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7話 生活

 夜の土下座事件を経て、アルテの繰り返しの要請によってバウルたちはこれからも普通に接してくれることになり、この事実はバウル、ラクサ、ガンター、リサナそしてアルテの間だけの秘密となった。

 アルテとしても、あんな対応されてしまっては、せっかく人との営みに喜びを見出していたのに悲しくて仕方がないので、その事実は彼にとって無価値だった。


「よーし、今日も頑張ろう!!」


「おお……いてててて……」


 キースの全身は悲鳴を上げている。頑張れキース。


「ちょっと予定変わるけど、キースは木材で生活道具作る力仕事手伝っておいてね」


「おうよ! ジーさま方を手伝えばいいんだな!」


「よろしくね。それじゃあ近場の木からやっていくから子供たちは近寄らせないでね」


 山漁りの飼育場所の中の木から切っておかないといけない、何でも食べるので稀に木の根元を食らいつくして木を倒すことがある。拠点に突然大木が倒れこんできては困ってしまう。

 ある程度拠点近くの木々は伐採する。山漁りの二匹は子供たちにプコとペコと名付けられて可愛がられている。今日もフガフガと土を掘り返している。

 二匹の居場所に気をつけながら次から次へと木を切り倒していく。ナイフで……

 太い木の幹にザクっと短刀を突き立ててぐるっと回すその姿は、まるで粘土でもいじっているのかと錯覚してしまうだろう。

 残った木の根もウォルが引っ張って文字通り根こそぎ取り除く。

 手際よく枝を落とし、紐を括んでウォルとアルテでいとも簡単に村に丸太を持ち帰ってくる。

 研ぎなおした鉈を使って木材を加工していたキースは、その光景を信じられない物見るように眺めるしかない。

 

「すごーい、明るくなったねー!」


 子供たちが拠点の周囲の木々を伐採したことで明るくなったことを喜んで走り回っている。

 結局山漁りの牧場内の大木と、拠点周囲の一部の大木を一日で丸太素材へと変えてしまった。


「お前たち……どうなってるんだよ……」


「何の話? おお、キース達も凄いじゃないか椅子に机、それに食器も!」


「あ、ああ。まぁじー様たちも手伝ってくれたからな」


「もう少し丸太を集めたらしっかりとした家を建てよう。集団生活になるけど、僕らと皆なら問題ないだろうし」


「おう。早いとこガキどもをちゃんとした屋根のある所で寝かしてやりたいからな……じー様もな」


「えーウォルと寝るとすっごくあったかいよー」


「私もウォルと寝るのがいいー」


「大丈夫だよ、家が出来てもウォルは仲良くしてくれるよ」


「「「「「わーい」」」」」


 まだうまく話せないが一番小さいロッタも喜んでいる。

 

「ここに来たらロッタもよく食べるようになったのぉ、いいことじゃ」


「しかたなかろう、あの家も豊かではない、ここでの食事程のものはなかなか手に入らんよ……」


「ほんとに、皮肉な話じゃ……」


「村の者たちにも……森の恵みを教えてあげたいのぉ……」


「じー様たちは村のやつらを憎んでねーのかよ」


「……仕方ないんじゃ、ワシらのような貧しい村じゃ、それは一番ワシらが理解しておる」


「……チッ……」


「それでしたらしばらく整備したら村の人たちと交易でもしますか」


「はぁ? 何言ってんだよ、ここは死の森。確かにこの辺りはましだが、コブリンやコボルトみたいな魔物がうろちょろする入口そばを行ったり来たりするなんて自殺行為だろ!」


「伐採を森の外までつなげてしまって、そこをウォルの目印でつなげれば良いんだよ」


「なっ! ここから森の出口までどれだけ……いや、でも、時間をかければ……ウォルの銀狼としての力があれば確かに……」


「ね? 確かにすぐには無理だけど、目標としてはいいと思うんだ」


「なんだかすごい話になってきたのぉ~」


「……またママに会えるの?」


「ばかメイロ! ママの話はきんしってみんなできめたでしょ!」


「ままぁ……ぱぱぁ……」


 幼いヘーザがぐずりだしてその波が子供たちに伝染していく。

 ウォルは皆の間にすり寄って子供たちをなだめて回っている。

 そのおかげでなんとか鳴き声の大合唱にはならなかった。

 ウォルはそのまま子供たちを眠りにつかせ、自らも体を休める。

 しかし、そんな子供たちの姿にキースをはじめバウルたちも村へと続く道を作ることを心に誓う。


「アルテ殿、貴殿にたくさん頼ることになると思う。それでも、あえてお願いする。

 子供たちのために我らも粉骨砕身でお手伝いする。どうか村を救ってくだされ」


「俺からも頼む! お前……アルテの手伝いなら何でもする!

