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死んで、願う。



いつまで経っても死ねなかった。


自分の手で死ぬことより、他人の手で殺して欲しかった。



だから、戦場に身を投じた。














最期、剣を扱えぬよう手をナイフで地に楔をうたれた。


魔法が扱えぬよう、声を出せないよう喉が爛れる劇薬を飲まされた。



それでも、僕は生きる術をまだ持っていた。

力尽くでナイフごと腕を持ち上げることもできた。


魔法を頭の中で詠唱すれば、魔法を使うこともできた。




死ぬことに抗うことが、できるようになっていた。




それでも、抵抗しなかった。


辺りは敵国の兵士の残骸が、見渡す限り広がっている。見渡すほど頭を上げることはできないのだが、状況的にそうだろう。




時間が経つほどに、血の匂いが濃く強くなって鼻腔を擽る。

まだ遠くでは戦場の音が聞こえてくる。刃と刃がぶつかり合う、音。


僕だけが、ここに潜んでいた敵国の奇襲隊に気づき、部下に言い残してこちらにやってきた。



もうその時点でわかっていた。わかっていたんだよ、お前がそれを率いていることを。



お前の目的が僕だってことも。



風が前髪を悪戯にさらい、目元が隠れる。ついでに血の匂いも一緒に運んできてくれやがった。



血の匂い、………………大嫌いだ。




ふと、気付いた。僕がこの体制になってからどれぐらいたっただろうか。


だんだん、こちらに向かってくる馬の音が増えてきている、気がする。お互いの目を見詰め合っていて、それに気付いたら、照れた。





「……………っ、なんでここで照れるんだよっ!?俺は、俺はっ、お前を裏切って殺そうとしてるんだぞ!?危機感を持ってくれ!!…………………、頼むからっ………」



応えるため、咄嗟に喉を魔法で回復させた。でも、ここで声を出してしまったら僕が魔法を、自衛手段を持っていることが相手に露見してしまう。ここで僕が助かる(・・・・・)という希望を、相手にギルに与えてしまえば。




ギルは敵国からの命令で、殺されるだろう。

主に、僕を殺せなかったという反逆罪に問われて。それだけは、赦せない。ギルが、僕の仲間が殺されていくのを見ているだけなんて、嫌だ。





なら。僕を殺すことでギルが助かるならば。僕の大切な仲間が救われるのなら。





死にたがりの僕に適任じゃないか。



泣きながら、僕の掌にナイフを突き立てたギルの表情が痛々しくて。


こんな表情をさせているのも、僕のせいだとおもうと仲間を傷つけている自分に腹が立った。





ギルの涙が僕の頬を濡らしていく。これ以上、躊躇って時間をかけると僕の仲間が来てしまう。



お願いだ、早く。早く僕を殺してくれ。



昔から他人の手で殺して貰うことが、夢だったんだ。君は僕の夢を叶えてくれる仲間で、英雄だ。



頼むから、殺してくれ。僕は、君を恨まないと約束するよ。



安心させるように微笑んだ。



ギルは更に顔を苦痛で歪める。僕の心臓を貫くため、掴んでいる剣が震えている。



もうすぐそこまで、仲間が来ている。このままだと、ギルは仲間に殺されてしまう。


嫌だ。仲間は決して、誰にも、殺させや、しない。



意を決して、ギルに言葉をかけた。




「……………ギル、すまない」




君を守ってやれなくて。




「だからっなんでっ!!なんでっ、お前が謝るんだよ!!お前はいつもそうだ!!生きることを諦めて、自分のことを省みやしない!!お前なら声が出せなくても魔法が使えるだろうが!!なんで抗わない!!生きることに執着しない!?………………そんな仲間の姿を見せられる俺らの気持ちも考えてくれっ…………」





仲間だ、と言われこんな状況でも嬉しくなってしまった。





「そうやって、いつも笑ってるお前が腹立たしかった!!馬鹿ばっかやってる時間が楽しかった!!」





そうだな、馬鹿ばかりだったな。僕も楽しかったさ。

それでも時間は有限だ。終わりは必ずやってくる。



剣先が震え、こんな状態じゃ僕を即死させることなんかできないだろう。



仕方がない。最期まで手間のかかる友人だ。




「ギル、前にも言っただろう?僕は他人の手で死にたいと。僕は夢だったんだ。そんなちっぽけな夢を叶えてくれる君は僕の英雄で友人だ。後悔なんかしなくていい。すぐに忘れてくれて構わない。でも、残していく仲間に伝言、いいか?」




ギルが何か言葉を言っているが、それを遮って強引に言う。




「殺されることは赦さない、と」



「それを、それをお前が言うのかっ…………?」



「あぁ、ギル、安心しろ。僕を殺せば、敵国に戻らなくて済むよう手も回しておいた。もう一度、言うぞ。僕は殺されることが夢だった。僕は君を恨まない」



そう、夢だった、……んだ。



ギルの涙は一向に止まらず、僕の首をも濡らしていく。もう時間切れだ。





「ギル、すまない」





左腕を力尽くで持ち上げ、ギルの頭を撫でるように髪を撫ぜる。そして。





ギルの記憶を消した。








敵国のことも、今こうして僕を殺そうとしていたことまで。まっさらに、綺麗に。



君が、仲間が、憂なく生きていけるように。



ギルが反動で、倒れこむ。左腕で、しっかりと支えてから横に寝かせた。



もうギルに僕を殺すことはできない。目的さえも、消してしまったから。


僕が生きていれば、ギルはこのまま殺される。






本当に仕方がない。



右手のナイフを左手で抜く。どちらの傷もすぐに消した。ギルが疑われる要素を少しでもなくすため。


ギルが落とした剣を拾う。それには、致死性の毒が塗ってあった。敵国も油断がない。


死体だらけの平原は想像した通り血だらけだった。



死んだばかりで、未だに血が流れ続けている。



少しでも血がないところへ。




この兵士を皆殺しにしたのは僕だ。僕の血と混じるのは不愉快だろう。



かなり離れたところで腰を下ろす。




「本当、仕方がない奴らだったなぁ………」



そう言って、思い切り僕は。


僕の心臓に一つ穴を開けた。



視界の端に遠くから駆けつけている仲間が見える。僕は、やっぱり笑った。


自分で死ぬことだけは嫌だった僕が、仲間のためにできた最期の行いが、自害だ、った。



せめて、せめて、大切な仲間たちが健やかな未来を。












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