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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
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出発二日目⑤

 カインが水浴びを終え馬車に戻ってくると、いたのはレイラだけだった。


「レイラ、ほかの二人はどうしたんだ?」


 レイラはなんとも答えにくそうな表情を浮かべていたが、細部は誤魔化して伝えることにした。


「ん~っとね……あの、アイラがシャノンに変なことしちゃて、二人とも水浴びがおそくなっただけだよ。気にしないでいいよ、うん……」


 最後の言葉を濁した感じが非常に気になるが、カインはそれよりも気になることがあった。


「遅くなるなら、それはそれで構わないさ。それよりも、レイラの使っていたあの武器はなんだ?」


 カインが気になっているのは、金属を放つ武器のことだ。あんなものは見たことがなかった。


「あぁ、あれね。あれは()って名前の武器だよ。これはヴォルカノフで最近発明されたものなんだ」


 レイラは腰にあるのホルスターから一丁の銃を取り出し、カインに見せた。


「そうか、それが例の魔物に対抗し得る武器ってわけか」


 カインは感心したようだが、レイラはそうもいかないようだ。


「そうなんだけどさ……」


 どうも浮かない顔だ。あの武器が大量生産できれば、魔物が脅威でなくなるというのに。



「何かあるのか? 俺からしたらよくできていると思うんだが」

「うん。実はね、これ……威力が足りないんだ……」

「威力が足りない? 俺の障壁に当たったときはそんな風に感じなかったが?」

「それは間違ってないよ。でも、それは人間の場合、魔物も場合は別だよ。あいつらはしつこいからさ……」


 レイラの言う通り、魔物の体は人間よりも丈夫な場合がほとんどだ。カインの剣であれば、容易く魔物を斬り殺すことができるが、あの小さな金属が当たったところで、魔物に致命傷を与えることは難しいだろう。


「何か改良を加える余地はないのか? ここまでできているなら、もう一歩じゃないか」

「カインの言うとおりだよ。本当に、あと一押しなんだけど……それが中々見つからなくて、困ってるんだ……」


 カインも少し考えてみると、一つだけ改良策が見つかった。


「弾を大きくするのはどうだ? 小さいなら大きくすれば威力が上がるはずだ」


 それを聞いたレイラの反応があまりに冷めていたので、カインは期待をするまでもなかった。


「それじゃ、大砲と変わらないじゃん……。いい、カイン? 銃は持ち運びやすさと、女性や子供でも使えることを重要視しているの。誰でも魔物から身を守れるように……。だから、この思想を曲げるわけにはいかないんだよ」


 レイラの言うことは間違いじゃない。むしろ、理にかなっているとさえカインは思う。女、子供が身を守れるようになれば、各国の兵士たちの負担は激減するに違いない。


 しかし、魔物との戦いに巻き込んで良いのだろうかとも思っていた。カインが魔物を初めて斬ったのは本当に子どものときだった。今でも、そのときのことを忘れていない。いや、忘れられない。


 魔物に殺されるかもしれない恐怖。もはや何色かも分からないような液体を噴出させて、地面に倒れ伏す大量の魔物の死骸。それらに耐えるためには、確固たる意志がなければ不可能なのだ。