 ガキたちとじー様たちをもう一度村へ、そして、村にもこの森の恵みを教えてやりてぇ……

 この通りだ! 頼む!」


「やめてよキースもバウルも。

 僕自身がやりたいだけだから、でも、皆には明日からもいっぱい働いてもらうからね!」


「おうよ!」


 それからはアルテが二日は食糧の確保、一日伐採。

 キースは伐採と加工を交互に、バウル達は木材の加工と食材の加工に毎日忙しく動く。

 キースはアルテからいろんなことを学ぼうと積極的に努力していた。

 子供たちの世話も積極的に動いて、まさに八面六臂の大活躍だ。


「キースって優しいよね」


「ばっ、なっ、あっ、な、何言ってんだよ急に!!」


「いや、なんとなくね」


「そんなことねーよ! 皆で必死に生きていかなくちゃいけねーから、一番動ける俺が動くのは当たり前だろ! 優しいとかそういうわけじゃねー」


「ははは、キースの言う通りだ」


「い、いいから早く食えるキノコと食えないキノコの見分け方教えろよ!」


「はいはい」


 またある日。


「帰ったぞー」


「ああ、キース、ウォルお疲れー」


 キースは手に持つ籠からあふれんばかりの魚を台所の作業場に広げる。


「うわー、ほんとにキースは魚獲るのうまいね……」


「この辺りは手つかずだからな、入れ食いだから誰がやっても一緒だ!」


「えー、僕こんなに獲れないよー」


「な、なんだっていいだろ! いつも通り捌いて開いておくからじー様たち呼んでくれ!

 一部干物にするから! 油乗ってるのはそのまま焼いてガキどもに食わせてやってくれ!」


「はーい」


 こんな調子で頑張っている。

 

 そして、ついに丸太による家が完成する。

 ほぼアルテとキース、それにウォルで作り上げた。

 窓ガラスなどは無いが高床式の立派な物が出来た。


「やっぱり、人手があるといいねぇ」


「アルテ一人でも出来たんじゃないか?」


「ん? ぼく一人ならこんな大きな建物は要らないからなぁ」


「そういうことじゃねーよ。なんにせよ、その、ありがとな」


「ううん、僕だけじゃないよ、キースもありがとう」


「お、おう! ま、まぁお互い様だな!」


「すごーい! ひろーい!」


「ねーねーここでウォルと寝ていいのー!?」


「おらガキども! 家に入るときは足の裏綺麗にしてからにしろ! まったく……」


 子供たちに小言を放ちながらもアルテと一緒に家具を家の中に運び込んでいる。


「なんじゃわしたちよりよっぽどキースのほうがしっかりしとるのぉ」


「ついつい子供達には甘くなるからのぉ」


 食器などを棚にしまいながらキースのやり取りに目を細めるバウルやラクサ達。

 こうして新たな拠点を手に入れてアルテたちの生活は新たなステージへと入っていく。


「次は水の確保かなぁ……」


「前に言っていた水路か……材料はあるから、あとは川の上の方から組んでいくだけだな」


 木枠で作った水路を川の上流に設置して水を拠点に引き込んでくる。

 排水も同じように作成する予定だ。

 水に強く腐りにくい木々をさらに燻蒸することで防水性防腐性を高めた物を用意した。

 これを組むことによって拠点に常に水が流れ込み木製の貯水槽にたまった水を使用できるようになる。

 もちろん川の水なので煮沸かろ過装置を利用する。

 たまに迷い込んだ魚も貯水槽で泳いでいたりするのはラッキーだったりする。


「わーーー! 水だぁ!!」「冷たーーーい!!」


 子供たちは流れてくる水に大騒ぎではしゃいでいる。

 これで今までよりも細かく体を拭いたりできるし、利便性は格段に向上する。

 水を得られれば、農業にも手をだせる。

 森に自生している芋や野菜を少しづつ育てていく。

 実を結ぶのには時間がかかるが少しづつでいいのだ。

 山漁りは今日も元気に二匹でフガフガと楽しそうに暮らしている。

 お水の世話や生ごみを上げるなどの世話は子供たちが一生懸命にやってくれている。

 山漁りも穏やかに今の生活を受け入れてくれている。


 拠点での生活が軌道に乗ってきたころ、季節は汗ばむ陽気になっていた。

 





 




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