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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
39/41

レイラの父

 結果は言うまでもなく、二部屋になった。


 二人部屋を一つと一人部屋を一つである。


「別に一人部屋で良かったのに……」


 部屋に荷物を置いたカインたちは、まだ昼ということでレイラの父の元を訪れることになったのだが、その道中にシャノンがぼやいていた。


「さすがに、同じベッドはマズイだろ……」


 カインにとっての最終防衛ラインが二人部屋だった。これならば、少なくとも過ちは起きないと考えたのだ。


「何がマズイのよ?」

「何って……」


 カインの視線は自然とシャノンの胸部に向いてしまう。同じベッドで寝てしまった場合、シャノンは己の武器を最大限に利用するに違いない。であれば、カインの理性は脆く崩れ去るだろう。それはやはり……マズかった。


「カインも男ですからね。シャノンの胸の前には抗えませんか~」


 カインの視線に逸早く気付いたアイラが間延びした声を出す。


「抗えん」

「素直だね……」


 レイラもびっくりの素直さだった。


「旅で体も疲れてるだろ? だったら、今日はゆっくり休んだほうがいい」


 建前としてはしっかり機能する言葉で、シャノンをなだめる。


「それもそうだけど、偶には二人っきりの時間とかさ大事じゃない?」


 思ったよりシャノンの勢いが衰えない。これはカインにとって中々にピンチだ。


 だが、予想外のところから助け舟が出された。


「まぁまぁ、今時の若者としてはカインは立派なもんだよ。シャノンを見たら、男は一瞬で野獣になるのが普通じゃない? それを自分で抑えてるんだから、逆に褒めなきゃ」


「何よそれ? まるで自分の体験談みたいね」


 シャノンはレイラに疑いの視線を向ける。


「いやぁ~、私の体験じゃないけど……そんなもんだよね?」


 なぜかカインに視線を投げる。


「なんで俺に聞くんだよ……」


 我慢だのなんだのはカインにとってどうでもいいが、シャノンの機嫌を損ねるのだけは防ぎたかった。後で部屋で二人きりになったときに責められるは分かりきっている。


「はい、到着~」


 カインの苦悩を一瞬で吹き飛ばすような、レイラの声が聞こえてきた。


「ここが我が家でございます」


 手を広げた方向に目を向けると、小じんまりとした工房があった。あちこちがサビで茶色くなっており、長い年月を感じさせる。


「ちょっと、まだ話は――」


 シャノンが話を元に戻そうとしたその時、レイラの自宅兼工房から野太い声が聞こえてきた。


「んおっ、何か聞いたことのある声が聞こえるとおもったら、なんだやっと帰ってきたのか?」


 工房から出てきたのは、筋骨隆々の男だった。無精髭がなんとも男らしい感じだ。


「ただいま親父!」


 レイラの一言に一同は唖然とする。


 理由は、レイラとこの男が親子にまったく見えなかったからだ。


 小じんまりとした体躯のレイラと、筋肉ムキムキの大柄な男。それを見て親子だとは思えなかった。


「何、みんなして呆けてるのさ」

「いやだって……ねぇ~」


 シャノンが振り返ってカインたちに同意を求める。


「レイラのお父様ですか?」


 アイラも半信半疑のようで、レイラの父と思われる男に問いかけた。


「おうよ、このちんちくりんの父親、オーゼン=アルコットとは俺のことよ」

「ちんちくりん言うな!」


 レイラがオーゼンの脛に蹴りを入れる。


「はっはっは! ちんちくりんの蹴りなど痛くも痒くもないわ!」

「へぇ~、じゃぁここはどうよ?」


 オーゼンの態度に怒りが増したのか、レイラは再度足を振り上げた。そこは男性の急所である。

 

