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自害、とは?




昔、考えたことがある。まだ、幼くそれでいて達観した様な卑屈な性格のとき。


実際僕の性格の本質はそこから始まっている、と言っても何の違和感も持たない。

仲間たちは、えーっと…………思い出せないが、僕のことをそんな風に言ってきたことは一度も無かった。



自覚しているぶん、聞き流すことが多かったからだと思う。



おかげで、随分と子供扱いされた。僕のどこが子供なんだ?と聞き返したこともあったが、仲間はいつも楽しそうな表情を浮かべるだけだった。




話を戻そう。




自害、とは?



自殺、とも言えるだろう。まぁ、聖典に載っている記載では、自害なので僕は自害を使うことが多い。


自分を害すること。自分を傷つけること。それならば、自分を蔑ろにすること自体、自害ではないのか?

僕は、余り言葉を理解をすることが得意ではないので、実際はそうではないのかもしれない。


ただ、言葉を理解することも自由だ。意味は、僕自身で見つけ出す。



僕は、自害することが嫌だった。


でも、仲間を守るためなら、いくらでも僕自身を蔑ろにすることができた。




もう、その時点で僕は僕を殺していたんだろう。


だから、さ。ギル、君が泣かなくてもいいんだ。これは僕自身の意味だ。君が勝手に決め付けるな。



君の記憶を消してしまったから、僕の伝言も綺麗さっぱり忘却の彼方だろう。


でも、僕の魔法じゃいつまでも君を守ってやることはできない。必ず、思い出す。




罪悪感は抱かなくてもいい。むしろ、抱かないでくれ。君の胸の内の潜めていてくれると、ありがたい。





でも。これだけは、忘れるな。





「殺されることは、赦さない」





上官命令だ。










ーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー




唐突にギルの泣き顔が思い浮かんだ。


えっ、なんで泣いてるの?理由も無しに泣いてるの?バカなの?



いや、そんな理由じゃなくて。僕を──────。



「うぉわっ!!」



変な声を上げながら、飛び起きる。低く腰を下ろし、剣を右腕で持ち上げ相手を取り敢えずブッ飛ばすような適当な魔法を詠唱準備する。



眼を閉じ、周辺の気配を探るが全くない。



おかしいな。さっきまで兵士の残骸があった筈なのに、それすらないようだ。



もう一つある。剣が、長い。僕が構えるとき、剣は地面に擦りもしない筈なのに。

今は地面が近く感じる。



でも、これは僕の剣だ。薄っすらとだが、僕の魔力が残っているから。

日頃、使っているこの剣は薄っすらどころか纏うほど僕の魔力が溢れかえっているのが常だけど。



なぜだろう?なんで、長い間使っていない(・・・・・・・・・)ような状態まで落ちている?



それに周りもおかしい。


ここは最も激しい戦禍を被っていた筈だ。草なんか生えてすらいなかった。

なのに、なんで僕の周りはこんなにも生い茂っている?



取り敢えず、剣を鞘に納めすっと背筋を伸ばした。


死体もなく、草は生えていて、血の匂いもしない。


風だけが、草木を揺すり、音を立てる。ここは、どこだ?僕の知ってる場所、じゃ、ない。





思い出せ。ここで何があったのか。


ギルの泣き顔。苦しそうな声。剣がぶつかる音。


濃い鉄の匂い。消した記憶。靴が地と擦れる感覚。歩き出したとき、背筋を伸ばした僕。



最期は、僕の身体を貫通した剣を見た。仲間は、いなかった。一人で死んだ、僕。






そうか。僕は仲間を守れたかな?



僕の命と引き換えに、ギルの自由と戦争の終結を結んでやった。相手は信用できる相手だから、大丈夫だろう。



全く、仕方がない。




そう思いつつ、前髪をグシャリと握りしめた。

こんな後悔は、捨ててしまおう。



殺されることが夢だった。なんて。



















仲間は守った。戦争は終わった。


僕のすることは、なんだ?



