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22話 始動

「まずはドラグガフト家とアイスバーグ家に接触を取りましょう。ただし、決して露見することなくです」


「それに関しても黒い羽根が協力してくれるそうだ。それころか、なんとリーダーがアルテ様にお会いしたいと申し出てきました」


「凄いことだぞアルテ、あの集団のリーダーは謎の人物で、実際にあったことのある人なんて聞いたことがない……」


「罠の可能性は?」


「それはない、こういった約束取引では決して裏切らないというのは黒い羽根の存在意義でもある。

 もちろんそこに利があるからというのは否定しないが、リーダー自身があいにくる以上、我々と同等以上の話があるということだと思う」


「確かに……言って見ればここは相手側の本拠地、その場にトップ自身が訪れるというのは何か敬意みたいなものを感じますね」


「僕も物資の運搬など様々なことでお世話になっているから、会えるのなら直接礼を言いたい。

 話を進めてほしいです」


「わかりました」


「現状の我が町の人員名簿と台帳を作りました。

 この町もきちんと独立した形で生かしていくのならば、法や税が必要になると思います……」


 アルテたちは法に関して、旧帝国の法を流用するつもりだ。

 現皇帝の良いようにいじくられる前の法律は、とてもよくできたものと言って良かった。

 

「皇帝になりたいってわけじゃないんだけど、今の状態はどうにかしなくちゃって、なぜか強く思うんだよね……」


「アルテ様の血がそうさせるのでしょう、皇帝制度自体に関しては、アルテ様が帝国を手中に収めてからゆっくりと考えましょう」


 バウルはその知識をもって若いファーンを補佐してくれている。


 森の街ピースメイカー、その噂は近隣の村や町へと黒い羽根の協力で広められた。

 アルテの存在は伏されたままに、豊富な食料資源、魔物に襲われない生活をうたい文句にしている。

 度重なる天災による疲弊と、貴族による重圧によって擦り潰された人民は、その噂に飛びついていく。

 森への秘密の通路を通って夜な夜な町への入植者は増えていく。

 ピースメイカーの街は拡大を続けていく。

 広大な森から見れば小さな小さな変化だが、ライトディア帝国にとっては、大きな、そして着実な変化だ。


 たくさんの人々が集まっても、森はその恵みによって彼らを豊かにする。

 人々自身も自分たちが生き残るために一生懸命に体を動かす。

 貴族のいない帝国の果て、死の森と呼ばれる不毛の地だったはずの場所に新たに生まれた街で、自らの働きによって日々の生活を支えるという当たり前の生活を送る。

 森の豊かな食生活と訓練や様々な作業で人々は身も心も満たされていく。

 そして、自らの居場所を守るために武器を取り訓練に明け暮れる者もいれば、自らの才を利用して街の運用を手伝ったり、作業によって町の生活を支えたりする。

 


 アルテは自らに生まれた魔紋の知識をどうにか誰にでも理解が出来、利用できるようにまとめる作業に入ったが、他者が読むとどうしても複雑怪奇なものになってしまうことに苦労していた。

 魔紋というものは理論で説明のつかない直感的な感性が必要なものだった。

 それでも何人かはいくつかの魔紋を理解して作成することが可能になったりはしたので、アルテのしていることは無駄ではなかった。

 魔紋を利用した魔道具は、ピースメーカーを首都や巨大な街よりも利便性の高い都市となっていく。 

 

「まともな軍とはいえないまでも、アルテ様に真の忠誠をささげるつわもの達が集まっています。

 鍛えれば、ええ、いい兵となります」


「それに、ドラグガフト家とアイスバーグ家の戦力が加われば、組織的な抵抗が可能な軍隊になり得るでしょう」


「あまり、血は流したくないな……」


「それならば、出来る限り早くことを進めることが肝要と思います」


「そうだね、バウルの言う通りだ。一度決めたら、迷わず進むしかないからね。

 ところで、マギウスとファーンは部隊を率いて戦ったりしたことがあるの?」


「いえ、私は大規模な軍行動は紙の上だけです」


「もっぱら戦士として戦うことが専門です……」


「歴史あるドラグガフト、アイスバーグにならよき将がいることでしょう。まずは合流を急ぎましょう」


 ファーンは基本に忠実な片手剣とスモールシールドを用いる剣士。

 父親譲りの武技は疾く鋭い。

 マギウスは巨大な両手剣を手足のように扱う戦士。

 強大な膂力を使用した苛烈な攻撃は大抵のものの防御を破壊してしまう。

 ピースメイカーの住人は技のファーン、力のマギウスと呼んで讃えた。

 二人とも個人の兵士としては並ぶ者のない強者だが、軍を率いるとなると勝手が違う。

 一部隊を率いることなら先頭に立って勇敢な部隊と化すだろうが、多くの部隊を戦術的に操ったり、もっと広く戦略的な視点を持っているわけではない。今の段階でではだが。


 バウルの意見はいたって普通な考えだった。

 良き兵と将がアルテの元へ派遣され、それを足掛かりとして帝国軍との決戦へと赴く。

 誰しもそう思ってしまっていたが、実際に二つの貴族から贈られた助力は彼らの予想を大きく裏切っていた。


「……アルテ様、ドラグガフト、アイスバーグ両家とも、例の手紙を読み解いたアルテ様に大変喜んでおいでだったそうです。ただ、今だ未知のアルテ様に全力で助力するのはリスクが高すぎるという判断の元、歴戦の勇士()()()者たち、そして、伸びしろ盛んな者たちによる編成軍が送られてきました……」


「ありていに言えば、志願した退役した兵士とあまり成績の良くない新兵を押し付けられたと……」


「マギウス、その言い方は酷いよ。今だどこの馬の骨かもわからない僕に、志願してきてくれた大切な兵だよ。兵士として長い経験があるんだ。僕たちの組織にたくさんのことを教えてくれるよ」


「そうですね、失礼しました」


「引退兵200新兵50、数の上では中隊規模です」


「凄いじゃないか、みんなもう街には来ているの?」


「明日には到着予定だそうです」


「よし、カイラ、ピースメイカー式の歓迎をしよう!」


「任せとけ!」





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