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少し周辺の気温が上がったか?
そう思い、重い瞼を持ち上げるともう昼でした。
森の麓だからか、そこまで気温が上がらない。上がるとすれば真昼ぐらいだ。そう。昼、と言ってももう午後のお菓子時なのだ。
誰だよ、朝から起きるって言った奴。
「…………、僕だよな」
そういえば、僕の体内時計は狂ってるんだった。気温の上昇が感じられなければ僕は、まだ寝ていただろう。
仲間からも、よくからかわれていた。寝る子は育つ、と。マジでふざけるな。今思い返しても、仲間に対してあれほど怒りが湧いたのはその時だけだ。
途中から、すごく身長が伸びたから言われなくなったけれど。
今日はもう歩かなくていいか。甘い考えが浮かぶ。別に急ぎの用がある訳じゃない。
仲間を守る、という用はあるが急いでどうにかなるもんでもない。
凭れ掛かったまま一度開いた眼をまた閉じる。眼を閉じれば、五感が優れる様で自然の音は素直に拾える。
村の暮らしぶりも感じることができて、人の営みを感じれば感じる程どうしようもなく胸が締め付けられた。
近くにあった筈の温もりが感じられれないことがこんなにも苦痛だとは。
僕が居なくても、まわっていく仲間の営み。一度死んでしまっている僕は二度とその営みに加わることはできない。話せない、笑い合えない、慰めることも、できない。
一人、座り込んでいるこの状況は思考を止めることができない。
仲間のことを思い出すことは楽しい。でもそれに付随してくるこの正体の分からない感情は嫌いだ。
そう、何もしていないから駄目なのだ。なにか、なにかしなくては。
考えることが嫌で、思い出すことが辛くて、でも思考に浮かべば幸せで。
何が何だがもう分からなくて。思考に頼る事すら怖くなって。
死ぬことは怖くないのに、仲間のことを考えるのは怖い。
でも幸せで。
全部が全部頭を廻って離れない。繰り返せば繰り返すほど、刻まれていく思考。
死ぬ前はこんなことなかったのに。細かな糸に絡め取られ心臓を締め付けられる。
この、恐怖は、何だ?
人の営みを見れば見るほど、仲間を思い出せば思い出すほど。
僕を壊さないでくれ。壊れたら、守れない。
人の営みも、仲間も守るべきなのに。それに恐怖していては話にならない。
共通点は、何だ?どちらも上手く回っていて、過不足なく皆幸せそうで。
全てが僕の妄想だというのに、僕は仲間が幸せであると確信できる。
僕の魔法は、いつでも発動できる。常時発動することだってできる。僕はそのことに安心すらできていた。
だって、僕、仲間が生きているかどうか分かるんだもの。
仲間がどんな危機でも助けられるよう、仲間の体液を取り込むことで仲間の生命を維持することができる。
僕が生きている間は勿論、死んだ後も僕の魔力が残っている限り仲間の致命傷を僕が引き受けることができる。
正確に言えば、その体液を媒介に僕の魔力と足りなかったら補うために僕の命を削ることで助けることができる。
僕を贄にできる。
だからこそ、仲間の幸せが分かる。誰も死んでいない。
僕が、居なくても死んでいない。あっ、そうか。この恐怖は。この感情は。
仲間に僕が必要ないとわかってしまったからか。
僕が居なくても回っていく人の営みに、僕を必要としない仲間たち。
誰にも必要とされず、生き返ってしまった僕は。
どうしろと言うのだろう。
抱えきれないほどの、この感情。これは寂しさ、というやつか?
一人であると自覚してしまえば、唐突にこみ上げる寂しさを捨てることができない。
寂しさ、じゃないかもしれない。これはただ辛いだけだ。拷問、だろう?これは。
今迄散々仲間に甘えてきたことが判ってしまう。
もともと判っていた。僕が甘えていることぐらい、そんなこと死ぬ前から。
失ってから気づくものの方が多い。もう、僕は仲間に会えない。
仲間の幸せを祈っている僕が、僕自身で仲間の幸せを壊して何になる?
最初を思い出せ。
僕は仲間を守るんだ。
要らない感情など、消せ。恐怖と共に寂しさも、棄てる。何で今更こんな感情が出てきたのだろう。
僕は魔法を行使する。記憶を消すのと同じくらい、感情を捨てることも容易い。
他人への干渉は時と共に、薄れていってしまうが、自己暗示は別だ。僕が解除を望まない限り、甦ることはできない。昔もこうやって要らない感情を捨てたような気がする。
なら本当になぜ今更、この捨てたはずの感情が有った?
まさか、死んだからか?死んだから、リセットでもされたのか?ならギルの記憶は?
仲間の安否を確かめるこの魔法は、僕の身体に刻んでいるもので発動すれば消えることはない。
しかし、頭に刻んだものは物質的に刻むことができないから、消えてしまった、ということか?
ギルの記憶を消せなかったのか?
感情を捨てたせいか、もうギルの心配しかできない。大丈夫、ギルは死んでいない。
ということは、死んで消えてしまう魔法は僕のみが対象、という訳か。
要らない感情を思い出すことで、どっと疲れた。
さっきまでの苦しみももう感じない。僕は、仲間を守ることだけ考えればいいのだ。
でももしかしたら、まだ捨てきれていない感情が他にあるかもしれない。その都度捨てなければならないのが面倒臭いが。
僕の何処かに空白が大きく、二つできた。一つは、恐怖。もう一つは、寂しさ。
全て、捨てることはないだろう。死ぬ前も、殆どが空白だったが、まだ残っていた。
本当に必要な感情だけを残した、僕の心。
今の僕の心は不用物で一杯だが、追々捨てればいい。
ただ、願え。
仲間の幸せを。
僕の幸せは、仲間の幸せだ。そうであるはずだ。
誤字脱字があれば、すみません。気づいたら教えてくれるとありがたいです。もし誤字脱字で意味が分からない時は、妄想で補ってください…………。