閑話1 家族?
アスト「今回は閑話だ」
ルコ「ユーミルさんってこんな事を考えていたん
ですね」
アスト「やっぱり俺って嫌われてたのか」
ルコ「いや最後まで読んでくださいよ!主様!」
「これこれこういう事があって、私、今は忙しくて無理だから、この子に伝えて来てー。加護をつけておいたから、分かると思うからさー」
「かしこまりました。行ってまいります」
私はこの世で、一番尊敬しているスーラ様に呼び出され。
スーラ様がこの世界に送った人間に、神界で起こった出来事の詳細を伝えるという仕事を与えられた。
スーラ様から仕事を与えられるのは、とても嬉しい!
必ずや、この任務を成し遂げねば!
ハルナラ王国のソナヤ町にいる、アストという者のところに行って、神界で起こった事と世界の改変の説明をする。
異世界からの召喚を封じる方法は教えてもらってないが、スーラ様の事だから、きっと考えがあったに違いない!
良し!
早速出発だ!
スーラ様の為にも、絶対に、この任務を成功させる!
「あっ。召喚を封じる方法教えるの忘れちゃった。まぁ、教会にお祈りに来た時に教えればいいか」
☆
私は今、空をゆっくり飛びながら、自分の犯した失敗に気づいて反省していた。
スーラ様の命令だからと嬉しくなってしまい、荷物を、すなわち、食料を持ってくるのを忘れてしまったのだ。
正確に言うならば、興奮のあまり、荷物を持たずに飛び出したというのが正解か。
魔素があれば最低限生きれるのだが、腹は減る。
「仕方ない。そこら辺で食材を確保して目的地まで食い繋ぐか」
目的地までは木の実や果実、魔物の肉を食べた。
「やはり魔物の肉はまずいな。今度からは木の実と果実だけでいいな」
クチバシとその周りを血で染めたフクロウは、さぞホラーだったであろう。
前にも魔物の肉を食べた事はあるが、その時も美味しかったという記憶はない。
しばらく移動をしていると目的地が近づく。
食料の事もあったのでなるべく速く飛んできた。
「もう少しで町だな。その前に腹が減ったから木の実でも食べよう。何かないだろうか……おっ……あれが良さそうだな」
美味そうな匂いを放つ様々な色になっている果実を見つけた。
「おぉ! いい匂いだぁ。これはうまそうだなぁ」
枝に止まり、目の前のご馳走を食べようとクチバシを近づけると――
ヒュンッ! パシッ
ムチの様に蔓が飛んできて、私の足を掴んだ。
「なっ! ちっ!」
とっさに魔法で風の刃をつくり、蔓を切断した。
そのまま、上に飛んで逃げようとしたが――
ブスッ
「うっ」
(しまった。完全に油断した)
右の翼に攻撃を受けてしまった。
「とにかく、治療を……」
魔法で治療しようとするが、動揺とお腹が減って上手く魔力を練る事ができない。
「はぁ……はぁ……何とか逃げる事ができたか」
くそっ!
あの魔物め!
この私を騙すだけでなく、傷まで負わせるとは!
絶対にやり返してやる!
私は、そう心に、かたく誓った。
(ダメだ。腹が減って力がでないし、翼に傷を受けてしまった。もう……落ちる)
どうか落ちた先は魔物がいませんように……。
スーラ様の使命を達成するべく、生き残るために願った。
☆
「はあっ!」 ボコン!
「やあっ!」 ドカン!
「てやー!」 グギッ!
ルコは今、大好きな主様の命を受けて、魔物狩りをしています!
色々な魔物を狩っています!
今はCランク〜Bランクの魔物がいるところまで来ています!
もちろん、主様から授かったすごい能力を使っています!
主様は何でも作れて、何でもできて、すごいお方なのです!
ルコは、もっともっと、主様のお役に立ちます!
