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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
31/41

出発二日目③

「で、何があったんですか?」


 なぜか、カインはシャノンから正座を強要されており、シャノンの厳しい視線を上からこれでもかというほど浴びせられていた。


「落ち着け、シャノン。俺がお前以外に手を出すと思うか?」

「元に、手を出してますよね?」


 すぐに反論されるが、カインは自分の正当性を明らかにするために諦めない。


「あ、あれは、いきなり襲撃されて――」

「じゃぁ~、なんで胸に手を伸ばしてたんですか? 正当防衛の方法がおかしいですよね? 相手の体を地面に抑え込むとか、カインなら色々できたと思うんですけど?」


「…………」


 カインの言うことは全て裏目に出てしまい、もう返す言葉が見つからない。しかし、そこで救いの手が差し伸べられた。


「もういいよ。あたしがいきなり発砲したのも悪いんだし……その人を許してあげて。でも、覗いたのと、男って言ったのは誤ってよ?」


 カインの窮地を救ってくれたのは、赤髪の少女だった。先ほどは裸だったが、今はちゃんと服を着ている。


 顔立ちがシャノンよりも幼く、身長も低いので、おそらく年はシャノンよりも下だろう。その少女が、カインの覗き? を許すという大人の対応を見せる中、カインはというと、


「男と言ったのは悪かった、すまない。だが、覗きは違う。あれは俺の本意じゃ――――」


 そう言いかけたところで、シャノンの強烈な視線がカインを貫く。


(なぁ、イクス。俺が悪いのか?)

(諦めろ……カイン。ここにお前の味方はいない。アイラの目を見てみろ……あれはやばいぞ)


 カインは、俯けていた顔を少しだけ上げて、気付かれないようにアイラのほうをチラリと覗き見る。


「…………」


 カインは絶句した。


 ゴミを見るような目だった。カインは初めて、人からゴミに成り下がったようだ。


(あれは……やばいな……)

(だろ? だから、お前がこの窮地を脱する方法は一つだ……分かるな?)


 おそらく、カインのこの姿勢はそのためなのだ。そして、彼女たちはそれを望んでいる。ならば、カインはそれに応えなければならないのだろう。


 カインとしても、この姿勢から受ける二人の視線はつらいものがあるので、もう諦めて謝ることにした。


「俺が悪かった、すまない」

 カインは正座の姿勢のまま頭を下げ、土下座を決めた。


 カインとしては、赤髪の少女よりもシャノンの許しが欲しいところである。アイラの視線も凄まじかったが、シャノンの瞳には炎が渦巻いているようだった。


「本人もこう言ってますし、許してあげてくれませんか? えぇ~とお名前は?」


 カインの予想とは裏腹に、シャノンが少女に許しを請う。


「私の名前はレイラ=アルコット。うん、いいよ。許してあげる」


 レイラはそれほど怒っていないようだ。


「ありがとうございます、レイラさん」

「レイラさんはやめてよ、レイラでいいよ。それと丁寧な口調もやめて。慣れないから鳥肌が立っちゃうよ」


「分かったわ、レイラ。私はシャノン=アルトリエ。シャノンでいいわ。それと……今まさに土下座をしているのが、カイン=アーハイト。そして、こちらがエルフ族のアイラ=ハーヴィンさんよ」


