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(………、酷い)



僕が立っているその場を中心に地の表面が見えている。


辺りは、人間を灰にまで昇華させた特有の匂いが立ち込めており、僕自身のしたことが酷いことなのだと再認識した。


別に、僕は人殺しが好きな訳ではない。


ただ、僕の大切なモノを犯すことが赦せないのだ。



それでも後悔はする。僕の我儘で殺してしまった者達にも、かけがえのない何かがあっただろう。

僕はそれを奪っているのだ。僕自身の拠り所を守るために。


何回も繰り返す内にその罪悪感も薄くなっていく。それさえも、罪悪感を覚えるものなのだからとことん救えない。

彼らの大切なモノを奪っている僕の、大切なモノが奪われるのはいつだろうか。

奪っている癖に、奪われることは怖い。未来()のことを考えて死にたくなる。


僕の夢に果ては在るのだろうか?



歩いて、鞘の所まで戻り、地から抜いて剣を納めた。



剣が長くなっている様なので、普段は腰に下げているが背中にまわす。

髪が挟まり、またもイラついたが一人で喚いても虚しいだけだ。大人しく髪を剣と背の間から抜き取る。

剣の上から流す様に落とした。




この大軍の規模を見て考えるに、暫くは兵を寄越さないだろう。

しかし、戦争の終結を約束したことをあいつは忘れてしまったのだろうか?


あいつが、僕の命と引き換えに戦争を終結させると言ったから仕方なく仲間を置いて逝ったというのに。


…………、まさか死んでないよな?あいつ。


背中に剣の重さを感じつつ、背筋を伸ばす。今、考えても仕方ないことはやめよう。



これだけ派手に暴れたんだ。じきに、此処も騒がしくなることだろう。その前に離れなくては。


取り敢えず僕の仲間が居るはずの国に入ろう。国名は………、忘れた。


仲間が居る、それだけでその国は充分だ。



とにかく歩き出す。今後の進退についても考えなければ。



仲間を守って死ぬ。それに似合う仕事などあるのだろうか?そもそも僕って普通に暮らしていいの?



仲間を守るの定義が僕の中では明確にない。守るということは、危険を排除すること?


なら、衛兵でもなんでも国を守る仕事に就けばいいのだろうが、それでは身元審査がたまにある為困る。



この世界に存在する危険と言えば、戦争、人間、それから魔物、かな?


戦争は起こっていないと信じたいし、人間は仲間以外排除したとしてまともに暮らしていけるとは思えない。仲間以外の人間なんかクソどうでもいいが、そのクソ共のお蔭で仲間たちの暮らしが営まれていると思うと排除するには気がひける。



残るは魔物か。魔物の発生原理は興味がなく全く知らないが、それの討伐には行った経験がある。


魔物を狩る者。それが一番無難かな。冒険者がそれに当てはまる。


身元確認も行われず、ひたすらに獲物を狩る職。危険も伴い、死ぬことも多々ある。

有志を募って戦争に駆り出されることもある筈だ。


戦争には、仲間がいるかも知れない。僕はそこに仲間が居るならどこにでも行こう。



平原を抜け、森に入り、また抜ける。そんなことを繰り返すと、王都の光が遠くだが視界に入る様になっていた。


まだ、王都は遠い。



近くに民家はないかと、眼を凝らす。もう、夜が更けていく。今日は野宿か宿でも取れたらと思った。


すると、今、僕がいる山からもう少し先に村があることに気づく。

あっ、宿見っけ。………いや、こんな時間帯から泊めてくれる宿なんかないか。



野宿なんか慣れているし、死にはしないだろう。でも、灯りが欲しい。

いつもは仲間たちと一緒だったから、一人でする野宿なんて久しい。取り敢えず、村の近くの山で夜を越そう。


夜目も有るから夜も動けるは動ける、が。


寝たい。とにかく寝たい。人間の三大欲求だ。抗うこともないだろう。

生憎、睡眠以外の欲求は僕にはないが。


食欲なんて、仲間から言われて渋々食っていたぐらいだ。性欲なんか興味もない。


欲求を無視することは、自分を殺すこと。

僕自身でいつの間にか僕を殺している、と気付いた時は驚いた。


もう自覚しているから言い逃れもできないけれど。


自覚していても、僕の命は動いている。殺し切っていなければ大丈夫だ。




「………、僕は、大丈夫、だ……………」



口に出して、声という聴覚で認識できるものにするとあぁ大丈夫なんだなぁと思える。


一種の自己暗示。洗脳、どうとでも言うがいい。僕は気にしない。

こめかみがズキズキと痛み、掌の付け根でグリグリ押す。



背筋を伸ばす。もう、村はかなり近くなっていた。




近くで村を見ると大きくない、そこそこ小さい村だった。


考えてみればそうだろう。あの僕が死んだ場所から一番近い場所に在るんだ。

戦いが最も激しかった地に近いこの場所は、相当な不安と危険を抱えて暮らさなければならない。



そうなれば、人は少なくなっていく一方だろう。僕の生まれたというか最初に居た場所も戦場に近く、人が少なかったのを朧げながら覚えている。


少し懐かしい。

あの頃の感情は全て虚しい独り善がりのものだったけれど。今はもう胸が苦しくなることも減った。

仲間のお蔭だと思っている。



村に近い山の麓の茂みに身を隠す。今日は此処で寝よう。村の微かな光が届くこの距離は、仲間の光すら遠くなってしまったかの様で少しだけ。ほんの少しだけ寂しく感じた。


剣を地面に突き刺しそれに身を預ける。もう、眠気がそこまで迫って来ていた。


明日は、日の出と共に歩き出そう。







夢を、見た。


でも、覚えてすらない悪夢。



覚えていないのはただの現象か、それとも自己防衛か。






一つ分かるのは。



僕はこの日を求めて止まない、ということだろう。















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