カインの弱点?
カイン、シャノン、ガロンの3人で城の目の前までやってきた。
「で、でかいな……」
あまりの城の大きさに、カインは首を痛めてしまいそうだ。
(城門の時と同じ行動だな)
(仕方ないだろう……)
「ありがとうございます。私も隣国などに足を運びますが、この城ほどの大きさのものは見たことがありません」
シャノンはどこか誇らしげに語った。
自分の家族が築いた建物を褒められたのだから、素直に嬉しいのだろう。
「お疲れでしょうから、すぐに城に案内しますね」
どうやら、シャノン直々にカインを案内してくれるようだ。
そうして城の中に入ろうと、扉を開けると……。
「シャノンーーーーーーーーーー!!」
突如、男性がシャノン目がけて猛スピードで駆け寄り、抱きしめた。
「あぁ……愛しのシャノンよ、良く無事でいてくれた。お前の馬車が襲われたと聞いて、気が気じゃなかったのだ。本当に……良かった」
まったく同じ光景を見た気がしたのは、カインとイクスの勘違いではないだろう。
「お、お父様。あの……離してもらえませんか。く、苦しいです」
方便ではなく、本当にシャノンは苦しそうだった。
「ん? あぁ、すまない。娘が無事だと知って、感情が爆発してしまった」
やっと解放され、ほっと一息つくシャノン。
「ガロン! 良くぞ娘を助けてくれたな、礼を言うぞ!」
「お父様、違います。私を窮地から救ってくれたのは、この方、カイン=アーハイト様です」
ガロンの後ろに控えていたカインは、自分の名前を呼ばれ前に出た。
「カイン=アーハイトだ。シャノンを救うことができたのは偶然だ。気にしないでくれ」
「き、貴様! 陛下になんという口の利き方だ! 身の程をわきまえろ!」
近くに控えていた騎士が、カインに厳しく注意してきた。
「おやめなさい! カイン様は私の命の恩人です! その方にそのような言い方はないでしょう!」
シャノンが騎士を逆に叱りつけた。
「で、ですが姫様!」
「別に構わんよ。そなたはカインと言ったか?」
特に気分を害したようなこともなく、落ち着いた様子でカインに声をかけた。
「あぁ」
「よくぞ、シャノンを救ってくれた。私からも礼を言わせてくれ、ありがとう」
陛下つまり、この国の王がカインに頭を下げた。
「そなたの活躍と不思議な力については、騎士たちから聞き及んでおる。さぞ疲れたことだろう。この城の最上階に、我々皇族が使う風呂がある。ゆっくり浸かり、疲れを癒してくるといいだろう」
「いいのか? 皇族専用なのだろう?」
「構わん構わん。シャノンよ、案内してやるといい」
「承知しました、お父様。さぁ、行きましょう、カイン様」
シャノンの後ろに続き、カインは城の最上階にあるという浴場に案内された。
そこはまさに皇族が入るに相応しく、金で出来ているであろう広く豪華な浴槽、湯も普通のものではなく、気分が安らでいくような香りがする特別なものだった。
「では、ゆっくりとお寛ぎ下さい。私は父と今回の襲撃について話してきますので、気にしないで下さい」
そうカインに伝え、シャノンは広い脱衣所を後にした。
(すげぇな・・・オレも入りてぇくらいだ)
(竜も風呂には入るのか?)
(水浴びくらいはな。デカイ滝のあるところでしていたな)
雑談をしつつ、カインは服を脱いでいく。
カインの体には多くの傷があった。
これはかつての修行の傷、イクスの魔力を使いこなすために付いた傷だった。
服を脱ぎ終えると、イクスの声が聞こえなくなった。
カインの体から石が離れたことで、イクスの声が聞こえなくなったのだ。
カインは脱いだ服から、2つの石を取り出す。
一つはゼラン。
一つはイクス。
それらの石に魔法による障壁を張る。
ここでは不要かもしれないが、念のための窃盗対策である。
(そういえば、ゼランの石が朝よりも輝いているような気がするな……近くに適合者がいるのか?)
