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5.絶対忘却魔法についての無意味な議論

 シェンティアちゃんは思った。思ったのだ。


 なぜ人は続けることが出来ないのかと。


「だってそうじゃない。続けなければいけないことのはずなのに、続けようという努力を怠るじゃない」

「怠っているのはあなたでしょ」

「いやまぁその、そうですが」


 シェンティアにもさすがに自覚はあったようで、少し黙ってしまった。さすがに助け船を出してやるか。


「やらなければならないことがあるとき、忘れてしまうパターンと、面倒でやらないパターンがあると思うのだけれど、シェンティアはどちらなの?」

「複合パターンね」

「複合パターン」

「ゲームやってる途中で思い出して、セーブポイントまで行ったらやめて掃除しようと思うんだけど、セーブポイントに着く頃には忘れていて、ゲームを続行しているの」

「手の施しようがない馬鹿ね」


 呆れるしかない。しかし、気持ちは分からないでもない。そういった経験自体は、ツェツィにもあった。


「メモを残しておくとか」

「メモを見る習慣がないから、あとでゴミが増えるだけなのよね」

「確かに、メモを見忘れたら元も子もないわね」

「学校は、勉強よりもメモを取らせる授業をすべきだよ」

「板書を写すときにメモとかしないの?」

「最近ようやくし始めたけど、十五年近く生きてきた慣習はなかなかに染みついているものよ」

「つまり?」

「板書を写すときにメモをするという新たな慣習が増えただけで、日常生活でメモを見ることに関しては改善されていないわ」

「駄目じゃん」


 シェンティアにしては珍しく、少しは努力しているようだ。しかし、人生経験もシェンティアと同じレベルの私に、解決方法を求めないで欲しい。別に何も思いつかない自分に対しての怒りをシェンティアにぶつけているわけではない。シェンティアにはもっと自分で努力することに対しての喜びというものを味わって欲しいのだ。


「ツェツィの顔、なんとも言えない顔になってるわよ」

「ごめん」

「なんで謝るの」

「いやなんとなく」


 シェンティアは、何気なく鞄を漁り、次の授業で使う教科書を用意し始めた。教科書、ノート、そして足りないものが一つ。


「シェンティア」

「なに?」

「今日の授業で使うはずのプリントは?」

「…………そんなものは忘れたわ」

「これも忘れたのね」

「もはや学校に置きっぱなしておけば良かったと後悔している」

「まだ五分前だし、先に先生に報告しておいた方が減点が少ないと思う」

「そうね。授業に突入してからよりはましか」


 そういうと、シェンティアは教室の外へと出て行った。


 ふと、シェンティアのノートを見ると、紙切れがはみ出している。


「もしかして、本当は忘れていなかったのに、忘れたと勘違いしたんじゃ」


 そう思った私は、ノートを開いてみた。その紙切れは、先ほどの話で出てきたメモだった。


『お風呂掃除ちゃんとする』


 学校で使うノートにこれを挟んだって仕方がないのでは。

 それ以外にもメモがあちらこちらに挟んであることに気づいた。


『妹にご飯をあげる』


 これも忘れられたメモ……ということは、この日のシェンティアの妹は、飯抜きだった可能性がある。


『役所へ行って、住民票の写しを貰ってくる』


 大事そうなメモだが、これも忘れたのだろうか。ここにあるということは、そういうことなのだろう。


『ツェツィに借りていた漫画を返す』


 そういえば私自身も忘れていたが、漫画を十数冊貸していた記憶が蘇ってきた。あとで催促しておかねば。


『宿題をする』


 ノートを開いた時点で宿題をすることは思い出していると思うし、このメモをノートに挟むことはものすごく無駄なことのような気がする。


 他にもいくつかメモがあったが、それぐらいでシェンティアが戻ってきてしまった。


「先生優しかった。正直に言うもんだね」

「シェンティア、あんたに貸してた漫画、ちゃんと返してよ」

「え? あ、そういえば。すっかり忘れてたよ。また今度返すね」

「ちゃんと忘れないでよ」

「分かったよ」


 そう言うと、シェンティアはメモを取りだし、『ツェツィに借りていた漫画を返す』とメモしてノートに挟んだ。全く同じメモがノートに挟まっていることを突っ込もうと思ったが、じゃあどうすれば良いのかと問われると困るので放っておいた。

 おそらく、私の漫画はまだ当分帰ってこない。


この小説のことですわな(忘れていた)。

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