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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
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旅支度

 前回、城に泊まったときと同じ部屋でカインは目覚めた。


 時刻は、まだ日が登ってもいないほど早い時間だった。


 なぜ、カインがこんなに早く目覚めたかというと、旅支度のためである。


 ヴォルカノフは、アルトリエから馬車で北東に5日ほどの位置にある。


 無論、道中に村はいくつかあるが、必ずしも食料を入手できるとは限らない。


 というのも、村の食料が豊富ということはあまりないからだ。


 村が魔物に襲われた場合を考えてみるとよく分かる。


 冒険者はクエストを受注し、目的地の村に向かうのが基本だ。


 クエストは必ず魔物がいるという保証があって成り立つ。つまり、予防策として冒険者を派遣することは難しいのだ。


 そのため、必然的に村が襲われた後に冒険者が向かうことが多くなっている。


 冒険者が村に派遣されることも希にあるが、ギルドからすれば、冒険者には魔物を多く討伐してもらったほうがギルドの名が売れると考えていることもあり、派遣の任務は少ない。


 しかし、護衛のクエストは別である。シャノンのような皇族、上流階級の貴族であれば魔物の討伐よりも名が売れるため、ギルドは精を出してこれを引き受ける。


 ギルドの運営や思惑などが絡み、村の安全は万全ではない。


 よって、カインは主に食料の調達のために早起きをし、街の朝市に向かおうとしていたのだ。


 準備するものも特にないので、手早く着替えを済ませ、カインは部屋の扉を開けた。


 すると、隣の部屋から誰かが出てきたようだ。


「あら、早いんですね」


「アイラこそ早いな」


 昨日、隣の部屋に泊まったアイラだった。





 アイラが隣の部屋に泊まることが決まったとき、シャノンはとても不機嫌になっていた。


「なんで、妻の私よりもアイラさんのほうがカインの近くにいるんですか? おかしくないですか?」


 カインからすれば、同室でもないのだから気にしなくても、と思ったがシャノンは違うようで、アイラを凝視していた。


 そのため、事態を一刻も早く解決しようと、カインは男らしい提案をした。


「では、ヴォルカノフに着いたら、宿は俺と同室にするか? それなら、アイラよりも条件は上だぞ」


 この提案には、近くにいたアイラも顔を赤くしていた。当然、シャノンは真っ赤である。


「そ、そんなぁ~……カインは大胆ですね~? 私は構いませんよ。何しろ、妻ですから」


 なぜか、アイラにドヤ顔を向けるシャノン。


 一先ず、シャノンの機嫌を取ることに成功したようだ。


「だから、今回は大目に見てくれないか?」


「しょうがないですね。でも、さっきの約束は忘れないで下さいね」


「分かってる」


 言質を取ったシャノンは上機嫌にその場を後にした。


 残ったのは、まだ顔を赤くしているアイラと、なんでもないという風なカインだけだった。


 そのまま別れてしまうと、どうもスッキリしないので、カインはアイラに話しかけようとした。


「あの……さっきのは――――」


「何するんですか?」


 だが、アイラの声がそれを遮った。


「二人でナニするんですか? 同室になってナニもしなはずないですよね? 男と女の組んず解れつですか!? シャノンの爆乳を鷲掴みですかとはいえ私も揉んでみたい!」


 もう壊れていた。ぶっ壊れである。


 特に最後のは驚いた。シャノンの胸は女性さえ惹きつけるようだ。


「落ち着けアイラ。旅の途中にそんなこと出来るわけがないだろう。子供なんて出来たらどうするんだ?」


 これはカインの本音だ。


 シャノンを愛していても、自分の信念だけは曲げるわけにはいかないのだ。


 そう、決めていた。


「では、ナニもしないんですか?」


 さっきから、アイラの『何』の発音がおかしい。まぁ、それは置いておいて、



「アイラの想像しているようなことはしないぞ」


 頭の中を覗き見られたとでも思ったのか、アイラはさらに顔を赤くした。


