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1話 彼女の決意


【木漏れ日が校庭に映り、穏やかな春の柔らかい風が体を包む。

新しい制服を身に纏い、4月のぽかぽかした陽気に浮かれていた少女は体育館裏で4人の女の先輩に囲まれていた。


『先輩・・・?こんなところに呼び出してなんですか?わたし入学式がありますから・・・』

『こんにちは1年生!入学おめでとう!ところであなた、中学では可愛いってちやほやされていたのでしょう?』

『そんなことありません・・・』

『あらあら~嫌に謙虚ね!私たちがあなたを呼び出したのは一つ忠告があったのよ』

一人の先輩が少女の新しい制服の襟をつかみ叫んだ

『これから誠くんと幼馴染だからって調子に乗って学校ででかい面するんじゃないわよ!』

誠君とは少女の幼馴染で一つ上の学園のプリンスだ

『そんなこと・・・キャ!』

背中を押された少女は裏の土手にある階段へ投げ出された

宙を舞う少女を見た先輩達は、まずいことをしたことに気付き逃げて行った

『大丈夫かい?』

地面に打ち付けられる瞬間に誰かが少女の体を救い上げた

『・・・ッ。あ・・あなたは・・・?』

『駿っていうんだけど・・・なに?入学初日からいじめられてるの?大丈夫?』

と少し呆れたような、優しい顔で少女を救ったのだった】


パタン…


少女漫画という機密文書を解読していたフィロはそっと本を閉じた。


首都から遠く離れ、忘却された町の中にあるアパートの一角。

薄暗い部屋で、お気に入りのソファで自覚なく溜息交じりの呼吸をして膝を抱え座って寝ている相棒と、どこから来たのか2匹の野良犬がソフィの隣にいた。


秩序という言葉の無い町は、自由という暴力を振りかざし誰も癒そうとはしなかった。

外は頭のおかしい奴らが蔓延り、毎晩飽きないのか酒とタバコの臭いが充満した路地で金の無い奴らが博打を打っている。

ふと外を見ると切れかけた街灯が、銃弾の跡が残る窓ガラスをチカチカと照らしていた。


「家があるだけましだろ」


ソフィが言っていた言葉を思い出した。

かび臭く重い空気の部屋だが、仕事をする環境は十分あるし自分の寝床がある。

最初は誰かが自分の空間にいるのは耐えられないと思っていたが、今では納得している。


機密文書1話目を読み終えたフィロは立ち上がり、だらしなく寝ている相棒に駆け寄った。


「ソフィ起きて起きて。一緒に解読して。私だけじゃ無理かもしれない」


顔も上げず、長く伸びた白金の前髪をかき分け、だらしなく目線だけよこしたソフィはフィロの持っている本に視線を向けた。


「なんか・・・イケメンがもったいないよ」


「うるさい。寝方は俺の自由だ。というか、まじで解読してんの。お前・・・」


「機密文書だよ。上官に提出する前に確認していいかわからないけど、フィロが解読してみろって言うから・・・」


「で、どうだった?」


せっかく機密文書を解読しているというのに相方は呆れた顔でこちらを見てくる。


「解読したんだけどね、女の子がイケメンに助けられた。現実じゃありえないことが書いてあった。階段から落ちたくらいで、助けられた女の子が顔を赤らめて照れてる。私だったらやった女どもを殺してる。腑抜けているし平和ボケしてる。」


「状況が全く分からないけど・・・お前、読んでそれが本当に機密文書だと思った?」


ソフィが真剣な目でこちらを見てくる。


(・・・これは私が相棒として、機密文書を本当に解読出来るか試されているのかも)


今までの相棒は私の名前を呼ぶこともなく、ただの『武器』として使っていた。

ソフィは違う。私の意見を聞いて人間として見てくれている。こうして寝床も与えてくれた。


「私にまかせて。少しでも恩を返す」


「へ?あぁ、頑張ってね」


意味が分からないといった風な顔をしているソフィをよそに、フィロは自分自身で解読をすることを決意したのだった_______





『ラブ♡君を奪いに』全巻セットを読み終えたフィロは雷に打たれたような衝撃と共に、涙を流し震えていた。


武者震いか?

いや・・・この感情はなんだ?なぜ涙が出てくる?

涙なんて流したのは覚える限り一度だけ。

でもこの涙はそれとは確実に違った。


自分の環境と比べると、この機密文書の世界は平和に満ち溢れていた。

多くのイケメンが少女を奪いにくる。膝を擦りむいただけでも優しい友達が助けてくれる。美味しいご飯も優しい親もいて、毎日が幸せ。


唯一少女が悩んでいたものは『恋』だった。


『恋』だと?

孤児院にいた時なんて毎日青あざだらけだった。幼馴染といえる奴らとは生きるために殺し合うような日々で、『恋』という感情があるということは、この機密文書で初めて知った。

客観的に見れば理解できる感情だが、人を想う気持ちはどのようなことなのだろうか。


自分の環境がおぞましいものだったと突きつけられる様だ。思い返すだけで怒りが満ち溢れてくる。


「・・・うらやましい。こんな現実があったらなぁ。」


誰かが呟いた。


「・・・ッ!?」


驚き辺りを見回したが体育座りで寝ている相棒と犬しかいない。


自分の放った言葉だと気付くのにそう時間はかからなかった。

汗が額を流れて床へと落ちた。


最初にこれを読んだ時に自分がソフィに放った言葉を思い出す。


『平和ボケしてる』


やっと気付いた・・・この機密文書は敵が“現実ではありえない日常”を想像させてしまうような洗脳機密文書だったんだ!

きっと洗脳した者を腑抜けにして殺すという作戦だ!

今までに私をこんなにも動揺させることが出来るものはなかったことが確信だ。


あの頭のいいソフィでさえ気付かなかった事に気付けたフィロは歓喜した。


だが気付いてしまった。

この文書を組織に持ち込むわけにはいかない。皆が洗脳されてしまう。

特にソフィには迷惑をかけたくない。


自分だけの夢物語として密かに宝物にしておくか…?


しかし私は洗脳されてしまったのか・・・私もこんな夢みたいな経験をしてみたいと感じてしまう。

周りには話せない。

寝ているソフィに語りかけるようにつぶやいた。


「ソフィ、わたしどうしたらいい・・・?」


ソフィは寝ているのか起きているのか、大きなあくびをしてソファに横になってしまった。




『__人生とは、解かれるべき問題ではなく、経験されるべき現実である』


前にソフィが何か読んで呟いてにやけていた。


ソフィがたまに発する言葉は基本意味がわからないが、唐突に思い出した。


あぁ、このことか。

やっぱりソフィは頭が良いな。


誰にも気付かれず捨ててしまう選択も、宝物にして保管する選択もある。

どちらかを選んでずっと夢物語に浸るか・・・?




・・・否!


「ソフィ!私わかったよ!いま自分のすべきことが!」


突然のフィロの叫び声に飛び起きた相棒は、ソファから転がり落ちた。


「・・・え!?なに!?」


ボサボサの髪をかき分けて動揺する相棒に、不敵な笑みを浮かべこう叫んだ。


「私には洗脳とはいえ、腑抜けにはならない自信と強力な力がある!生きている以上、どうせ仕事しかやることのない人生だ。人生とは、解かれるべき問題ではなく、経験されるべき現実である!!」


「え・・・?ちょ、おま、なに言って・・・」


相棒を無視してテーブルに立ち、洗脳機密文書を掲げこう叫んだ。



「ならば経験してみよう!『恋』というものを!」


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