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花梨が来た

着座すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「国王陛下にお目にかかります。

グノーシス・トノール辺境伯爵が後見人を務めます、花梨・高橋でございます」


(花梨…!)


グノーシス伯爵と二人、お辞儀をしているのが見える。

そして、顔を上げた花梨を見て仰天した。


(あれが、花梨…?)


しん、と静まり返ったホールで一人二人と小声で囁くのが聞こえてきた。


「噂の二人目の聖女ってあれ?」

「なんだか、藁みたいな髪の毛だな…」

「すごい美女って聞いてたけど、噂は当てにならないわね」


花梨の髪の毛は痛んで縮れていたが、何とか結ったのであろう。

瞼は爛れ、ファンデーションが乗った位では隠せないにきび。

辛うじて描いたのであろう眉毛が空々しさを増長させている。


(花梨!)


私は堪らなくなって席を立って幕を潜り、廊下へ出た。

しかし、腕をエリオル王太子に掴まれてしまった。


「どこへ行く」

「花梨のところへ。いけませんか」

「行ってどうする。今は式典中だぞ」

だが、ものすごく腹が立ってきてしまったのだ。


((何あれ))

((あんな髪…私なら式典に行けないわね))

((今回の聖女はハズレだなあ。もう一人は地味だし))

((王太子はあのどちらかと結婚するの?))


「はっ…!」

私は耳を押さえた。

しかし、人々の心の声は否応なく響いてくる。

エリオル王太子は私の肩を掴んだ。

「おい、ユーナ!」


((優奈、あんたなんて大嫌い))


「花梨…」

涙が溢れてきた。

「花梨、なぜそこまで…」

(もう普通の友達には戻れないのかな)

私はその場にへたり込んでしまった。


「…ユーナ。僕の声が聞こえるね?」

「エリオル王太子…」


ざわざわ

((ティアナ様美しいわね))

((今日こそあの娘とダンスを踊るぞ))

((公爵夫人の私より、あちらの夫人が持て囃されているわ))

((財布が見えてるぞ。くすねてやろうか…バレなきゃいい))

       ざわざわ


会場中の心の声がどっと響いた。

頭が割れそうだ。

「うわっ!」

「おい!僕の声を聞け!!」

ぎゅうと抱きしめられた。


「エリオル…王太子」

「……僕の…心臓の音が、聞こえるかい…」


   どくん どくん

 どくん どくん

    どくん どくん


「心臓の音だけに集中してごらん」


((本当に君を守りたいと思うのだ))


「エリオル王太子、なぜそこまで…」


((君は母上に似ているからな。おい、心臓の音に集中しろって言ってるだろ))


「今そんなこと、どうでも良いだろ」


どくん どくん

    どくん どくん

 どくん どくん


「あ……っ!聞こえなく、なりました」


ふう、と息をついてエリオル王太子は立ち上がり、私のことも立たせてくれた。


「エリオル王太子、ありがとうございます」

「役に立って何よりさ。涙を拭きたまえ」

差し出してくれたのは、王太子に贈った刺繍のハンカチだった。

ハンカチと王太子の顔を交互に見る。


「なんだ、持ってちゃ悪いか」


(あの騒めきで心が掻きむしられたけれど…不思議な人だわ)


「イチャイチャしてんじゃないわよ」

「カリン!失礼だぞ」


見ると侮蔑を含んだ眼差しの花梨と、おろおろとしたグノーシス伯爵だった。

私は花梨を見据えた。


「何?私の顔と髪の毛が面白い?私がこんなになってスカッとしてるんでしょう?」

「そんなこと…」

「笑い者になって楽しいんでしょ?」

グノーシス伯爵が間に入る。

「よしなさい。カリン」

それでもなお花梨は声を荒らげた。

「良い子ぶってんじゃねぇよ!」

グノーシス伯爵は遂に花梨の頬を叩いた。

エリオル王太子は私を抱き寄せた。


「……ねえ、知ってる?優奈。私たち、帰れないんだって」

下を向いたまま、花梨はぽつりと呟いた。

「え?」

王太子を見上げると視線を逸らされてしまう。

「…すまない」

エリオル王太子は誰に向けてか、謝罪した。


「カリン、もう行こう。ユーナ嬢、すまなかった」


グノーシス伯爵に促されて花梨は玉座へ向かった。


「嫌いよ。クマさんも…」

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