いつからか、と考えるのも無駄なような気がしたため、障壁に問題がないことを確認し、案内されたときに覗いた浴場へと足を踏み入れることにした。
浴場の奥に、髪と体を洗うスペースがあった。
先に髪と体を洗うことにし、そこに向かう。
(石鹸もかなりの上物だな)
真新しい布に包まれていた固形の石鹸は、この浴場の匂いと同じ香りがし、とても高級なものだと分かる。
(せっかくの良い石鹸なんだ、ありがたく使わせてもらおう)
そんなことを考えるカインだった。
今のカインは、イクスの魔力の供給ができない状態だ。
そのため、気付かなかった…………。
後ろから忍び寄る女性に……。
それは、カインが髪を洗い始めたときだった。
後ろから声をかけられた。
「あなたが、カイン=アーハイト様ですね。私はアルトリエ家に勤めるメイドですが、シャノン様の命で、お背中を流しに参りました。」
突然かけられた声にカインは驚いたが、シャノンが寄越したメイドだと聞き、特に振り返ることはしなかった。
「ん? シャノンが? そうか。では、よろしく頼む。傷が多い体ですまないな」
メイドにはすでに背中を向けていたため、カインは洗髪に専念することにした。
「いえ、そんなこと気にもなりませんよ」
その答えから少しして、背中にヌメヌメした石鹸と、柔らかく心地よい感触が伝わってきた。
「随分と柔らかいな。何を使っているんだ?」
髪から伝ってくる泡がカインの視界を奪っているため、振り返るのも面倒だと思い、髪を洗い続けた。
すると、カインの首筋のとても近い位置から答えが返ってきた。
「え? えぇと、そうですね……。アルトリエ家に代々納められる高級繊維を編み込んだ物なんですよ……はぁぁん……」
「そうなのか? ところで……関係ないかもしれないが、顔が近くないか? 声がすぐ近くから聞こえるんだが……」
「あぁ……すみません。汚れが付いていないかチェックしていたんです……んっ……気になってしまいますか? ……はぁぁ」
「いや、気にならなくもないが……大丈夫か? 少し息が荒いようだが?」
気付けば、背中に二つの小さい何かが当たっている。小さく、少し尖っているようなものが……
「なぁ、背中に柔らかい感触以外の、何かこう……小さくて尖っているようなものが当たってるんだが……何か知ら――――」
もうメイドはカインの声を聞いていなかった。
懸命に、カインの背中を高級繊維で擦り続ける。
さすがに、返答がないのを不思議に思ったのか、カインは顔に張り付く泡を拭い、後ろを振り返った。
「…………ん?」
そこには…………金髪を結い上げた女性がいた。ここに問題はない。金髪のメイドなのだろう。
だが、おかしいのは次である。
手には何も持っていない……。
たしかに、カインの背中は柔らかい何かで擦られていたはずである。
いや、よく見ると、手には何も持っていないようだが、そこから続く腕が懸命に、巨大な白い何かを寄せて、カインの背中に押し付けていた。
それから、まだ泡が邪魔でメイドの顔がよく見えなかったのか、再度泡を拭い、メイドの顔をよく見ると……驚愕した。
「お前……………………シャノンか?」
声をかけられた裸の金髪の女性は、夢中になっていた動きを止めて顔を上げた。
「…………えっ?」
互いの目線が交錯する。
先に口火を切ったのは、金髪の女性だった。
「浴場に案内するまでの二人きりの間、何度か私の胸を見ていたので、興味があるのかなと……それと、私も少し……興奮してしまいました」
『案内するまでのふたりきり』それは、カインとシャノンしかいない。
つまり、彼女はシャノンであり、何より……この豊満な胸が決定的な証拠だった。
ついでに擦られていた物、カインが柔らかいと言い、シャノンが高級繊維だと言ったものも明らかになった。
それは、シャノンの豊満な胸だった。
それを意識してしまい、ついマジマジと見つめてしまう。
その行動により、さらに明らかになったことがある。
カインが『小さくて尖っているようなもの』と表現したものだ。
その時瞬時に、カインは自分の女に対する認識を改めた。
自分は女に疎いわけではなく、興味のある女に出会っていなかっただけなのだということに…………
そこから、カインは急激な興奮に耐えきれず、意識を手放してしまった。
神竜の力を身に宿すカイン=アーハイトは、圧倒的な力を手にした……はずだったが、シャノン=アルトリエの美貌は、それをなんなく打ち砕いたのだった――――――――