 だが、自分の身を守るためならば、大切な人を守るためならば、人は強くなれるのかもしれない。


「なるほどな。それともう一つ訊いていいか?」

「いいよ。答えられることなら」

「レイラが銃を手にしているってことは、もう他の国に出回ってるのか?」


 このカインの質問には大きな意味がある。先ほどレイラが、人間に対しても有効だと言ったことが引っかかっていた。


 銃の使い方はまだ訊いていないが、金属を高速で打ち出す物だということは理解している。もし、これが心臓にでも当たればただ事では済まないだろう。


「いや、まだだよ。銃の危険性はあたしたちも理解してるつもり。だから、そのへんはヴォルカノフの領主と話し合いの場が設けられるはず」


「ん? さっき『あたしたち』って言ったか?」

「うん。言ったね」


 あっさりとした回答が返ってきた。


「じゃぁ……レイラが作ったのか?」


 自分は今とんでもない人物と会話しているんじゃなかろうか、という思いを胸に訊いてみた。


「そうだよ……って言いたいところだけど、私一人の力じゃない。ほとんどの部分は父さんがやってたよ」


 カインの考えはほとんど当たったと言っていいだろう。レイラの家族、つまりアルコット家は世界を相手にした商売を可能とする発明をしたのだ。


「レイラの父が銃を発明したのか、ところで、そんなこと俺に言って良かったのか?」

「別にいいよ。こんな物があるよと言ったところで、銃の仕組みが分かるわけじゃないし。それに、カインは銃を無力化した初めての人間だからね」


「それはどうも。にしても……あいつら遅いな、そろそろ戻ってくるはずだが」


 カインとレイラは、そろそろ戻ってくるだろうと、湖の方向に目を向けた。


「お、あれじゃないかな?」


 少し遠いが、二つの影が見える。そして、それがどんどん近づいてきてから、カインは疑問を抱いた。


「何してるんだ……あの二人」

「さぁ……?」


 二人は互いの隙を窺うように向き合っていたのだ。しかも、シャノンは疲れ切っている様子だ。一方のアイラは疲れなど微塵も感じない。


 やがて、二人の会話が聞こえるくらいの距離になった。


「シャノン、そろそろ終わりにしませんか? もう息が上がっているでしょう?」

「まだよ……私は負けないわ……はぁ……はぁ……」


 どうやら何かを競っており、シャノンが劣勢らしい。カインが理解できたのはここまでだ。


「シャノンって負けず嫌いなの?」

「どうだろうな。一つ分かるのは気が強いってことかな……あのときのシャノンの目を思い出すだけでゾッとする」


 わざとではないとはいえ、レイラの胸に手を当てたのを目にしたシャノンは、肝が冷えるほどの凍てついた視線を送ってきたのだ。


 その視線は、カインの知る優しいイメージのシャノンを容易く覆らせるほどだった。


(あんまりシャノンを怒らせないようにしないと……俺がヤバい)

(気が小せぇな~、カイン)


 イクスの言うことももっともだが、カインとしてはあの視線には晒されたくない。


 そんなことを考えていると、目の前の二人に動きがあった。


 シャノンが大きく踏み込んで一気にアイラへと迫り、右手をアイラの胴体に伸ばした。しかし、アイラはそれを悠々と躱し、再び距離を取る。


「まだやってるんだ、あの二人……」

 

 二人の様子を見て、レイラが呆れを通り越し、残念なものでも見るような視線を送っていた。


「レイラは、あの二人が何をやっているのか知ってるのか」

「うん……一応ね。でも、見てたら分かるよ。とんでもなく下衆いから……主にアイラが」


 レイラ曰く、アイラがことの発端のようだが、カインにはまだ理解できない。


 しかし、見ていれば何をしているかが分かるとのことなので、黙って見守ることにした。


「では、次は私の番ですね」


 次はアイラがシャノンにしかけた。アイラの動きはとてもしなやかだ。やはり、エルフというだけあって身のこなしが上手い。すぐにシャノンの眼前に迫る。


「うわっ! こっち来ないでよ!」


 シャノンもなんとか反撃を試みたが、アイラの体はシャノンの手を上手く掻い潜り、隙だらけになったシャノンに一撃を見舞う。


 むにゅん。


「あ……んっ、こ、この!」


 今の出来事を目にしたカインは、隣にいる疲れ切ったレイラと目を合わせる。


「見ての通り……あの二人は互いの胸を揉むだめに競っているアホの子なんだよ……」


 再度二人に目を向けるカイン。


 今度は、アイラがシャノンの背後から胸を揉んでいた。


 その幸せそうな下衆い顔が、アイラにとても似合っていた。





「いつまで揉んでるのよ!!」


 それからも二人の戦いは続いたが、シャノンの手がアイラの胸に届くことはなかった。




 







 



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