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神竜の契約者  作者: Mint
第一章
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宿決定

 カインは、シャノンにガロンの無事を知らせるべく、アルトリエの入口に向かっていた。


(なんで姫様は『お姫様抱っこ』で、爺さんは魔法で浮かせているんだ?)

 イクスが楽しそうな顔でカインに質問してくる。


(なんだ? 俺が爺さんを『お姫様抱っこ』しているのが見たいのか? 良い趣味だな、イクス)


 カインはガロンを魔法で宙に浮かせ、飛んで移動していた。


「これは凄いですな! 空を飛ぶなどという経験は今までありませんでしたので、少し興奮してしまいます!」



 カインとイクスの会話が聞こえているはずもなく、ガロンは空を飛んでいることに興奮していた。


(別にいいだろ。爺さんも喜んでるみたいだしな)

(そんなんじゃ誤魔化されねぇぞカイン? 爺さんと同じように、姫様も運べば良かったんじゃないか?)

(今回は随分としつこいな……)


 少しうんざりしたような顔で、イクスの質問に答えた。

(あの時は、この爺さんが無事かどうかも分からない状況だった。あの時に、シャノンを爺さんと同じように魔法で浮かせていては、あの速度に耐えられなかっただろう。)


 実際に今、カインはそれほどの速度を出していない。翼も巨大化を解き、飛び立った時の大きさに戻していた。

 特に用事もないのに、魔力を消費させる必要もない。


(そうかい。てっきり、オレはカインがそうしたいのかと思っていたぜ。オレの勘違いか?)

(お前の勘違いだろう。わざわざ、あの時にそんなことを考える余裕があったと思うか?)


 イクスから見れば、あの時にカインが焦る理由のほうが見つからなかった。カインが本気を出せば、あの時よりも速く飛べたのだから。いや、飛びすらしないかもしれない。

 爺さんの安全を願っていたのは本当だろうが、カインが判断力を失うようなことがあるとは思えなかった。

 唯一あったとすれば、姫様の救出の時だろうか。カインはあのとき大分焦っていた。それも魔法のみで、自らをさらに加速させ、障壁を崩しかねないほどに。


 あの姫様には、カインをそこまで必死にさせる何かがあるのだろうか?

 そんな疑問を抱かずにはいられなかった。


 まぁ、単に惚れたとかだったら、それはそれで面白いが。

 カインにそんな暇はいままでなかったのだから……。


「おい、爺さん。アルトリエの入口が見えてきたぞ」


「シャノン様は!?」


 空を飛んでいることに年甲斐もなく浮かれていたガロンは、急いでシャノンの姿を探し始めた。


 もう少し進んでいくと、美しいドレスを身に纏った金髪の女性が、これでもかと手を振っているのが分かった。


「あ、あぁ……姫様が……生きておられる」


「おいおい、こんなところで泣くなよ。元気な顔をシャノンに見せてやれ」


「は、はいぃ!」


 少しばかり涙ぐんでいるのは隠せそうもなかった――――




 シャノンは冒険者たちにアルトリエまで、無事に送り届けられたようだ。


 空から徐々に近づいてくるカインとガロンの姿を目にし、こちらもまた泣きそうだった。


 カインはガロンをアルトリエの入口に降ろし、シャノンと再会させた。


 ガロンは駆け寄ってきたシャノンを抱きしめ、二人して泣いた。

 みっともないほどに。

 子供のように。


 しばらくそうしていると、徐々に泣き止んできたのか、シャノンがカインに気付いた。


「アーハイト様。ガロンを……この執事を助けていただきありがとうございました。感謝の言葉もありません……なんとお礼をしたらいいか」


「さっきも言っただろう。俺がやりたくてやったんだ。感謝なんかしなくていい。それと、カインでいい。俺はシャノンと呼ばせてもらってるんだ、おかしいだろう?」


 その発言を聞いたイクスは驚愕していた。主に、『感謝なんかしなくていい』というところに。


(おい! そんなこと言ってる場合か! ワイバーンの牙なんか採ってきてないだろう! 今夜、お前は野宿でもするつもりか!)


 イクスに言われ、ギルドからのクエスト内容をカインは思い出した。


『報酬はワイバーンの牙と硬貨の交換と致します』

 たしかにそう言われていた。


 カインは金色の剣の投擲でワイバーンを数多く仕留めたものの、牙を採ってくるのを忘れていた。


 つまり……金がガロン銅貨5枚しかない。


 もう日が沈みかけているこの時間では、安い部屋から順に埋まる宿屋で泊まろうものなら、銅貨5枚で足りる部屋はもうないかもしれなかった。


(今からでも遅くねぇから、今日の宿だけでも準備してもらったほうがいいんじゃねぇか?)

 イクスからも助言がとんできた。


 カインも情けないとは思いつつ、シャノンに頼むことにした。


「……すまない、今日この国に来たばかりで、宿を取ってなかったんだ。シャノンのほうで手配できる宿はないだろうか? 一日で構わないんだが……」


「えぇ、もちろんです。しかし、宿の手配は構いませんが、私を救って下さったのです。そんな方を宿に一泊させるだけ、というわけにはいきません。どうせなら、私が住む城に来ていただけませんか?」


 カインの予想を超えた展開となっていた。


(城? つまり、ここからでも見えるあの城か?)


 カインたちがいるのは、アルトリエの入口。そこからでも見ることができる立派な城があった。


(あぁ、おそらく皇族が住むところといえば、国で一番デカイ建物だろう。 カインよ、お前はとんでもない人を救ったようだな)


 シャノンの提案に驚いたが、ここで断ったら野宿であることを考えると、素直にお願いしたほうがいいだろうということになった。


「俺が城に招かれていいのか少し疑問だが、シャノンさえ良ければ、よろしく頼む」


「はい、もちろんです。きっと、お父様も喜びます」


 シャノンは嬉しそうな声で答え、カインを城へと案内した――――

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