「変な心配は要らないからな。もう寝るぞ。明日は早いからな」


 そうして、カインは部屋に入り、すぐに就寝した。


 一方のアイラは、ベッドに入りはしたものの、中々寝付けないようだった。





 カインは昨日のことが頭をよぎったが、わざわざ蒸し返すほど愚かではないので、すぐに頭から消去した。


 カインは改めてアイラを見て違和感を抱いた。


 それはちょっとした変化でしかないが、少し疲れているように見える。


「アイラ、少し疲れていないか?」


「うっ……まぁ、その……昨日は中々寝付けなくて。別に、昨日ことが原因じゃないですよ?」


 自分で白状するほどには疲れているようだ。


 大方、昨日の会話が種になって、寝ようとしたところで花開いたのだろう。


 顔色はそこまで悪いわけではない。そのため、カインもあまり心配しないようにした。


「それはどうでもいいが、もし具合が悪くなったら言ってくれ。旅を急いでるわけでもないしな」


「お気遣いありがとうございます。ところで、これからどちらに?」


「アイラこそ、どこに行くんだ?」


 もうなんとなく二人は察していた。


「ふふっ、多分、あなたと同じだと思いますよ?」


「だろうな。こんなに早く起きる理由も限られる。旅支度だろ?」


「はい。季節は温暖なので、着るものの心配はしていませんが、食べ物は重要ですからね」


 ヴォルカノフはアルトリエの北東に位置するが、気温はあまり変わらない。


 アルトリエに住んでいる人々も、基本的には厚着などはしていないのだ。


「どうせなら一緒に行こう。二人で行けば、何か必要な物に気づくかもしれないしな」


「そうですね。では、ご一緒させて下さい」


 こうして、二人は街の朝市へと繰り出した。




 

「シャノンは置いてきて良いんですか?」


 街人たちが溢れかえる大通りを歩きながら、アイラは話しかける。


「まぁ、いいだろう。昨日は何か城で忙しそうにしていたしな。寝かせておいてやろう」


 二人は大通りにある露店を覗き込みながら、必要な物を揃えていた。


 まずは食料からだ。


 主食になるのは、日持ちがいいとされる塩が効いた干し肉だ。


 他に胡椒を効かせた干し肉も置いてあったが、5日の旅に香辛料など必要ないと思い、カインは目を逸らした。


 胡椒を使った干し肉は高価ではあるが、味と日持ちが、塩を使った物よりも一段上なのだ。


 カインとしてもこちらのほうが良いのだが、アルトリエに着いてからほぼ文無しになったことを思い出し、ここは節約しなければ、と考えた。



 


 一方のアイラは、飲み物の調達に向かっていた。


 カインとは少し離れた露店にエールが売られているのを見かけたアイラは、値段と量を見比べていく。


(このワイン安いですね。あ……でも、シャノンはまだアルコールに慣れていないかもしれないし、それなら、こっちのエールのほうが良いですね)


 シャノンの年齢は18。アルコールを摂取しても大丈夫な年だが、若者はアルコールに慣れていないことも多い。


 それにシャノンの場合は、高価な果実を使ったジュースのほうを好むかもしれない。


(ジュースは高いんですよね……)


 となりにあるジュースの値札を見ると、ワインの倍以上だった。


 ジュースの場合はあまり日持ちしないのが理由で高価なのだ。


(無難にエールが良いですかね。ワインよりはアルコールも控えめですし)


 そして、アイラは一樽のエールを購入することに決めた。




 やがて、食料の購入を済ませた二人は馬車を手配し、食料を荷台に積み込んだ。


「肉と酒か……俺たちはどうにかなるかもしれないが、シャノンが耐えられないかもしれないな」


 シャノンは箱入りのお姫様だ。肉と酒だけで我慢ができるとは思えなかった。


「やっぱり、そうですよね。私はさっきの露店で果物を置いてないか訊いてきます」


「分かった。俺も他に必要なものがないか確認してくる」


 そうして、カインとアイラはせっせと旅支度を整えていった。


 旅支度をする中で、二人はこう思っていた。






 お姫様が旅に耐えられるのか、と―――――― 


 



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