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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
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出発一日目① 立ち寄った村にて

 カインは嫌な視線を感じてふと目を覚ました。


「どうかしましたか?」


 目を開くと、目の前にはシャノンの胸があった。顔が見えない……。シャノンも気づいたようで、恥ずかしげに顔を覗き込んできた。


「いや、何でもない……」


 三人の旅は始まったばかりなのだ。ここで余計な不安を与えることはない。ただ、カインが感じた視線は攻撃的なものではなく、観察しているかのようだった。


「それにしても良く寝ますね。馬車が出発してからずっとですよ? シャノンも大変ですね」

「シャノンが大変?」


 アイラに言われ、カインはやっと気づいた。

 いつの間にか、シャノンの膝の上で寝ていたようだ。しかし、最初は膝枕などしてもらっていなかったことを思い出す。


 カインはアルトリエを出発してから、急に強い眠気に襲われ、座席にもたれ腕を組んで眠っていたのだ。それが、こんなことになっていた。


「いえ、良いんですよ。あの体勢だと体が痛くなってしまうかもしれませんから。……何より、私がやりたかっただけですから」


 シャノンの言葉から推測すると、カインの体をシャノンが膝の上に誘導したようだ。シャノンはカインの隣に座っていたので、そうすることも容易だろう。ちなみに、アイラは二人の対面に座っている。


「気づいていなかったんですか? てっきり、カインが喜んでシャノンの膝にしゃぶりついたのかと」

「しゃぶりつくって……お前なぁ……」


 カインが顔をつけているのは、シャノンの騎士服であり生足ではないので、アイラの表現は間違いだ。 


 そして、たとえアイラに馬鹿にされようともカインは起き上がらなかった。いや、起き上がれないでいた。それは、シャノンの太ももが柔らかいのもあったが、一番は眠気だ。強い眠気はまだカインを開放してくれない。


 この症状は偶に表れるのだ。理由は、カインの魔力運用にある。イクスの魔力、自分の魔力、この二つの使用はカインの体に疲労となって蓄積するのだ。だが、この症状を疎ましく思ったことはカインにはない。このタイミングでとる睡眠は気持ちがいいのだ。おまけに、枕も最高とくれば文句などあるはずもない。


「悪い、もう少しこのままで……」

「はい、ゆっくり休んで下さい」


 シャノンの言葉を最後に、カインは再び眠りについた。そして間もなく、穏やかな寝息が聞こえてきた。


「えっ、まさか、もう寝ちゃったんですか?」

「ん~、多分」


 シャノンは何を思ったのか、カインの右手を自分の胸に押し当てた。


「ちょっと! 何してるんですか!」


 アイラもシャノンの行動が理解できないようだった。


「え? あぁ、ごめんなさい。カインが寝てるか確かめたくて……つい」

「なんで胸にカインの手を押し当てると分かるんですか!」


 話すべきか、話さないでおくべきか、シャノンは少し悩んだ。しかし、旅の仲間にはカインのことを知って欲しくもあった。


「う~ん……後でカインに怒られそうですけど、内緒ですよ?」


 カインの右手を元の位置に戻すと、シャノンは少し顔を赤くしながらも説明した。


「アイラさんから見たカインって、どんな風に見えますか?」

「突然ですね……ん~、有り体に言うとクールって感じですかね。魔物から私を助けたときも、なんてことないみたいな感じでしたし……」

「ですよね。私もカインに助けられたときはそうでした。人を助けることが当たり前で、でも恩着せがましいわけじゃ決してなくて……。かといって、カインが聖人君子かと言うとそうではありません」

「と……言うと?」


 シャノンはカインに申し訳ないと思いながらも、カインの秘密を暴露した。


「女性の体に興味があるということです。カインの場合、彼は私の胸に強い関心を示しました。なので、手で私の胸に触れて何もしないということは、意識がないということです」


「……」


 何も返す言葉が見つからないアイラ。ただ一つだけ思うことがあった。


(もう嫌ですよ、このバカップルの相手は……)


