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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
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出発二日目① 

 見張りをしているとアイラが起きてきたので、カインは暇つぶしにアイラと話をしていた。


「寝なくていいんですか?」

「あぁ、出発してから散々寝たしな。眠気なんか吹き飛んだよ」

「そうですか……でも、ただ眠かっただけじゃないんですよね? 出発する前はあまり眠そうではなかったですし」

 

 勘の良いアイラは、カインの様子がおかしいことにとっくに気づいていた。しかし、気づいた時にカインに尋ねなかったのは、シャノンに気を使ったからだろう。


「別に大したことじゃないんだ。偶に強い眠気に襲われるってだけだ」

「それって大丈夫なんですか?」


 意外と言ったら失礼かもしれないが、アイラもカインの心配をしてくれているようだ。


「前からそうなんだ。魔力の使いすぎとかが原因なんだと思う」

「ダルキアンの戦闘も激しかったですからね……何か辛いことがあったら言って下さい。あなたが急に倒れたりしたら、シャノンが悲しみますから」


「そうだな、これは俺一人の旅じゃないしな……。あぁ、その時は頼らせてもらうよ」


 カインは一人ではないのだ。共に旅をする仲間のことも考えなくては、ただの独りよがりの行動となってしまう。それは二人に申し訳ない。


「はい、そうして下さい」


 それから、二人は朝日が昇っていくのを黙って見つめていた。





「んっ……ん? あれ、みんな起きてたんですか?」


 周囲が完全に明るくなった頃、シャノンが目を覚ました。


「おはよう、シャノン。よく眠れたか?」

「はい、ぐっすりでした。それより、カインは寝たんですか?」

「昨日寝すぎたみたいで、あんまり眠れなかったんだ」

「そうですか、確かによく寝てましたもんね」


 シャノンが起きてきて、カインは気づいた。シャノンの寝癖が大変なことになっている。左右に髪が散らかり、頭の上には見事なアホ毛が見える。


 昨日、シャノンは寝る前にポニーテールを解いていたためだろう。髪の量も多いためか凄いことになっていた。


「シャノン、じっとしてろ」


 カインは馬車に積んでいた袋の中から一本の櫛を取り出す。


「カイン、それは?」


 そんな物を袋に入れた覚えはないと気づいたアイラが質問してきた。


「これか? アルトリエで買っておいた」

「なんでそんな物を?」

「店でこれを見つけたときに、シャノンが旅に同行することを思い出してな。あんなに綺麗な髪なんだから、俺が維持しなくてはと思ってしまった」


 アイラは呆れて返す言葉もない。


「カインが髪を梳いてくれるんですか?」


 期待を込めてシャノンが尋ねる。


「あぁ、任せろ。こう見えても、昔は妹の髪を梳いてやったもんだ」

「へぇ~、カインの妹さんですか~、是非会いたいですね」

「すまない。あまり言いたくないが……もういないんだ」

「えっ?」


 カインは、シャノンに自分の過去を話していない。だから、シャノンが驚くのも仕方がない。しかし、カインの過去話を聞くのが二回目のアイラもつらそうだった。


「昔、俺の村が魔物に襲われてな……それで亡くなってしまった」

「ご、ごめんなさい!」

「いいんだよ、もうずっと昔のことだ。気にしないでくれ」


 カインはシャノンの髪に手を伸ばし、ゆっくりと櫛でぼさぼさの髪を梳いていく。ゆっくりと丁寧に。まるで、昔のことを思い出すように……。


 髪を何度か櫛で整え、最後にポニーテールにまとめて、カインの仕事は早々に終了した。


「凄いですね、カイン。とても綺麗にまとまってますよ」


 カインの手際の良さにアイラは驚いていた。


「だろう? これでシャノンがより綺麗に見えるはずだ」


 満足したカインは、シャノンの正面から出来栄えを確かめようと回りこんだのだが、シャノンの様子がおかしかった。顔を俯けたまま、カインに顔を見せようとしないのだ。


