10 少年のひとりごと【第1章フレイ視点】
勇気を振りしぼって生まれて始めて女の子に告白したけど完全にスルーされた僕の話、聞く?
隠してたってしょうがないから言うけど、僕は、リーリエが好きだ。
きっと、最初に出会ったときからずっと好きだった。
リーリエは何をしでかすか予想不能で、嵐みたいに強引で、僕の世界をあっという間に塗り替えてしまった。
そればかりかいつのまにか僕の心に居座って、変なものを見ればケタケタ笑い、間違ったものに出会えば眉をつり上げて抗議する。そんな騒々しい妖精みたいな女の子だ。
まあ、身体能力は野獣かもしれないけど、僕にとっては妖精だから、そこはいいのだ。
だけど現実の彼女は、本当にニブかった。
リーリエは僕の気持ちに、これっぽっちも気づきやしない。
それはもう、腹立たしいほどに鈍いのだ。しかも何かを勘違いして、僕とマリアをくっつけようと画策する始末。いやマリアはいい子だとは思うけど、そういうのじゃないから困る。
だから僕は言った。
僕は、リーリエが好きなんだって。
なんの食い違いもないよう直球で言ってやったんだ。そしたら、――逃げられた。
(なんだよ、それ‼)
僕は恥ずかしさと自己嫌悪とで撃沈した。
晒し者になって爆死したのち、図書館からどうやって家に帰ったものか覚えていないけど、枕を殴りながら世界を呪ったことは覚えている。
(なんだよ! ていうかせめて何か言えよ!)
枕のはしっこが破けて、白い羽がふわりふわりと舞った。そんなファンシーな絵ヅラの中、僕は脳内で三度ほど自爆テロをかました。人類みんな死ねと思った。僕が邪悪な魔術師だったら、ウッカリこの村くらいは燃えてたところだ。
(なんか殺傷能力の高い魔術書とかないかな……。いや見るだけ、見るだけだから)
そんな鬱屈とした数日の間に、なぜか村によく分からないガイコツが攻めてきた。いやこっちはそれどころじゃないから! という八つ当たりをぶつけたら、ガイコツが消し飛んだ。
図書館の秘密の書庫で見つけた、殺傷能力の高い魔術書が役に立ってしまったのだ。
とてもスカッとした。
……もとい、これ図書館にあっちゃいけないやつだと思った。大丈夫なのだろうか国の規制とか。それはともかく。
「私、村を出るわ」
ガイコツ撃退のほとぼりも冷めて、いざ早朝に僕を呼び出したかと思えば、リーリエはとんでもないことを言いだした。
「最強の領主になるの。野百合の谷の守護者になるわ。だから私はもっと強くなって、もっといろんなことを知らなきゃならない。だから少しの間、村を出ようと思うの」
僕は思わず目を見張った。風に翻った彼女の白いワンピースが、翼のように見えたのだ。
夜明けの丘に立つ、リーリエは大きな白い鳥だった。
その瞳の奥で、透明な灯がキラキラと燃えている。きっと誰の言うことも聞かずに、飛び立ってしまうつもりなのだ。
(……僕に、返事もせずに?)
僕にさんざん絡んできたくせに?
そっちの勝手で僕をさんざん振り回して、世界はおもしろくて生きてることは楽しくて、僕は君が好きなんだって、さんざん気付かせたくせに?
ひとりで勝手に考えて、勝手に飛び去ってしまおうと言うのか?
「じゃあ、しかたないね」
僕は苦々しく息をついた。
それから一歩踏み込んで、ためらわずリーリエの手を取る。
「僕も行く」
透明な灯が掻き消えて、リーリエは、ただの驚いた子供の顔で僕を見た。
なんとなく、やっと一矢報いた気がした。
僕の手の中にある、少し小さな掌。
「だから、僕も村を出る。君みたいな考えなしを、一人で野に放てるか」
君が望むと望まざると、この手は放してあげないよ。
僕はあんまり聞き分けのいい子供じゃない。
君が飛び立っていくのなら、どこまでだって追いかけてやる。そう易々と、はばたきひとつで振り落とされるような、そんな軽い存在ではありたくないんだ。
風が温度を帯びてくる。景色をしだいに色づかせながら、日が昇る。夜が明ける。
「ありがとう、フレイ。……だけど、あとで後悔しても知らないわよ?」
「こっちのセリフ」
僕はちょっとだけ笑った。
後悔なんてするはずがない。僕は、僕の好きなものを追いかけて行くのだから。
僕は、しぶといよ。
第1章終了です。ご覧下さりありがとうございました!
1.5章はフレイ視点のお話です。彼が野百合の谷に来た経緯やリーリエとの出会いに触れますが、番外編として独立しています。
(いじめられっ子のゲストヒロインを助けて因果応報程度にざまぁ/ヒロインとの友情はありますが恋愛は無し)
こちらもお付き合いいただけますと幸いです。
本編自体の続きは、第2章からになります。




