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12 リーリエと大作戦、と大作戦のタネ明かし


「……何者だ」

 魔術師は不愉快なお喋りを切り上げ、ふと視線を上方へと向ける。


「陣を敷いている奴がいるな」



◇ ◇ ◇



 第4ポイントにカードを置いた瞬間、稲妻のような閃光が地面を這った。4枚のカードを繋ぐ光の道筋が、一瞬現れたのだ。


(――いける!)


 私は息を飲んだ。この街の上に、巨大な魔術の象徴紋(スクリフト)が描き出されつつあるのだ。


 手持ちのカードは残り6枚。

 置くべきポイントはあと3か所だから、枚数には充分余裕があるわ。

 マリアの手がかりが見つからないのは不安だけれど、このスクリフトさえ発動すれば、きっと何か打開できるはずよ、――きっと。


「さあテキパキ行かなくちゃ! ……ひゃっ⁉」


 駆け出そうとして、しかし私はいきなり前方につんのめる。

「いたた……」

 何かにつまづいてしまった。膝をさすった瞬間、頭上をゴッと通り過ぎたモノがある。



「ラパンドール、復・活‼」

「嘘でしょ⁉」



 やや後方の家屋の上に、ちょっと煤けて髪がアフロになったラパンさんが仁王立ちになっていた。

 ていうか、わざわざ名乗らなきゃいいのに!


「さあ、おとなしく待っててくださいよ! 今ダッシュでそっち行くんで!」


 私はもちろん黙って逃げる。――はずが、足が動かない!

(え⁉)

 見れば、ガイコツの腕が私の両脚をガッツリ掴んでいる。――私がつまづいたモノは、地面から生えてきたガイコツだったのだ。


(こいつら土から出てくるの⁉ なんで? セミ⁉)


「ちょっと、離しなさいよ!」

 日傘でガツガツ突いてみるが、あれよあれよと無数の腕が地中から突き出てくる。周辺のガイコツたちも、私の周りにゾロリゾロリと大集結だ。


「なによなによ、あっち行きなさいよアンタたちー!」


 ああもう、どうしたらいいの⁉ ラパンさんも追ってくるし!



(――そうだ、カード!)



 私は懐から一枚抜き取り、それを正面のガイコツに向けて構える。意識を集中して高らかに叫ぶ!


「〈焼かれろ!〉」


 カードがカッと発光する!

 ワンチャンどうだ⁉ 私、魔術はからっきしだけど、()()はフレイの魔力なのよ!



 ――ぷぅ……



 せつない音を漏らして、カードが煙を吐いた。



「そんだけか――い!」

 私は速攻でガイコツに抱き着き、そのまま怒りのバックドロップ‼

 周囲のガイコツを盛大に巻き込み、骨が花火のように飛び散る。ヤケクソの極みであった。


「さあお待たせました! いざ尋常にラパンドールと勝負っイヤァ――‼」


 あっ、ラパンさんも巻き込んじゃった!

 その左手から金の卵が転げ落ち、地面にコツンと落下し、爆発!

 ピッチャー爆発により試合終了‼


 ちゅどーん! という怪音を背に、私はすでに第5地点を目指して疾走していた。

 ていうか本当に何だったの、あの人⁉




◇ ◇ ◇




「あの、これ、ほどいてくださぁい」

 僕は目を潤ませて、リーリエのお兄さんを見上げてみる。


「事情を話そうにも、このままじゃ苦しくて喋れそうにないなあ。……ねえそこの君、こっち来てココ引っ張ってくれる?」


「行かんでいい」


 ちびっ子に声を掛けてみるも、お兄さんに阻止されてしまった。


「もう一度問おう、フラジオレット・ローゼンフェルト」


 かわりに、お兄さんが怖い顔で僕に詰め寄る。いや野郎の顔なんて間近に見ても楽しくないんだけど。


「貴様のたくらみを洗いざらい吐け。リーリエを(そそのか)した理由も含めてな」


 そう言って、お兄さんは僕の眼前にカードを突き付けた。――僕の魔力の付いた、『アルティメットデュエルキングダム・エクストリームレジェンド(星霜宮リミテッドver)獄中編(アカシックプリズン)』のカードを。


