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神竜の契約者  作者: Mint
第一章
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姫様の救出と同時に、ラッキー・・・

 シャノンは、落下の衝撃とそれに付随する死に対し、瞳を閉じて待っていた。

 しかし、シャノンが地面に叩きつけられることはなかった―――――


 少しの間、シャノンは気絶していたようだ。やはり、本能は死を恐れていたらしい。

 何が起こったのか、まったく理解できないまま、シャノンは閉じていた瞳をあけてみた。

 すると、


「大丈夫か?」


 若い男の声が聞こえてきた。


 どうやら、シャノンは彼に落下しているところを助けられたようだ。


「……あ、あれ?」

 何かがおかしい。『落下しているところを助けられた』頭の中でこれを字にしてみると、おかしなところはないように思うが、実際の経験を伴うと明らかにおかしい。


 なぜなら、それは……()()()()でもしないと不可能なのだから。


 シャノンは恐る恐る、首を少し捻り、下を見てみた。

 景色が滑るように流れ、落下の直前よりも明らかに高度が上がっていた。体に当たる風も心地良いほどに。


「う、嘘……私、飛んでるの?」


 そんな動揺した言葉に彼は答える。

「実際に飛んでるのは、お前じゃなくて、俺だけどな」


 男は、シャノンを属に言う『お姫様抱っこ』で抱えていたが、少し位置が悪かったのか調整した。


 その際に、シャノンは見てしまった。


 彼の背中に金色の翼がはためいていることに……


「あなた、その翼は……」


「あまり気にしないでくれ、魔法だと思ってもらえればいい」


 魔法で『金色の翼を生やす』などというものは、いうまでもなく存在しないはず。そもそも、『翼を生やす』という魔法にシャノンは出会ったことがない。これほどの大きさの翼を維持するのに、どれだけの魔力が必要なのだろうか。


 シャノンは想像するだけで気が遠くなった。

 この金色の翼への興味は尽きないが、それよりもシャノンには、彼に伝えなければならないことがあった。


「えぇと、その……助けていただき、ありがとうございまひゅ!」


 あまり人と会話をしてこなかった弊害が、シャノンの言葉を少し可愛らしくしてしまった。

 シャノンは、そんな自分への自己嫌悪に苛まれていたが、それでも、男にはなんとか伝わったらしい。


「俺が助けたくて助けたんだ。礼を言われるようなことじゃない」


 まったく嫌味を感じさせない、彼の態度にシャノンは好感を抱いた。


「あの…お名前を伺っても?」


 次はなんとか、普通に話すことに成功したようだ。


「カインだ。カイン=アーハイト」


 そう、シャノンの命を救ったのはカインだった。


「なぜ、私を?」

「ギルドの要請は受けたが、落ちていくお前を見かけたのは偶然だった」




 カインはギルドを後にし、すぐにギエナ山の中腹に向かうところだった。


 急ぐため、城門を超えたときのように、高跳びをしつつ行こうとしたところで、イクスに声をかけられた。


(おい、カイン。この距離をそんなんで移動してたら、随分と時間がかかっちまうぞ? 飛んで行け)


(……あ、あぁ……そうだな。飛んでいったほうが速いよな……)


 なんとも微妙な返事だが、カインが乗り気でないことには理由がある。

 それはカインらしくはないが、人としては納得できそうな理由だ。


 想像してみて欲しい。


 人がこの晴れ渡った青空を、金色の翼で飛んでいく光景。

 見方を変えれば、格好良いかもしれない。しかし、そういう問題ではない。


 目立ちすぎる。


 あまりにも目立つ。しかも、金色なだけあって、陽の光を反射して、激しく煌めくのだ。


 これはいくらカインといえど、多少は気にしてしまう。


 そんな曖昧な返答をしたカインに、イクスは呆れていた。


(まさか、目立ちたくないとか、考えてるんじゃないだろうな? もう考える必要ないと思うぞ。お前は生きてるだけで目立つんだ。そんなことを考えるだけ無駄だ)


(そうだな。まったくだ。今更……だ。今までも散々、立ち寄った村や町で目立ってきたんだからな…………他のやり方はなかったんだろうか?)


