51話 帝都攻略戦最終段階
かつて栄華を極めていた帝都は見る影もなかった。
周囲には異形の魔物たちが徘徊し、禍々しい植生物が外壁にこびりついて脈打っていた。
まるで都市一つが巨大な生物になったかのような、そして、その生物は人間としての根源的な恐怖心を掻き立てる姿をしている。
「まさに、闇の都とでも呼びましょうか……」
「みろよアレを、あの実みたいなものが地面に堕ちるとあの化物に変わるみたいだぜ……」
「帝都内の人間は……絶望的ですね……」
「まさか帝都にあの様な禍々しい物が眠っているとは……」
全員がその光景に驚くしかなかった。
アルテたちピースメイカー軍が帝都に迫ると、突然帝都が爆発した……
正確には黒煙が湧き上がり、外壁や城壁にへばりついた黒煙があの異形な生物に姿を変えた。
その生物からボタボタと堕ちる液体や実と呼んでいる物体は魔物へと姿を変えてピースメイカー軍に襲いかかってきた。
もちろん敵襲に警戒していたピースメイカー軍は魔物の群れを打倒したが、際限なく生まれる魔物に交代を余儀なくされた。
ある程度の距離が離れると追ってこない事を確かめて陣を敷いた。というのが今の所の流れだ。
聖獣や兵士がある距離の内部に入ると魔物たちは襲ってくる。
なんとか鳥類の聖獣の助けで帝都内の様子を知れたが、あの液体のような魔物に埋め尽くされていた。
どうやら帝都内は完全に魔物の巣となっており、帝都に住む平民、貴族、王族含めて生存者は見受けられなかった。
「結局正面から打破以外に打つ手はなさそうだな……」
「そうですね……」
「奴らは手強いからのぉ……それにキリがない……」
「各部隊をいくつかのグループに分けて組み合わせて、そのグループを交代させながら戦うというのはいかがでしょう?」
「敵は不眠不休でも戦えて、こちらは睡眠や食事を取らねばならんからなぁ……」
「もしくは全軍をもって突撃し、あの生物を一気に減らしにかかるか……」
「それだと敵の総量がわかってないと危険だね」
「アルテ様の仰る通り、表面に見えているだけが敵の全てでは無いと思ったほうが良いだろうな」
帝都攻略の軍議は度々行われていた。
あまり革新的な結論が出ることはないが、補給や装備の拡充などが話し合われ確実に準備は進んでいる。帝都の被攻撃範囲のすぐ外に大型の砦を建造している。
帝都攻略の要、大群となったピースメイカー軍の兵士たちの生活拠点でもあり、訓練設備も兼ねる。
魔物をわざと引きずり出して、大群をもって殲滅する。
もしかしたら相手の消耗を狙えるかと思って始まった戦法だが、今では闇の魔物たちとの戦闘訓練の意味合いも合わさった。
残念ながら敵の闇の母体と呼称される液状の魔物は減ることもないし、未だに魔物を吐き出し続けているが、繰り返す戦闘によって聖獣と兵士の練度は上がっていく。
魔物を倒すと稀に素材も残る時もあり、それらを研究して新たな武具なども開発されていく。
経験値稼ぎと装備用の素材集めを同時に行っているようなものだ。
ピースメイカー軍によって開放された帝国は現在恵みの春を迎えており、どうやら闇の勢力によって穢されていた大地が光の恩恵を受けたためか、空前の大豊作となっている。
聖獣の中には戦闘には向かず、大地に祝福を与える存在も多くいたために、各地に聖地と呼ばれる特殊なエリアが出来上がっていた。
そういった場所では本来貴重と呼ばれていた薬草などが豊富に生息するようになり、帝国中の衣食住、医療などが劇的に改善していくのだった。
帝国の黄金期、そう呼ばれる3年間をピースメイカー軍は厳しい軍事訓練と共に充実して過ごすことが出来た。
結果としてピースメイカー軍、後に光の軍勢と呼ばれる精強な部隊が完成することになる。
「何度か敵をおびき寄せて戦闘訓練を行っております。聖獣とのコンビネーションも磨かれており、十分戦果をあげられると思います」
「帝国全土をほぼ平定して兵站の確保もしっかりとしております。砦の建設も完了し準備は整いつつあります」
「決戦は……初夏……陽の光を味方に、我らで帝国を闇から開放しましょう!」
「全軍に通達、決戦は初夏、獅子の月王の日!」
軍議に出ている皆が力強く頷く。
アルテは幼さもなくなり精悍となった青年に成長しており、帝国全土、ピースメイカー軍にとって真の意味での皇帝としての威厳をその手に修めていた。
帝国領における唯一の闇の領域となった旧帝都、それを取り戻す最終決戦が、今始まろうとしていた。