2話 作戦実行
俺の相棒がおかしなことを叫んでから早数日。
相棒は捨てられた少女漫画を見つけては拾い、「解読する」というなり部屋にこもり
なにやらぶつぶつ呟いていた。
「フィロー!飯にするから出てこい!」
夕飯の支度が出来たのでフィロの部屋のドアをたたいた。
今夜は俺特製トロトロオムライスだ。どっかのシェフにも負けない自信がある。
「・・・」
「フィロ!いい加減にしろ!いつまで部屋に引きこもってる!飯食ったら仕事だぞ!解読とかもういいから!」
俺は引きこもりの子供をもった親か!?
そもそも部屋を与えてしまったのが間違いだったか・・・
「もういい。飯抜きにするからな」
俺特製のオムライスが冷めないうちに一人で夕食をとることにした。
「・・・あ~!やっぱ出来立ては美味しいなぁ~!」
フィロに聞こえるように大きな独り言を呟いたが反応が無い。
いつもは匂いにつられて部屋から出てくるのだが・・・
「・・・いないのか?」
出かけるなら出掛けるで言えよ・・・
俺の手料理が無駄になる。
・・・ドアがあるからいけないんだな
「よし。ドアをぶっ壊そう」
そう決意した俺はトロトロオムライスにしばしの別れを告げ席を立とうとした。
その瞬間、向こうでドアの空く音が聞こえた。
「フィロ!いるなら返事くらいしとけ!オムライス冷めるから早くこい!」
そう言い振り返ると、フィロの部屋のドアは閉まったままだった。
「??」
顔を戻すと、ピンクの髪に青い目をした色白の18歳くらいの少年が俺のオムライスを食べていた。
「やあ!ソフィ久しぶり!愛しの僕だよ!相変わらず君の料理は絶品だね!しばらく会えなくて本当に寂しくて死んでしまいそうだったよ!」
「デリ・・・お前、家の鍵をどうやって開けた。厳重な鍵をつけたばかりだぞ」
「何を今更!僕に不可能ってことは何もないのさ!逆に質問するけど開けられないとでも思ったの?面白い冗談だね!ははは!」
この、よく喋り人を小ばかにして笑っている少年は、組織とは関係のない俺の数少ない友人だ。
デリは可愛い顔をしているが性格は腹黒を通り越し、腹にブラックホールでも飼っているんじゃないかと思うほど。
単純に言うと自信過剰で性格が悪い。
そしてなぜか俺のことが大好きらしい。
「それ、俺のオムライス」
「・・・?知ってるよ?なにか問題でもあったかい?僕は君の料理も大好きだよ!」
「うん。それは十分知ってる」
「なら何も問題ないね!あっ、そういえばこの前新しい相棒が出来たんだって?僕の愛しのソフィに見合う相手なの?」
当たり前の様に俺のオムライスをたいらげ、空いた皿を差出しおかわりをねだりながら話を続けるこいつの態度はどうにかならないものか。
「そもそもさ、君の相棒は僕でしょ?僕は組織には属してないけど君の仕事だったら何でも助けるって約束だったじゃないか!僕にとって君は友達以上なんだから!僕以外なんてだめ!あ、おかわりまだ?そこにあるのよこしてよ。本当に君の料理は絶品だよ!」
デリが指差したのはフィロのためにとっておいたオムライスだった。
「・・・そのおかわりは、さっき言ってた一緒に暮らしてる新しい相棒のものだよ。」
その瞬間デリが硬直し皿を落とした。
(やばい、めんどうなことになりそうだ・・・)
言うのではなかったと後悔したが、食べられてしまってはフィロに半殺しにされてしまうので仕方ない。
「・・・あぁ愛しきソフィ。君は新しい相棒と一緒に暮らして、更にごはんまで作っているのかい?」
「まぁ成り行きでな。最初は一緒に暮らすのが少し怖かったがもう慣れたもんだ」
と、少し笑いながら話した俺は後悔した。
なぜならおぞましい殺気が部屋に充満していたからだ。
もちろん発祥地はデリさん。
『やばい!デリの顔が見れない・・・!』
「そいつを僕の前に出せ。気に食わない奴だったら殺してやる…」
可愛い顔が台無しだ。そもそも何でデリはこんなにも俺のことが好きなのだろうか?と考えているのも束の間、デリが叫びだした。
「僕のソフィだぞ!!ソフィ!君は騙されている!君に合うのは僕だけなんだよぉ!」
(何を根拠に騙されていると・・・)
「まぁ落ち着けよ。良い奴だからさ。そんなカッカすんなって」
と作り笑顔MAXで、今にも暴れ出しそうなデリを落ち着かせる方法を考えながらオムライスをそっとしまった。
しかしフィロの奴どこに行ったのだろうか。
いつもなら出掛ける時は一言声を掛けるか電話で連絡をするはずだが。
めんどくさいのでいっそのこと早く二人を会わせて、この状況をどうにかしてしまいたい。
きっとデリは相棒が男だと勘違いしているから、少女と知ったらロリコンと思われて引かれるか、少女なら仕方ないと思い落ち着くかのどちらかだろう。
引かれるのは腑に落ちないが、ムスっとしたデリを横目に帰宅の催促をするためフィロに電話を掛けることにした。
~♪
「あれ?部屋から着信音が聞こえる・・・」
「どうしたのさ。あぁ!誰に電話してるの!僕がいるのに他の人と話すなんて!あ!まさか相棒君かい?もっと許せない!」
付き合いたての嫉妬深い彼女みたいなことを延々と叫び続け、俺の脚にしがみ付いていたデリを放っておき、フィロの部屋に向かおうとした瞬間電話越しにフィロの声が聞こえた。