しばらく魔物を狩っていると地図に不思議な反応がありました。
(近づいてきますね)
赤ではなくて白ですか。
これはルコや主様に対して、敵対しない者でしたか?
地図を見ていると私と同じ位置で止まりました。
一応、警戒をしておきます。
(来ませんね?)
でも、主様のお力が間違うはずはありません。
(どういう事でしょう?)
そんな事を考えていると――
ゴチン!
「ふぎゃっ! ……痛いです〜」
私は、涙を目にためてそう言います。
どうやら、上から降ってきたようです。
周りを見渡すと、私の左側に、薄い緑色の鳥さんがいました。
右の翼に怪我をしています。
大変です!
早く、主様の元に向かわなくては!
「あと少し我慢してください! もうすぐ私の主様が治してくれますから!」
私は自分がポーションを持っているのを忘れて、私を助けてくれた主様の元に転移しました。
☆
ゴチン!
(しまった! 人の上に落ちてしまった)
私は、この世界では珍しいとされるヘヴンオウルだ。
くそっ!
何でこんな時に人なんかに会うのだ。
捕まるのは面倒だな。
(……ん? ……この娘、人か?)
私が疑問に思っていると――
「あと少し我慢してください! もうすぐ私の主様が治してくれますから!」
その言葉と共に抱きかかえられて私はどこかに転移で連れてかれた。
☆
「主様! 弱っている子を拾いました。助けてあげてください!」
私は、家の部屋に転移すると、主様にすぐに言いました。
主様ならきっと助けてくれます。
私がそう言うと、主様は鳥さんの怪我を、魔法で治療して、ポーションを浸した布を巻きました。
(よかったです)
「ルコ。まずは、説明をしてくれ、どこで拾ったんだ?」
主様が説明を求めています。
「はい! 私が森で狩りをしていたら上から降ってきました! 私も同じだったので主様なら助けてくれると思って連れてきました!」
主様に報告した後、鳥さんに向かって――
「よかったですね! 助かりましたよ!」
と声をかけました。
そして、主様と鳥さんは見つめあっています。
「はぁ~~。まずは、説明してもらうぞ」
主様が、魔法で何かしています。
あれは、ルコにしたものと同じです。
ということは、ルコの仲間ですね!
この鳥さんも、ルコと同じ主様の番になるのですね!
さすが主様です!
どんな子なのか楽しみです!
☆
あの魔物娘に連れて行かれた所は、なんと私の目的地だった。
さすがスーラ様だ!
私に幸運のご加護まで授けてくれるとは!
このご恩、一生忘れません!
治療をされ魔物娘から声をかけられる。
さて、この男、おそらくアストと言う者に、どうやって伝えようか、スーラ様は理解してくれているが、私は人語は喋れない。
そんな事を考えながら男を見ていると――
「はぁ~~。まずは、説明してもらうぞ」
そんな言葉と同時に、胸のあたりに何か付けられた。
:(聞こえるか? お前に念話を送っているんだが)
こいつ、この私をお前呼ばわりとは中々度胸のあるやつだ。
:(ほぅ。この私をお前呼ばわりか。いくら神の加護を受けているからといっても調子に乗るなよ。怪我については助かった感謝している)
怪我の治療をしてもらって、何も言わないのはどうかと思ったので、一応お礼も言っておいた。
:(それは悪かったよ。というか、俺に加護があるとなぜわかった?)
:(私は神に使える者だぞ。すぐにわかる。それと私はお前に会いに来た)
:(俺に? どういう事だ? 教会の祭壇の前で祈ったときは何もなかったぞ?)
:(事情があって今は連絡が取れないだけだ。だから、私が来た)
:(何だ? もしかして、面倒な事なのか?)
:(神の見習いが一人、闇に堕ちた。そして、標的にされたのがスーラ様のこの世界だ。理由はわからないが恐らく、適当なのだろう)
もう少し詳しく話してやろうと思っていると――
:(スーラ様っておじいさんだよな?)