 上を向いて高らかに笑っていたオーゼンはレイラの挙動にまったく気づくことができず、急所のレイラの蹴りが見事に炸裂した。


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!」


 オーゼンの悲痛な叫びが響き渡る。


 カインですら、その光景に体が震えていた。シャノンの機嫌を損ねれば、自分もいつかこうなるのかという思いが沸々と湧き上がってきた。


 後で聞いた話だが、なんでもオーゼンの悲痛な叫びはヴォルカノフの市壁付近まで届いたと言う。





「お前な、いくら娘でもやって良いことと悪いことがあるだろう!」


 まだ痛みが残っているのか、オーゼンは内股気味でレイラを叱りつけていた。


「うるっさいな、股間を蹴り上げられたくらいで何さ、心が狭いなぁ」


 レイラはカインたちを工房にある大きめのテーブルに案内しながら、オーゼンを適当にあしらう。


「俺の言うことはなんも聞かねぇんだもんなぁ。そんで、こいつらは誰だ? 巨乳の姉ちゃんに、エルフ?」


 野郎には興味がないようだ。


「紹介するね」


 レイラが三人をオーゼンに紹介した。


「へぇ~。んで、遠路はるばるこんなところに何しにきたんだ?」


 その問いにカインが答える。


「オーゼン殿が作った銃について、話を聞きに来た」


 オーゼンが無言でレイラを睨みつける。顔もかなりいかついためか、凄い迫力だ。


「しょ、しょうがないじゃん。カインは銃を防いだ人間だよ? それに悪い人には見えなかったし」


 腕を組みしばし無言になるオーゼンだったが、やがて口を開いた。


「何が知りたいんだ?」

「銃を他国に輸出する可能性はあるのか、についてだ」

「なんで、そんなことを気にするんだよ。あんたには関係ないだろう」


 どうやら、しっかりとした理由を話さなければ、彼の口を割らせることは叶わないようだ。


「俺はこれまで多数の魔物を斬ってきた。それは人間と魔物が争わないようにするためだ。だが、もし銃という新兵器が世界中に知れ渡れった場合、人間たちは他国への侵略を行う可能性がある。そして、銃を用いた戦争の被害拡大が待っていると、俺は考えている」


 銃が世界中に渡ることは避けなければならない。魔物から身を守ることができたとしても、それが人間に牙を剥く可能性は高い。であれば、この技術を封印するしかないのだ。


「俺もそのくらいのことは考えている。街で盛んにに作られている刀剣とはレベルが違うってな。だが、この技術が金になるのも事実だ。俺は親だからよぉ、レイラと母ちゃんを食わせていかなきゃならなぇ。そのためなら、この技術を他所にやってもいいと考えてる」


 オーゼンの言うことはもっともだ。技術開発には金が掛かるが、それは大きな儲けを一瞬で生み出す。その儲けが生み出されないのであれば、ただの有象無象の技術に成り果てる。


「つまり、この技術を買い取ればいいのか」


 オーゼンの体がピクリと動いた。周りの女性陣は目を剥いていたが……。


「買うって、あんたが?」

「そうだ。言い値で買ってやろう」


 アイラとシャノンは頭に手を当て溜め息を吐き、レイラはカインを見つめていた。


「あんた一人でどうにかなる額じゃねぇぞ?」

「俺は一日で金貨を500枚稼いだことがあると言えば信じるか」

「何?」


 ここで、半信半疑のオーゼンにアイラが補足説明をする。


「この人は、ダルキアンという魔族の幹部を一人で倒すほどの化け物です」

 

 レイラとオーゼンは言葉も出ないようだ。


「そりゃ、銃が当たるわけねぇな。よし、金貨500枚となら取引に応じよう。文句ない額だ」

「残念ながら、今は手持ちがない。明日にでもヴォルカノフのギルドを訪れ、金貨500枚を手に入れてこよう」


 カインとオーゼンの間で銃の扱いが決まった。


「んじゃ、契約書を書くか。後で、嘘でしたは無しだぞ」

「あぁ、分かってる」


 契約書の中身はこうだ。


『一週間後、金貨500枚と銃の利権の一切を取引するものとする』


「そうだなぁ、アンちゃんが契約を反故にしたら、家で一ヶ月くらいタダ働きでもしてもらおうかね」

「それくらいお安い御用だ」


 こうして、カインは金貨500枚を集めることとなった。


 


 

また金を稼ぐようです。

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