「どうした? せっかく綺麗に髪を整えたんだ、顔を見せてくれよ」


 カインがそう伝えても、シャノンは首を左右に振って見せようとしてくれない。


 不自然に感じたカインは、シャノンの顔を下から覗き込もうとしたが、途中で気づいた。シャノンの騎士服のスカートが濡れていることに。


 カインはシャノンが顔を見せてくれない理由に気づいた。だから、そっとシャノンを抱きしめた。


「なんでお前が泣くんだ? 俺の妹の顔も知らないのに……」

「だって……辛いじゃ……ないですか。悲しい……じゃないですか。好きな人の大切な人にもう会えないなんて……寂しいじゃないですか!」


 カインは思った。この人で良かったと。自分が愛した人がシャノンで良かったと。自分の家族、それも顔すら知らない人のために泣いてくれる、そんな人はきっとシャノンくらいだろう。


 しかし、こうも思うのだ。泣き顔なんか見たくない。それなら、笑っていて欲しいと。


「そうだな……辛いな。でも、だからこそ、俺たちは旅をしているんだ。同じことが起きないように、少しでも多くの人を助けるために……」


「うっ…………うわぁぁぁぁーーーーーー!!!」


 シャノンはカインの服を強く掴み、しばらく泣き続けた。カインは嗚咽で震える背中を撫でさすり続け、思った。


 もうこんな思いはしたくない。





 そして、シャノンが落ち着くのを待ってから、馬車は再び動きだした。途中には、例の村人たちが仕掛けを用意していた道を通ったが、何事もなく通過することができた。


(良かったな、襲われずに済んで)

(あぁ、そうだな……)

(どうした? 何か浮かない表情だな)

(俺は……思ったんだ。魔物がいなくなった後の事を……)


 魔物がいなくなるということは、人間の安全が確保されるということだ。しかし、魔物がいなくなった後のことを考えるとどうだろう。人間の敵は何に置き換えられるのだろうか。それを考えるだけで、カインは恐ろしくなってしまう。


(そんなの後にしろ。魔物がこの世界からいなくなるのはずっと先だ)


 イクスにそう言われてしまい、考えるても答えの出るものでもない、とカインは思い直した。


「さっきの道……少し変じゃありませんでした?」

カインが考え耽っていたころ、シャノンが後ろの道を振り返りながら、不思議そうな表情を浮かべていた。


「私も思いました。あそこの周囲の木だけバッサリと切り倒されていましたね」

アイラも同様に後ろを振り返る。


 そこは言うまでもなく、カインが斬り倒した所である。だが、カインは二人に伝える気はない。


「本当だな。あそこの木だけ切られているな」


 シャノンは会話の途中で何かを思い出したようだ。


「そういえば、あの……昨日なんですけど、何か重い物が倒れるような音が聞こえた気がしたのですけど、カインは何か知りませんか?」


カインが倒した木は一本ではなく複数本だったので、馬車のほうまで音が響いてしまったのかもしれない。


「いや、お前たちが寝た後に馬車の外で見張りをしていたが、特に何もなかったぞ」


「ん~、そうですか。アイラさんはどうですか?」


「私も聞いてないですね。シャノンの思い違いかもしれませんよ? 普通に考えて、外で見張りをしていたカインが知らないということはないでしょうし」


 シャノンはまだ疑問が晴れないようだが、アイラの言うことはもっともなので、納得せざるを得ないようだ。


「そう……ですよね。別に何もないならそれでいいんですけど……」

 

 チラッとカインの表情を窺うシャノン。


「ん? どうした、まだ気になるのか?」

「いえ……ただ木が倒れている道がこんなに気になるのも、おかしな話だなと思いまして」


 それはきっと、気の倒れ方が不自然だったことも理由の一つだろう。伐採による木の断面は水平であることが普通だ。しかし、切られた複数の木の断面は全てバラバラで、何のために切ったのか想像できない。


「俺も同感だ。たかが木が倒れているだけだ」


 この話はこれでおしまいだ、とでも言うようにカインは外の風景に目を向けた。






 





 





 

 

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