そんな質問がきた。
間違いは訂正しなければ。
:(違うぞ。目麗しい女神様だ)
:(でも、こっちの世界に送られた時におじいさんの声だったんだけど。後、この世界では、好きなように好きに生きてくれと言われたんだが)
こいつは精神世界で会ったのか?
:(詳しくはわからないが、精神世界などは本人のイメージが強く出るからな。それと、嘘ではないぞ。スーラ様自身の力を可能な限り使ってそんな能力を渡しているのだからな。詳しい話は後でしてやるからそこの魔物娘と同じく人化させてくれ)
:(できないのか?)
:(できん)
できるわけがないのだ。
人に擬態する魔物ならともかく。
胸に付けられた物を消され、もう一度同じ場所に付けられた。
服を渡されたので被って、人化と心の中で言ってみると――
(おぉ……なんだか、不思議な感覚だな)
「ほぅ。これが人の姿か。そこの娘、けがした私を拾ってくれて感謝するぞ」
どんな姿か分からないが、目の前のこの男の様子を見る限りでは、中々悪くないんじゃないか。
「はい! これで一緒の仲間ですね!」
「よかったなルコ。それで、なんで怪我してたんだ? お前の実力なら怪我なんてしないだろう」
うぅっ。
痛い所を突いてくる。
説明しないとダメか?
「私の事をまたお前と言ったな。怪我については、あまり言いたくない」
言えるわけがないのだ。
この私が、腹が減って擬態した魔物に怪我を負わされたなど。
「おい。邪神の手先とかだったらどうすんだ? こっちには星魔法の記録っていうのがあって勝手に調べられるからな」
そんな能力まであるのか!
スーラ様は何でそんな力をこんな男に……。
闇に堕ちたなんて、言わなければよかった。
「うぅ。わかった。言う! 言えば良いのだろう!」
後で勝手に調べられて笑われるなど私のプライドが許さん!
大丈夫、言うだけだ。
平然としていればいいのだ。
「お」
「「お?」」
「お腹が減って木の実を食べようとしたら擬態した魔物だったのだ!」
ぐぅ~~~
言い終わったタイミングで、私のお腹が鳴った。
(何でこのタイミングなんだ! 恥ずかしいじゃないか!)
そして――
「アストさん。夕食ができましたよ」
女の人が部屋に入ってきた。
今、夕食と言ったか?
「あら、そちらのかたは?」
「あっ……あぁ。彼女は……え〜……ゆ、ユーミルだ。ルコが今日仲良くなった冒険者らしい。彼女にも夕食を用意してくれ」
男は、とても優しい、落ち着いた声で、そんな事を言った。
「はい。かしこまりました」
その言葉と同時に、女の人は部屋から出て行った。
「……うっぐ……うぅ~~……うわあぁぁぁぁぁ」
気づくと私は、恥ずかしさと、何かが粉々に砕けた様な感覚に襲われ、号泣していた……。
☆
夕食は美味しかったが、私のせいで少々気まずい空気にさせてしまったな。
でも、なぜか、あの男の事は無視したくなったので無視していた。
夕食を食べ終わり、部屋に戻ると――
「それで詳しい事を話してほしいんだが」
「ユーミルさん! ルコにも教えてください! きっと力になれるはずです」
「というか、無視をするなよ」
「ユーミルさん。ルコなんてお腹が空いたら何でも食べちゃいます。だから、大丈夫です!」
「ルコよ。それはフォローなのか?」
「違うんですか? 主様?」
「たぶん、個人のプライドの問題で俺たちにはわからないぞ。そういうわけだから、気にされてても困るんだが」
何故か黙っている自分が、みっともなく思えてきた。
「わかった。話す。それと先程は見苦しいところを見せてすまなかったな」
「まずは、ユーミルの崇拝しているスーラ様について教えてくれ。どんな女神様だ?」
奴がスーラ様のことについて聞いてきた。
ふふん。
いいだろう、スーラ様のことならいくらでも話してやろう!
