れた日、セイレス伯爵邸でこの侍女が運ぶお茶を飲まなかっただろうか。


(思い出した。そうだ。出がけに一杯お茶を含んだ。)


「牢に連れていけ。首謀者を必ず吐かせろ」

国王は低くそう言った。

侍女は引き摺られるように部屋から連れ出された。


泣くまい。

一番泣きたいのは国王だ。

せめて私は泣いてはいけない。


「申し訳ありません。私のせいです」

「ユーナ、息子は立派だろう?」

「…っ!」

「あいつは簡単には死なぬ。いずれこの国の王になる男だからな」

その言葉は国王自身が自らに言い聞かせているようだった。


側近達が残っていたお茶を回収した。

成分を調べるのだろう。


「君たち、もう遅いから今日は王宮に泊まって行きなさい。エリオルもユーナが側にいれば安心するだろう」

国王はそれから

「すまないが、今日はこれで失礼するよ」

と言って出て行ってしまった。


残された私たちは、一様に黙っていたが、やがて花梨が沈黙を破った。

「優奈に色々言いたかったんだけど、何も言えないや」

「私も…ちょっと今は無理かな…」

グノーシス伯爵は深いため息をついた。

ややあって執事が声をかける。

「皆さま、お部屋の準備が整いましたのでこちらへ」


促されるまま、広い廊下を歩いて当てがわれた部屋に入った。


広く、暗く、寂しかった。

月光が柔らかく窓から差し込む。


エリオル王子の容態は分からないままだ。


私は窓辺に座る。

今日一日のことが、思い出された。

涙が溢れそうなので上を向くが、呆気なく一筋二筋と大粒の雫が落ちていった。


私はベッドにも入らずに、そのまま窓辺で夜を明かした。



翌朝、パンパンに腫れた私の目をみて花梨は言った。

「嬉しくないお揃いだわ…」

「花梨の目はどうしたの」

「…うるさいわね」

執事が入室する。

「失礼します。皆さま、朝食の後応接室へいらしてください。

ユーナ様は私とこちらへ」


言われるまま着いていくと、ある一室にたどり着いた。


「王太子殿下のお部屋でございます」

「え!?は、入って良いのですか?」

「国王陛下が許可されました故」

その言葉を受けて私は頷き、震える手でノックをした。


「…失礼します」

返事はない。


恐る恐る中へ入ると、天蓋のついたベッドに横たわっている王太子が見えた。

私はその場で動けなくなってしまう。

「どうか近くへ」

執事にそう言われて、ゆっくりとベッドに近づいた。


「エリオル王子…」


目を閉じたままだ。

泣くまい、泣くまいときつく目を閉じた。


「おー、ユーナか。キツイなこれ…」

「エリオル王子!意識が!」

「ああ、戻ってる。心配かけてすまない」

「よ、良かった」

死んでしまうのではないかと思った、と言ってしまいそうになって、口を結んだ。

「…悪いな、全然起き上がれない」

「良いから寝ててください」

「それから、全然見えない」


「…はい?」


「目がな、見えないのだよ」

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