『___もしもし』
部屋からも同じ声が聞こえる。
『もしもしフィロさん。電話に出るんじゃなくて今すぐ部屋から出てきなさい。オムライスが泣いてるよ』
「ソフィ―!!僕とも会話してぇぇぇ!!!」
『オムライス・・・なんかうるさいけど誰かいるの?』
電話越しにジュルッとよだれの音が漏れてきた。
『あぁ俺の友人が来ててな。面倒だからお前に会わせたいんだ』
『男?』
なぜ性別に興味があるのか謎だったが、そうだと答えた俺にフィロは更に謎のミッションを与えてきた。
『今から作戦を実行する。部屋にパン持ってきて。あと…』
一方的に指示をされ、何故と言い返す暇もなく電話を切られた俺は、泣きわめくデリと謎の行動をするフィロの相手をしている自分をとてつもなく哀れに感じた。
電話を切った(というより切られた)俺はフィロに言われた通りにフィロの部屋の中にパンを投げつけ、泣きわめくデリをフィロの部屋の前まで連れてきた。
(何をするつもりだ・・・?いくらうるさいからってデリが殺されてしまうのは困るぞ)
「愛しのソフィ、僕はなんでこんなところに立たされているんだい?」
俺の手を握り、涙目のデリが俺に問いかけるが、俺も理解できていないから首を傾けることしか出来ない。
なかなか出てこないフィロにしびれを切らし、リビングに戻ろうとした瞬間ドアが勢いよく空いた。
「やだ!遅刻しちゃう~!!」
俺が投げつけたパサパサのパンを咥え、女の子走りをしながら聞いたこともない高い声でフィロが部屋から飛び出してきた。
そしてデリが視界に入った瞬間、フィロは方向転換し、闘牛のようにデリに突進していった。
もちろんデリはそれを容易く避けることが出来たが、生憎にも相棒の変貌ぶりに驚き硬直している俺の手はデリの手を強く握っていた。
ちなみに俺の握力は60㎏。
フィロの闘牛突進はデリの腹部に見事的中し、デリと俺は二人一緒に吹っ飛んだ。
白目を向いてるデリと大体6メートルは飛んだ記憶がある。
しかし俺たちを吹っ飛ばした張本人が吹っ飛んだ先に待ち構えているのは気のせいだろうか。
吹っ飛んでいる間に瞬間移動でもしたのだろうか。
「ウゲッ!!」
フィロは飛んできた俺を虫のように払いのけ、デリだけを優しくお姫様抱っこで受け止めた。
「痛っ…くない?」
受け止めたデリに意識があることを確認したフィロは、頬を赤らめ天使のような笑顔でデリに語りかけた。
「…大丈夫?怪我してない?もしかしてこれって私たち…運命かもね」
先程の行動から何を言っているのか理解できなかった。
恐らく生まれて初めてお姫様抱っこをされているであろうデリは、いつもの自信に満ち溢れた顔からは想像もできない間抜けな顔をして硬直していた。
俺も恐らく同じ顔をしていたと思う。
そこに更に畳み掛けるかのようにフィロが話しかける。
「あなたのお名前は?」
「デ・・・デリです」
デリの敬語は初めて聞いた。
「デリ君って言うのね。私はフィロっていうのだけど・・・なに?こんなことになって。いじめられてるの?大丈夫?」
と少し呆れたような、優しい顔で語りかけた。
いやお前がやったんだろ!と叫ぼうと思ったが状況が読み込めなくてうまく言葉が出てこない。
(ああ・・・とうとう頭がイかれたのか。)
この意味不明な状況と今後のことを考え呆然としていると突如、この前フィロの拾った少女漫画『ラブ♡君を奪いに』第1話の冒頭が頭をよぎった。
まさか・・・
「・・・?なんで顔を赤らめないの?助けた私と恋に落ちないの?」
「・・・ッ!?!?」
不思議そうにデリの顔をまじまじと見つめるフィロと、そのフィロにお姫様抱っこされながら状況が整理できず硬直しているデリ。
カオスすぎる。
しかしフィロ溜息交じりの一言で疑問は確信に変わった。
「作戦失敗・・・やっぱお前使えない」
不満そうにデリをゴミを見るような目で睨み付けてから床に投げ捨てた。
突進され吹っ飛ばされたあげく、使えないと言われ投げられたデリが不憫でたまらないが、問題はそこでは無かった。
「ソフィ!なんなのこの女の子ぉ!痛いし怖いよぉ!」
やっと目が覚めて叫んで怯えているデリを放っておき、俺は答えを知りながら質問を投げかけた。
もしこいつが俺の想像通りだったら、今後の仕事も生活も面倒なことになる。
どうか外れていてほしい。
「フィ・・・フィロさん。君は一体何がしたいのかな?」
フィロは振り返り、見たことのない照れたような笑顔で俺に斜め上な回答をしてくれた。
「恋がしたいと思って!再現してみちゃった。でもこいつはダメ。あ、オムライスは?」
「・・・。え?なんて?」
だから!と説明を続けるフィロの言葉は全く頭に入ってこなかった。
俺はフィロの謎の発言から始まった今までの行動を振り返り、フィロが初めて漫画を手にした時に、自分が言い放った発言を思い出した。
【帰って解読でもしてみたらどうだバカ】
俺は生きていく上で、何事も後悔しない行動を常にとってきたつもりだったが、今回ばかりは、この奇跡的な本物のバカを生み出してしまった自分を呪いたいと思うくらい後悔した。