「スーラ様はとても偉大で、とても優しくて、とても思いやりのあるお方だ。ある時、私が仕事でミスをしても時間はたくさんあるのだから全然大丈夫だ。少しずつ直していけばいいと言ってくれたり、私が何か贈り物をすると何か返してくれたりと……」
私は、大好きなスーラ様のことを存分に語った。
「まったくお前みたいに脅して、辱めるという最低な行為をする者とは大違いなのだ! 今後はこのような事がないようにするのだぞ!」
そして一番言いたかった事を、目の前にいる男に、おもいっきり言ってやった。
「わかったから。本題に入ってくれ。神の見習いが闇に堕ちたってどういう事だ? というか当事者である神様方は何してるんだ?」
「仕事をやり、評価されると世界を一つ貰える。そうすると見習いを卒業するのだ。しかし、たまに見習いのうちから世界が欲しくなり、暴走する者が出るらしい。もちろん、神々が押さえるので逃れる事はできないが、初めて逃げた者がいるらしい。今必死で探していると言っていた。後、報告書の作成などで忙しいとか。すぐに、見つからない理由は、最初はスーラ様の世界にいると思っていたが、この世界のシステムの一部だけを変えて、本体は別の世界に行ったらしい。だから、向こうも混乱しているのだとか」
「その変えられた一部というのは何だ?」
「それはだな。……という事だ」
スーラ様に教えてもらった事を話した。
異世界召喚を封じる方法は、結局分からなかった。
教会でお祈りをすれば、すぐに会えるだろうからその時に聞いておこう。
スーラ様が伝え忘れるなどあるはずがないのだ!
まったく、失礼な男だ!
この後は、瘴気に侵された大地を治して、精霊達からお礼をもらったり、全員で同じベッドに寝たり、何故か私も店の手伝いをさせられて、結局教会には行っていない。
この町を離れる前に教会に行っておきたい。
それと、あの魔物にも仕返しをしたい。
あの時、鑑定があれば、私は引っかからなかったのだ。
明日は、奴とルコは、カーナとやらに話に行くらしい。
なら、私は『あれ』を狩りに行ってこよう。
☆
「ユーミル。俺とルコはカーナちゃんの所に行くけど、隣の教会だからお前も行くか?」
「今日は、ちょっと出かけてくる。教会は近いうちに必ず行く。スーラ様に報告もあるからな」
「報告が先じゃなくていいのか?」と思うアストであった。
「では、私は行ってくる。私の時みたく、カーナとやらを辱めて泣かせるんじゃないぞ」
去り際に忠告をして、森に転移した。
☆
地図であの魔物の場所は特定している。
少し手前に転移をして木の枝に止まり探す。
(ふふふ……見つけたぞ)
地図で確認すると群れになっている所もある。
鑑定を使い調べる。
[鑑定]
『ミミックフルーツ』 討伐ランクB
実で獲物をおびき寄せ攻撃する。
蔓の数が多いため一度捕まったら逃れるのは難しい。
実は高級食材として扱われる。
大変、美味である。
ユーミルの復讐対象。
情報によると、かなり美味いらしい。
今夜の夕食に出してやろう。
さて、今の私は、あの時とは全然違うぞ。
(一、二……全部で十匹といったところか)
私は地面を力強く蹴り、獲物に向かって行き――
「死ねっ!」
ザシュッ!