鞘ごと、地面に突き刺しそれを背にもたれ掛かって腰を下ろす。


なぜか髪が異様に伸びていて、座ると下敷きにしてしまう。首を動かすたび、頭皮が引っ張られ異様にムカついた。



切ってしまおう。



剣だけ抜いて、髪に刃を当てる。



髪を一纏めに握っている先から、風に髪をとられ視界を覆われた。





そんな時、だった。








遥か彼方、とまでは言わない。が、敵国・ハーワット帝国の方角から、大勢の兵士の雄叫びが聞こえてきた。

視力を上げ、眼を凝らす。もう、方角的に嫌な予感はしていた。




「………………っ、仕方がない。僕が討とう」




大軍が此方に近づいている。武器を持っている。


状況確認なんか、もういいだろう。アレらは、僕の仲間が居る(・・・・・)国を奪おうとしている、それだけだ。



数分もすれば、ココに来るだろう。


僕から仲間を奪おうとするモノは、誰であろうと殺す。



国の情勢なんか、阿保な僕には解らない。此処で僕が、動いたことで誰かが迷惑を被ろうと、知ったこっちゃない。そんなの、全員死ねばいい。



仲間の命が、少しでも続けば。仲間の平穏が、保たれるのなら。


僕は、悪夢と呼ばれても、いいんだ。






鞘を突き刺したまま、抜き身の剣を右手で持ち、前を向く。


装備を確認すれば、衣服も昔着ていたものだった。ただ一つ違うとすれば、剣があったことだけ。

この服を着ていた頃は、剣なんか持っていなかった。



髪はこの場に残ることを考え、切らないことにした。少しでも痕跡を残せば、僕が特定されるだろう。



僕の仲間に追跡や解析が得意な奴がいたから。





きっと、僕は死んだんだろう。僕自身が、致命傷を負ったことも覚えている。あれは助からないほどの傷だ。

心臓に穴が開き、大嫌いな血が傍で流れ続ける感覚。そこから廻る猛毒。



死んだ僕が、此処にいる。それだけで、仲間の心は掻き乱されるだろう。

仲間だと、思っていたのは僕だけかもしれないけど。






それでも。





「………僕は、仲間を守る。仲間を殺すことは、赦さない」





それが、殺されるという僕の夢の続き、だ。たとえ、それが自己犠牲の果てだとしても。


たとえ、仲間から拒絶されても。



僕に生きる意味を与えてくれた、仲間たちを守るためならば。



これから僕は、意味を持って生きて行くことができる。







僕の夢は、死ぬことでした。



僕の夢は、仲間を守って死ぬことです。

些細な変化。どう死ぬかの違い。でも、死ぬことに意味を見出せた僕は。




意味を果たすまで、生きる。

































ハーワット帝国・王宮第二軍旗 旗長室





「……………、それは本当、なのか?」



「っあぁ、大半が死んだ」




満を持しての大規模奇襲だった。もう十年経つあいつとの約束はもう守れないところまで来てしまった。



あいつが居ないあの国を見ているのは、もう我慢ならない。

それで仕掛けた最初の狼煙の筈だった軍が壊滅した、と報告を受けたときは心臓が沸騰したかのように暴れた。




「何故だ。あの国は、前の戦争であの場所を忌避するようになった筈だ。あそこは警備が手薄であるし、特にこの日(・・・)は誰も寄り付かないだろうが」




「それが、居たんだ。一人」



冗談だろう?、と眉を顰める。一人で何が出来る。何も出来やしない屑一人ぐらいどうとでもなるだろう。


あいつだって、一人で死んだ。



俺の言葉を鵜呑みして。




嫌な記憶を思い出し、喉が締め付けられる。嫌だ、思い出させないでくれ。




思考を移すべく、会話を進める。



「それで?」




「その一人に壊滅させられた」




ふざけるな、そう言いたかった。あの国の主戦力はあの場所では戦わない。いや、戦えない(・・・・)



あれ程の軍を壊滅できる奴は、居ない。





「信じられないって顔してるな、お前。で、そいつの特徴な。黒髪長髪の、黒眼を持った少年らしい」




「…………っは?ふざけるな、そんなに俺の傷口を抉って楽しいか?」




「ふざけてなんかないさ。ぶっとい剣を振り回し、魔法まで使うんだぜ?反則だよなぁ、ありゃぁ」




「っそんなの、そんなのまるで…………っ!」




「魔導剣士"悪夢"アトラス、だろう?」




「……………」




悪夢なんかじゃない、と大声で叫んでしまいたかった。

アレの心根に触れれば、悪夢なんて呼べる奴なんか誰もいない。




「なぁ、まさか、生きて、」




「そんなわけないっ!!」




アレを殺したのは俺だ。アレを追い詰めたのも俺だ。アレを救ってやれなかったのも俺だ。



アレの勇気を見誤ったのも、俺だ。



十年間、生きてるのも苦しかった。ふとした空虚を見つめるだけで、死にたくなった。

でも、アレは死ぬことを赦さなかった。



俺は、あいつの仲間で居たかった。



だから死ねなかった。




その苦しみを否定しないでくれ。希望を与えないでくれ。


その希望が崩れたとき、俺はもう立ち直れない。



俯いたまま報告書を書き上げる。大軍を失ったのは痛い。でも俺は必ずあの国を滅ぼす。

そう心の中で呟くだけで、恨みが募る。



「この件は他言無用だ」



「はいはい」



男が部屋を出て行く。音が届かないこの部屋は、防音が完備してあるだけなのに。



狂ってしまいそうだ。


なぁ、アトラス。なんでお前、死んだんだよ。







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