「ん? アルトリエって……まさかとは思うけど、アルトリエ皇国とは関係ないよね?」


 少し顔が引きつりつつもレイラはシャノンに恐る恐る尋ねたが、なぜかカインが自慢げに説明し出した。


「いや、関係も何もシャノンはアルトリエ皇国の第二王女だぞ」

「……」


 ぼーっとすること数秒ほど。


「いや~びっくりしすぎて意識が飛びそうになったよ……。でも、これだけ綺麗な人なら納得だね。でも、なんでこんなところにいるの? お姫様なんでしょ?」


 シャノンは少し恥ずかしげに答える。


「え~と、その人に付いて行きたくて……」


 土下座をするカインに目を向けながらアイラは答えた。


「嘘……この人?」


 信じられないという表情だ。しかし事実なので、シャノンは首を縦に振り肯定の意を示した。


「あぁ……たしかにこの人、めちゃくちゃ強いよね。私の銃弾は防ぐし、体術だって私が簡単に負けちゃうほどだし……」


 そう言って、レイラはカインに近寄る。何をするのかと思えば、カインの頭に手を添えて顔を上げさせた。


「顔も間違いなくイケメンだし、シャノンが惚れるのも無理ないね。まぁ、それは置いておいて。私の銃弾をどうやって防いだのか教えてよ。興味があるんだ」


 自分の将来の夫がイケメンだと言われ、体をクネクネさせているシャノンは放っておいて、カインは質問に答える。


「あぁ、あの金属のことか。別に大したことはしてない。ただ魔法の障壁を張っただけだ」


「それにしては展開が速すぎない? だって、私が湖から出て銃を手に取るまでに、そんな時間があったとは思えないけど……」


「俺は普通の人間じゃないんだ。これを見ろ」


 そう言って、カインは懐からイクスの石を取り出し少女に見せる。


「これは?」


「俺の力の源だ。この石には、イクスという名の神竜が宿っている。こいつの魔力は底なしで、魔力の塊を俺の体の前に生成するだけで壁にすることができる」


「本当に? じゃ、あたしがその石を使えば、あんたと同じことができるの?」


 なんとなくこの雰囲気に既視感を感じるカインだった。


「残念だが、無理だな」


「そんなの、やってみなきゃ分かんないよ?」


 その言葉が言い終わるかどうかの時に、レイラはカインの手からイクスの石を奪い取った。カインは避けることもできたのだが、わざと渡した。きっと、少しすれば満足するだろうと考えたからだ。


「で、どうすればいいの?」


 奪った相手から物の使い方を教わろうとは、なんともアホな少女である。


 とりあえず、さっさと満足させようということで、カインは石の使い方を伝えることにした。


「これといって使い方があるわけじゃないが、強いて言うならイメージだな。レイラのやりたいことをイメージしてみろ」


「イメージか……むむむっ」


 早速、カインに言われた通りにイメージを始めたようだ。しかし、そう簡単にできるはずもなく、少女は唸り声をあげながら懸命にイメージする。


「どうだ、できそうか?」


 できるはずがないと分かっているカインは、唸り続ける少女を微笑ましく眺めていた。


「まだ…………」


 少女はまだ粘りたいようだ。


 それから数分後。





「だめだ、全っ然できない。本当にこんなのが、あんたの強さの秘密なの?」


 少女は疑いの眼でカインを見ていた。ここでレイラに嘘をつかれたと思われるのは、カインの状況的にあまりよろしくない。


「本当だ。貸してみろ、上手く使えばこんなこともできる」


 少女から石を受け取り、カインは手本として翼の生成を行った。すぐにカインの背後に金色の翼が現れる。


「うわっ、すご! でもさ……これ本物? それと派手すぎない?」


「この翼の派手さについては俺もとっくに分かってる……」


 少女の憐みの視線がカインに突き刺さる。だが、それも少しの間だけだった。


 突然、カインはレイラを両手で抱き上げたのだ。


「ちょ、ちょっと、何すんのよ! 離しなさいよ!」


 ジタバタと暴れるが、カインはそれをものともせずに夜空に飛び立った。すると、レイラはまったく動かなくなった。急に空に浮かんだため、言葉を失ってしまったのだろう。


「どうだ? この翼は派手だが、間違いなく本物だろう?」


「…………」


 レイラの反応が全くない。


「おい、大丈夫か?」


 カインが驚かせたために、レイラは言葉を発さなくなってしまったのだと思うが、どうも様子がおかしい。


 カインたちのいる高さは周囲の木より少し高いくらいだ。とはいえ、辺りを一通りは見渡すことが出来る。だが、少女は顔を俯けたまま、景色を見ようともしなかった。いや、見ることができないのかもしれない。


 顔を覗き込んでみると顔色が真っ青で、気付けばカインの両手にはガクガクという小刻みな振動が伝わってきていた。


「お、おろ……おろし……」


 レイラは何事かを凄く小さな声で呟いていたが、カインにはよく聞こえなかった。だが、重大なことを聞きもらしたことだけはなんとなく分かった。


「今、何か言ったか?」


 そのカインの一言が起爆剤になったとでもいうように、レイラは耐えられなくなってしまった。


「お……おろ……降ろしてぇぇぇぇーーーーーーー!!!!」


 レイラの悲鳴が夜の森に木霊し、カインはやむなく地上に降り立った。どうやら、レイラは高い所がダメらしかった。


 レイラは再びシャノンの胸元に抱き着いた。一方、カインを待ち受けるのは、上空からの悲鳴を聞きつけたシャノンの強烈な眼光だった。アイラの目はゴミなんか映す価値はないというように、目を合わせてくれさえしない。


「あ、あれは仕方が――――」

「カイン……分かりますね?」

「は、はい…………」


 


 シャノンの口からこんな声が出るのかと思うほど、その声は低く、カインの恐怖心をこれでもかと煽った。

 シャノンの怒りがレイラを泣かせたことなのか、それともレイラを抱えたことに対する嫉妬なのかは判然としないが、できれば後者であって欲しいと願うカインだった。



 再度、正座へと移行する。


(こりゃ、結婚でもしたら大変だぞ?)


 イクスの言葉はきっと間違いないだろう。カインの未来は、シャノンの尻に敷かれる運命かもしれない。



 それからしばらくの間、カインは土下座と共に、女性陣の非難の視線を浴び続けることとなったのだった。



 




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