魔法で風の刃をつくり攻撃した。
実が潰れたり、汚れたりすると嫌なので、地面に落ちる前に収納にしまう。
「よし! まずは一匹! 後は残っている奴らをどんどん狩るぞ!」
他のミミックフルーツも同じように風の刃で狩り、実が地面に落ちる前に収納にしまう。
果実ではなく、クルミのような実を持った奴もいたので、それも狩った。
この時、私は鑑定しておけば良かったと、後で後悔した。
☆
「今日は愉快だ……こんなに晴れ晴れとした気分になったのは、スーラ様と一緒に、昼寝をした時くらいだなぁ」
あの辺りは狩り尽くしたので、家に帰ることにした。
(そういえば、作業場に大きな机があったな。あそこで今日の収穫分を出そう)
私は、仕返しができた嬉しさと、たくさん持って帰った嬉しさで、今日狩ってきた戦利品を、全部机に出して並べてみたくなった。
一応、ウガン殿とサリア殿に作業場を貸してくれと言っておこう。
「サリア殿。作業場を使っていいか?」
「ユーミルさん。どうぞ使ってください。主人がいると思いますが。そろそろ片付けるはずなので」
「わかった。ありがとう」
サリア殿に許可をもらい、作業場に行く。
ウガン殿にも許可をもらおう。
コンコン
作業場の扉を叩き――
「ウガン殿、ユーミルだ。作業場を使いたいのだが入っていいか?」
返事がないので入ってみると、片付けがしてあって、ウガン殿はいなかった。
(後で言っておくか……それよりも、先に今日の取り分を出そう!)
扉を閉め、収納から机に、戦利品に傷がつかない様に、ゆっくりと慎重に出す。
「おぉ〜! こんなに狩ったのか。並べてみるといいものだなぁ」
まずは、このカラフルなミミックフルーツの実を食べよう。
カキュッ♪ ハムハム♪ モグモグ♪
「ん♪ ……んんーー♪♪♪ ……美味い! これは、サリア殿とティリアとルコが喜びそうだ! 今日の夕飯の最後に出してやろう!」
一つを食べ終えて、もう一つの、クルミの様な木の実に手を伸ばし――
「きっとこっちも美味いんだろうなぁ。どんな味がするかな」
机の上で、木の実を手で叩き割った。
その瞬間……私は全て並べて出した事。
そして、鑑定を使うのを忘れた事を後悔した……。
パァン! パァン! パァン! パァン!
ミミックフルーツの実も含めて、全ての実が潰れてしまった。
そして……私は部屋の壁や床と同じく、果汁まみれ、粘液まみれ、粉まみれ、ナッツまみれになっていた。
徐々に視界は涙でぼやけて、目から涙が溢れそうになっていた。
(いや、泣いては……ダメ……だ。こんな……事で……泣いていては……また……また取りに行けばいいのだ。だから……うぅ〜〜うぅ……)
「ゔ〜〜わ゛〜〜ぁ〜〜。何で……こうなるんだ〜〜あぁ〜〜あ〜〜」
結局、色々と耐えきれなくて……号泣した。
☆
パァン! パァン! パァン! ……。
「何かしら今の音? 作業場の方から聴こえてきた様な……ユーミルさんかしら? 大丈夫なのかしら? ちょっと様子を見に行ってみましょう」
(ユーミルさん。最初、家に来た時、泣きながらご飯を食べていたから、辛い事があったんでしょうねぇ……彼女、かなり美人だから。ルコさんやアストさんみたいなお友達ができて、本当に良かったわ。アストさんならユーミルさんを大事にしそうだもの。そのまま、ティリアも、もらってくれないかしら?)