 なんだよ、ポケットに入れてたはずなのに。

 人の大事なモノを勝手に取るなんて、最低じゃないか。


「返せよシスコン」

「ならば説明しろ」

「くっ……」


 なんとも卑怯なことに、僕の全身は赤いリボンでぐるぐる巻きにされていた。リーリエが拘束されていたあの凶悪なリボンだ。――さっき一瞬意識がトんで、目覚めてみればこのザマだ。

 だから僕は、思いきり素敵な笑顔で言ってやった。


「ははは、じゃあ説明してあげるよ。デバフしか能の無い、やたらヒトを縛りたがる趣味の、シスコン王子のお兄さんにも分かるようにさ!」


 さすがに頭をはたかれた。




「でっかいスクリフトを描くつもりだ」


 順を追って説明するなら、僕の作戦はこうだ。


 『街中ガイコツだらけだ』って、街を見下ろしたラパンさんが言った。――だから僕は考えた。チマチマやったってキリがないから、バカでかい術をひとつ仕掛けられたらいいな、って。


 ようするに、「街の上に巨大な魔術の罠を張る」ってコトだ。


 もしそれが成功して、ガイコツたちを一網打尽にできたなら、きっと術者は姿を現す。逃げるにせよ反撃してくるにせよ、何らかのリアクションを起こして尻尾を出すだろう。マリアを攫った、その張本人が。


 スクリフトは〈浄化〉でいけると踏んだ。

 その場の魔力を取り除くだけの術だけど、バカみたいな規模で出力すれば、死霊術(ガイコツ)の全無効化も可能じゃないかな、って。


 ――この仮説は、幸いにして裏が取れた。

 マリアに助けられたというチビッ子が持っていた、アルティメットギャラクティカドラゴンカイザーモドキ。あれは、僕がマリアに〈浄化〉を教わった時に使ったカードなんだ。

 つまり、あのカードにはあらかじめ〈浄化〉が付与されていた。


 それがガイコツを撃退したなら、やっぱり〈浄化〉で正解だ。


 僕はそう判断して、スクリフトの設計図 兼 街の地図をリーリエに託し、彼女を街に放った。

 この地図は、景色を眺めるフリをしてひそかに描いたものだ。スクリフトのかなめとなるポイントには、マル印を書き込んでおいた。





「……本当に、アーマイズの弟か?」


 そこまで説明したところで、シスコンお兄さんが合いの手を挟んだ。


「身辺警護でも清掃活動でも、ひとつ覚えのように全身重装備(フルプレート)を着込んでくるアーマイズ・ローゼンフェルトの?」


「許してやって。もはや鎧が兄さんの本体なんだ」


「まあいい、それはいい。――それで貴様、カードに魔力を付けたというわけか」


 僕はニヤリとする。この人、シスコンだけど理解は早い。


「そうさ。そんなに大きな図形、指で描くわけにはいかないからね。だから、僕の魔力を付与したモノを要所要所に置かせることにしたんだ。

 作戦の実行をリーリエに任せたのは、たんに彼女しか出来そうな人間がいなかったから。――この場の誰よりも、いや、僕の知る誰よりも、リーリエは強いから」


 ひとしきり話を聞き終え、お兄さんがため息をつく。


「……策としては妥当だが、人間性を疑うな」


「それもそうだね。だけど、いちばん可能性のある人間がやるべきだ」

「分かったような口を聞くな」


 お兄さんが、ぴしゃりと言い放つ。


「いいか、貴様の中だけで完結するな。そういう考えだと言ってくれれば、ラパンドールを貸したんだ。あれが最も適切な人間だったはずだ。もっとも、あれは『人間』ではないが」


「え?」


 思わず問い返した僕に、さらにお兄さんは予想外の言葉を続ける。



「貴様の小賢しさは認める。その手続きでスクリフトの描画は可能だ。――しかし、それがまともに発動するかどうかは分からない」



「――どうしてさ。ちゃんと描けるんでしょ? ガイコツは〈浄化〉で無効化できるはずだし……」


 お兄さんは少し考えこむそぶりの後、言葉を選ぶようにして説明を始める。


「この街には、魔術を妨害する仕掛けが働いているんだ」


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