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02 リーリエと元・不幸な侍女



 ――とは言っても、それだけじゃ解決しないってことはさすがに分かったわよ。

 なんでもかんでも腕力でやったろうって程ゴリラ的思考じゃないし、私は領主の娘、もうちょっとこうノーブルなゴリラなのだから。


(まずは、「マリアと仲良くなること」よね!)


 十歳の私は、カレンダーとにらめっこをして考えた。私の記憶が確かならば、ちょうど今年の夏に「マリア」という女の子が私の元にやって来るはずだ。私に仕える侍女見習いとして。

 

 マリアこと「マトリカリア」は、銀色の髪に空色の瞳をした、なんとも儚げな美少女なの。

 彼女はまさに「薄幸の美少女」というやつで、遠くの街の孤児院から身請けされてくる子なのだ。なんでも赤ちゃんの頃に、夏白菊(マトリカリア)の花籠に入れられて、教会の前に置き去りになっていたのだとか。


 そんなマリアを、1周目の私は、こともあろうか虐めまくった。

 理由はあんまり覚えてないけど、べつにない。

 しいていうなら「ヒマだったから」?

 

(いや我ながら外道すぎるでしょ……。こんなのマリアに許してもらえなきゃ、私の人生始まんないわよ!)


 そんなこんなで夏の初め、ついにその日がやって来た。


「ま、ま、マトリカリアともうします。いやしい身の上ではございますが、せいいっぱい、お仕えさせていただきます……」


 私の前にあらわれたのは、すくみあがった天使だった。

 私と同じく十歳のマリアは、小さな身体をさらに縮こまらせて、こごえた小動物みたいに震えていた。青空のように綺麗な瞳が、不安と恐れにかげっていた。


(め、め、めちゃくちゃかわいい‼ こんな愛くるしい子を虐めたっていうの? 私が……⁉)


 すさまじい衝撃とトキメキのあとに、激しい罪悪感が私の胸をしめつけた。ついお辞儀も忘れて、私はマリアに駆け寄った。


「あのっ、私はリーリエっていうの! またあなたに会えて嬉しいわ。仲良くしてね」


 しまった。「また」なんて言ってしまったけれど、誰にも聞きとがめられなかったのでセーフとしましょう。

 私は心からの「ようこそ」と「ごめんなさい」をこめて、マリアの両手をそっと包みこんだ。やわらかくて温かかった。胸がきゅうんとした。

 この子は絶対に幸せになるべきだと、やっぱり強く確信した。


「ねえ、マリア」

 私はマリアの両手を胸元ににぎりしめ、とまどう空色の瞳を見つめる。

「私、約束するわ。絶対に、私があなたを幸せにする!」

 その瞬間、マリアの綺麗な瞳がぱあっと晴れわたり、やわらかな頬がバラ色に染まった。





「お・と・う・さ・ま――――!」


 間髪入れず、私はお父さまへの直談判を開始した。

 マリアを「侍女」ではなく「義妹いもうと」として迎え入れたいという直談判だ。

 それはもう、我ながらすさまじいゴリ押しだった。ゴーリエ・ゴリエンタールに改名してもいいくらいだったと思う。それはともかく。


 妹として……とまではいかなかったけれど、幸いなことに「愛娘のかけがえのない友人」として、マリアは我が家に受け入れられることになった。不自由のない暮らしと、望むのならばしかるべき教育が彼女にも約束された。


「ううっ、お父様は嬉しいぞ! ようやくリーリエが人間に興味を示してくれて……」


 お父さまの妙なコメントがちょっと怖かったけれど、とにかくお父さまが私に甘々の激甘親馬鹿で助かったわ。私はホッと胸をなでおろしたわ。



 ――で、それ以来、私とマリアは今日まで仲むつまじく暮らしているというわけ。

 まあちょっと仲むつまじすぎて、マリアが「リリちゃん大好きっ子」に育っちゃった気はするけど、そこは全く問題ないわ。

 私もマリアが大好きだもの。マリアの幸せな人生を守りたいと思った日の気持ちは、今もちっとも変わらないわ。



  ◇



「ただいまー!」

「おかえりなさい、リリちゃん」


 昼下がり、剣のお稽古から戻るとマリアが天使スマイルで迎えてくれた。はぁあ癒される。それに、なんだか甘い香りもする。


「ちょうどクッキーが焼けました。お茶にしましょう」

「わぁい! 急いで着替えてくるわね……」


 私はダッシュで自分の部屋に向かいかけて、ピタリと足を止め、再びマリアの前へと舞い戻った。不思議そうな顔のマリアに、ぱちっとウィンクしてみせる。


「お茶するなら、フレイも呼んでくるわ! 一緒のほうがいいでしょう?」


「うーん、それはまあ、そうですけど……」

「ふふっ、まあまあ遠慮しないで。――いってきまーす!」

 マリアのあいまいな返事もそこそこに、私は再び玄関を出て、弾む足取りでフレイのお屋敷へと駆けていく。


(まかせてマリア。あなたの恋は、今度こそ全力で後押しするからね!)


 私は知ってるのよ。

 マリアは、フレイのことが好きなの。だけど身分が違うことを気にして、気持ちを隠しているのよ。

 ()()()に見たから、知っているわ。


「こんにちはー! フレイー‼」

「うわっ、また来た!」


 不服そうな声を上げたフレイを難なくつかまえて、私は再び自宅へと急いだ。


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