 アイラもカインと同い年の女性だ。異性に興味がないわけではない。特にエルフ族の場合は人間と姿が近いこともあり、そういう気持ちを抱くことがあると村で聞いていた。


 二人を見ていると劣情が掻き立てられるようで、我慢を強いられている気分にさせられる。つまり、いつかは発散させなくてはならない。


 アイラはそれが今だと理解した。そう、城でカインに熱弁してしまったことを実行するのだ。


「あの一ついいでしょうか?」

「はい、何ですか?」

「別にシャノンの胸に興味があるのは、カインだけではありませんよ?」

「それって、どういう――――」


 そのときには、アイラはシャノンの眼前へと迫っていた。シャノンは反射的に体を右に動かそうとしたが、


「良いんですか? カインが起きてしまいますよ?」

「うっ……な、何をしようというんです!」


 カインを起こさないように小さな声で、アイラに抗議した。


「いえ、ただ……私の行き場のない思いを発散させてくれればそれで……」

「な、なんですか! 行き場のない思いって!」


 シャノンの言葉などアイラの耳には届かない。


 アイラの暴走再び。


 その後、アイラはしばらくシャノンの胸を揉み続けた。シャノンも抵抗はできたが、両手を使い抗えばカインが起きてしまうと考え、されるがままだったそうだ。


 アイラの表情は、シャノンからするとカインによく似た表情だったようで、カインの同胞がここにもいたらしい。





 やがて、カインは再び目覚めた。日はだいぶ傾いており、気温も少しだけ下がっているようだ。


「ん……すまない、あれからまた眠ってしまった。足は痛くないか、シャノ――――」


 カインは、シャノンの胸が邪魔でシャノンの顔を見られなかったので体を起こした。

 そこで見たものは――――。


 荒い息をしているシャノンだった。


「ど、どうした! 何かあったのか!」


 シャノンの反応が少し弱いため、アイラに確認を取る、


「アイラ! シャノンに何かあったのか!」


 アイラもシャノンほどではないが、呼吸が乱れ、顔も赤い。しかし、満足気な表情を浮かべている。


「いえ、はぁ……特に何も。しばらくすれば、シャノンも落ち着いてきますよ」

「ほ、本当か?」


 少しすると、シャノンの呼吸も落ち着いてきた。


「大丈夫か、シャノン?」


 カインは心配そうにシャノンの顔を覗き込む。


「え、えぇ、大丈夫です……」


 とりあえず、二人に異常がないことを確認したカインは考えていた。


(まさか、魔物に襲われたのか?)


 すると、イクスから返答が帰ってきた。


(いや、さすがにお前が起きないはずはないだろう)

(まぁ、確かに……だが、例の眠気だったからな。一概にそうとも言えない)


 自分で考えてても理解できないカインは、二人に事情を訪ねてみたが二人は何も答えなかった。


 二人からすれば、カインに説明のしようがないことだった。





 それからしばらく馬車は走り、周囲は完全な闇に包まれようとしていた。そこで、近くの村で一泊させてもらい、夜が明けてから走りだそうということになった。


 村を探すこと少し、すぐに村を発見した。小さな村だったが、森の中で野宿をするよりはずっとマシだ。


 村の入口で、御者に馬車を止めてもらい、村長に停泊の許可を貰おうと三人で馬車を出た。


「ここは……」

 アイラが嫌なものを見たという風に顔を歪めた。


「あまり良い村じゃなさそうだ」


 三人の前に広がっているのは、荒れた畑、ボロボロの家屋だった。村を出歩いている人は少なく、寂れた村としか言いようが無い。


 カインは正面からやってきた若い男性に声をかけた。


「この村の村長に会いたいんだが、どこにいるか教えてもらえないか?」

「あ……あぁ、他所から来た人か? 村長なら、ついこの間亡くなったよ……」

「そ、そんな……」

 

 シャノンの顔が悲しみに染まる。人の死に慣れていないのだから仕方ない。


「死因は何だ?」

「見ての通りさ……餓死だよ。この村にまともな食料なんかないんだよ」


 

 


 

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