(ないな。そもそもオレたち二人の旅で、それほどの知恵を必要としていないのもある。単に応用が利かないだけかもしれないがな。)


 この一人と一頭は、少し考えた末に物事が複雑になりそうだと感じた場合、とりあえずやってみるという選択を採ることが多かった。


 それでいいのかと思ってはいたが、カインもイクスもお互いの抑止力として機能しなかった。


(俺たちは考え足らずなところがあるからな。近いうちに、頭脳担当でも仲間に入れたほうが良さそうだ。仮に、賢くなくても、俺たちを引き留めてくれるだけで随分と行動が変わりそうだ)


(そうだな。さて、長くなったな。翼の準備をしろ)


(あぁ)


 カインはイクスの魔力を使い、イクスの翼を顕現させていく。イクスの翼そのものでは、カインにとって大きすぎるため、少し魔力を調整していく。背中に光りが集まりだし、徐々に翼の形を成していく。


(思えば、久しぶりだな。お前の翼を使うのは。)

(単にお前が、ここぞというときにしか使わなかっただけだろう……用途としては、腐るほどあったというのに)


 そんな短い心の会話をしているいるうちに、イクスの翼はカインの背中に顕現した。


 眩いばかりの金色を周囲にまき散らし、陽の光を浴びて輝く。


 カインは完成した翼を何度かバサバサと動かし、問題がないことを確認する。


(大丈夫そうだな。さて、行くか。姫様を助けに―――――――)



 そして、カインは大空へと舞い上がった。



 凄まじい速度でギエナ山へと向かう。


 速度を上げれば、それに比例して風圧が増す。これに対し、カインは魔力障壁を展開することで防いでいた。つまり、翼と障壁の維持、二つの魔法を同時に発動しているのと同じだった。


 ギルドで連絡を貰ってから冒険者たちが移動したとしても、おそらくギエナ山に到着するのは事後だろう。馬を飛ばしても、一時間ほどの位置にギエナ山はある。


 一方、カインはというと……


(あれか?)


 5分と経たずに、目的の馬車を捉えた。


(大群というだけあって凄い数だな)


 イクスも珍しそうにワイバーンの大群を見ていた。

 カインはすぐにワイバーンを蹴散らそうと、左手に魔力を溜めた。


 しかし、その途中、馬車を巻き込む可能性に気付く。

(これは、さすがにまずいな)


 などと葛藤していたとき、一頭のワイバーンが、姫様が乗る馬車の横っ腹に突撃した。

 その一撃が致命打となったようで、馬車の側面部と車輪が破損してしまった。


(カイン、まずいぞ!)

(分かってる!)


 すぐに駆けつけようとしたが、馬車から人が崖側へ放り出されたのを目にした。


(くそっ!)


 カインはその人を追うように、急降下した。

 だが、少しばかり届きそうにない距離だった。これ以上の速さを出せば、障壁が壊れ、風圧がカインの体をバラバラにするだろう。


(自分に魔法をかけるな! 相手にかけるんだ!)


 イクスからの助言で、とっさにカインは落下していく人に対し、平らな障壁をその人の体の下に貼り付けた。


 障壁で落下を受け止めれば、普通に落下したのと変わらなくなってしまう。そのため、障壁をその人の体に触れるように展開した。


 これで風の抵抗が大きくなり、落下の速さが落ちるとカインは考えた。


(どうだ!)


 その人の体は、カインから見て少し浮き上がってきた。急いで、膝の裏と胴に手を添え抱えた。


(あぁ……なんとかなった。イクスお手柄だ)


(オレが頭脳担当でもいいかもしれねぇな)


(まぁ、それでも構わんさ。ところで、夢中で気付かなかったが、この豪華なドレスを見るに、この人は姫様なんじゃないか?)


 どう見ても、姫にしか見えないのだが……。



 ところが、カインはおそらく姫だと思われる人物に対し、とんだ無礼をはたらいていた。



(ん? 柔らかい感触が……)



 助ける際に、胴に手を添えたのは問題なかったが、少し上すぎたらしく。


 カインの右手は、豊満な胸を鷲掴みにしていた。


 年はカインより少し若いだろうか。綺麗な金髪のストレート、引き締まったウェスト、あまり女に興味のないカインでも目が吸い寄せられてしまう。そして、何より……この胸である。


 この年で、このサイズは中々いないだろう。


 カインがそんな不埒なことを考えていると、彼女は目を覚ました。




 もう少しでいいからこのままでいたかった……、とカインは名残おしそうに右手の位置を下げるのだった――――――――

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