コンコン ガチャ
「ユーミルさん。サリアです。変な音が聴こえたので来ましたが、大丈夫……です……か……」
「ゔ〜〜わ゛〜〜ぁ〜〜。何で……こうなるんだ〜〜あぁ〜〜〜あ〜〜〜」
キィ
(何も見なかった事にしましょう。後でアストさんに頼みましょう)
☆
「ふぅ〜。危なかったぜ」
道具を片付けてる途中で、急に腹が痛くなって、トイレに駆け込んだ。
(それにしても、うちはトイレも高性能だな)
普通は壺で指定された場所に捨てに行かなきゃ行けないんだが……それがないのがすごくいい。
楽だ。
(急いで片付けたから、片付け忘れがないか、確認しに行かないと……ティリアとかが勝手に触ると危ないからな)
「さてと、確認を……」
ガチャ
「うぅうっ。ぐすっ。あ〜〜」
作業場の扉を開けると、ユーミルの嬢ちゃんが虹の様な色に染まり、粘液や粉、小さな粒まみれになっていた。
キィ
(後で俺がやったと思われないかなぁ)
とりあえず、見なかった事にして、誰かが来るまでトイレにいよう。
☆
「おい。ユーミル今度は何をやらかしたんだ? ウガンさん巻き込んでないだろうな」
そんな声が聞こえて作業場の扉が開いた。
「ぅ…うぐぅ……ぐす」
私はまだ泣き止まないでいた。
「あー。おいユーミル。大丈夫か? 掃除はしてやるから風呂に入ってこい」
困った様な優しい様な声で言われ、魔法をかけられた。
すっきりしたが風呂に入っておこう。
「……うん」
できる限りの返事をして風呂に向かった。
☆
キュッ ――ジャーー ――キュッ ――チャプン
「ふぅ〜。風呂は気持ちいいなぁ。普通は冷たい水で、水浴びだからな。ここは、今までと比べると贅沢だ」
お湯に浸かりながら考える。
私は……あいつが嫌いだ……。
スーラ様の事は駄女神。
私の事は、ドジだと思っている。
私が嫌っている事も、気づいているはずなのに……。
なぜ、優しくするのだろうか?
ルコと私は似ている……。
お互いに主に遣える者として……。
仲間ができたと喜んでいる。
ルコは寝る時に、必ずあいつの腕を抱いて寝ている。
安心するのだろうか……。
「……そろそろ出よう」
みんな、夕食を食べるのを待っているはずだ。
別に待っている必要はないのに……。
あいつの命令を守って、みんな律儀に待っているのだ。
☆
風呂から出て食卓に向かう。
やはり、待っていた。
(なぜ待たせる。ティリアとルコなど、涎を垂らしているじゃないか)
「みんな。心配をかけたな。後、待たせてすまなかった。食べよう」
「食べましょう! お腹すきました!」
「ティリアもー!」
「それじゃあ、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
☆
「なぁ、アストよ。食事の時、特に夕食は……なぜみんな揃うのを待っているのだ?」
夕食を食べながらそんな事を聞いてみた。
「ん? あぁ……前に俺のいた所は、家族みんなで食べる事が比較的多かったからな。それに……賑やかな方が……なんかいいだろう」
ルコやティリアを見ながらそんな事を言った。
「そうか……そうだな」
(今度はちゃんとあの果実を持ってこよう)
「みんな……すまない。今日は、ミミックフルーツという魔物の、高級食材を持って帰ろうと思ったのだが、失敗してしまってな……また今度、取りに行ってくるから、期待して待っていてくれ」
気づくと、なぜか、みんなにそんな宣言をしていた。
「あらぁ……高級食材ですか。それは是非、食べてみたいです!」
「ティリアもー!」
「ルコも食べてみたいです!」
「ほぅ。確かBランクの魔物の実だったか? それは楽しみに待っているよ」
「ふふ。期待して待ってるよ。頼んだぞユーミル」
「もちろんだ! 任せておけ!」
この後、みんなから「頑張れ」とおかずをもらった。
(もう少し、今は、ここにいる者達だけでも、もっと大切に想ってみよう)
そうすれば、いつか、誰かに優しくする事が理解できるかもしれない。
「みんな……ありがとう……」
なんとなく期待されたのが嬉しくて……笑顔で、そんな事を言ってしまった。
ユーミル「なんか恥ずかしかったな」
アスト「とりあえず、読んでくれた読者の方々に
お礼を言っておこう」
ユーミル「そうだな」
アスト・ユーミル
「読んでくださりありがとうございます!
これからも星転をよろしくお願いします!」
アスト「次回の更新は21日です。今度も閑話だ。
ソナヤ町の人々の日常編だ」