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神竜の契約者  作者: Mint
第三章
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シャノンの憧れ 

 謁見の間を後にした二人は談話室にいるアイラに声をかけ、シャノンの実力試験に適切な場所へと移動していた。


 街の中で、シャノンが魔法を使おうものなら注目を浴びないはずがない。そのため、場所は必然的にアルトリエの外になった。


 外を歩いているシャノンはドレスから動きやすい服に着替えており、カインにはとても新鮮に見えた。


 着替えることによって体を動きやすくする他に、目立ちにくくする効果もあった。姫がそのままうろついては目立つのは当然だ。


 というか、町にいるだけで目立つ。


 そのため、外に向かう道もメインストリートは使わずに、裏道を通っていた。


 もうほとんどシャノンの護衛と化した二人は、なんとかシャノンを目立たせないように気を配りつつ、やっとアルトリエの外に出た。


「……なんとかなりましたね。上流階級の方々の護衛とは大変なものですね……」


 アイラも変な気を回していたので、とても疲れている様子だった。


「あまり目立たたない道を縫うように進んできたが、すれ違っった何人かは振り返っていたぞ? 幸い、シャノンの顔を見たことがある者は少ないから、声をかけられることはなかったが……。」


 公務は姉のエストが大半を担っているため、シャノンの顔は街人たちに知れ渡っていない。


 しかし、道ですれ違った老若男女問わず、シャノンの顔立ち、美しい金髪、スタイルを見て振り返らずにはいられないようだった。


 こんな町娘がいたら、襲われてもおかしくなかったかもしれない。


 まぁ、そのために二人の護衛がついているのだ。


「私達はシャノンの護衛ではないんですが……」


「す、すみません……」


 自分のせいで迷惑をかけたと思ったのか、シャノンはアイラに謝った。


「いえ、仕方ないですよ。あなたは王女なんですから」


 アイラも怒っているわけではないので、気持ちを切り替えた。


「ここらへんでいいか?」


 カインがそう言って立ち止まった。


 そこは、森というほどではないが周囲に木が乱立している場所だった。


 時間も丁度昼ぐらいで、十分な時間的余裕がある。


「それで、私は何をするんですか?」


「まずは基本的な魔術運用からだな。シャノンはどんな魔法が使えるんだ?」


 魔法には特性がある。それは属性であったり、汎用性であったりする。


 カインの場合、イクスの魔力との相性で言うならば火を得意とする。


 またアイラの場合、エルフ族ということもあり風を得意としている。


 このように人や魔力の特性によって、得意不得意が生じるのだ。


「えぇと、魔法は一度も試したことがないです…」


「それもそうか。では、簡単に各属性の初級魔法を試してもらおうか」


「と、言いますと?」


 初級とはいえ、魔法の発動方法すら知らないシャノンは首を傾げた。


「最初からできるはずもないから、俺が手本を見せる」


 カインは近くの木の葉を魔法で高く浮き上がらせた。


 そして、浮き上がった複数の葉を目掛け、各属性の魔法を発動する。


 一枚目は火属性、二枚目は水属性、三枚目は雷属性、四枚目は氷属性。


 一度に複数の魔法をカインは扱ってみせた。


「うわぁ、凄いですね! この葉っぱなんかカチコチですよ。こっちは炭になってます!」


 魔法の対象になった葉を見て、シャノンは興奮を抑えきれない様子。


「俺とシャノンは同じような魔力の運用が可能なはずだ。つまり、俺がしていることを真似るだけで同じことができる」


「えっ、そんな簡単なんですか?」


「出来るはずだ。試しに各属性のイメージをしてみろ。他の人間であれば詠唱が必要かもしれないが、俺たちには不要だ。まぁ、大規模魔法になると別かもしれないがな」


 カインは大規模魔法の心得がない。


 本来、大規模魔法は『封印』『結界』『召喚』などが主であり、魔物を一度に抹殺するような魔法はあまり使われない。


 それはなぜかと言うと、使用することができる術者が少ないためだ。


 カインは今までに大規模魔法を見たことがなかった。


「私も風魔法は詠唱せずに発動できます」


 アイラも魔法が主軸の戦闘スタイルなだけあって、やはり魔法を得意としているようだった。


 巨大なガーゴイルを相手にしている時も、的確にガーゴイルの剣を弾いていたのが記憶に新しい。


「とりあえず、やってみるといい。それで出来ないようなら、また考えればいいさ」


「はい、頑張ります!」


 シャノンとしてはカインの期待には応えたいところである。


 なんとしても成功させるという気合を込めて、まずは火属性からイメージを固めていく。


 あまり大きすぎると危険だと考え、拳くらいのサイズでシャノンは目を閉じてイメージした。


 すると、ゼランの魔力を使うことなく、体内の魔力が手の平に集中していくのを感じる。


 

「シャノン、目を開けてみろ」


 カインに促され、シャノンは閉じていた瞳を開ける。


 すると――――――


「あっ! 出来てます! 小さい火の玉です!」


 シャノンの手の平にイメージ通りの小さい火の玉が生成されていた。


 それは小さいながらも確かに火であり、仄かな温かさをシャノンに伝えてくる。


 シャノンにとっては、これが魔法の初成功となったのだった。


「いや~可愛いですね~」

 

 自分で初めて生成したためか、変な愛着をシャノンは感じているようだ。


「その気持ちは分かります。私も初めて風を操ったときは感激しました……」


 シャノンに感化されたアイラが、魔法の初体験を思い出してうっとりとしていた。


 この二人はどことなく似てるんだよな、とカインは感じていたりもする。


「俺は感動も何もなかったな。強いて言えば、失敗せずに出来て安心、くらいのものだったな。失敗すれば、俺の師匠はうるさかったからな」


 アランの厳しい特訓を思い出し少しばかり懐かしく感じた。


「では、他の属性もやってみるか」


 そうカインが提案した時だった。


「あの! 氷属性に挑戦してみてもいいですか?」


 シャノンがやる気に満ちた表情で提案してきた。


「ん? 構わないが……何か理由でもあるのか?」


「私、小さい頃に読んだ大好きな絵本があるんですけど、その話の中に出てくる召喚獣の『シヴァ』が大好きなんですよ!」


 魔法の召喚にも様々ある。


 召喚士が召喚獣と特別な契約をすることで可能となる契約召喚。


 各地域に存在すると言われる、精霊を祀った祠で認められることで可能となる大召喚。


 しかし、誰でも召喚獣を呼び出せるわけではない。


 祠で認められるのは一流の召喚士、大召喚士だけだ。

 

 『シヴァ』は大召喚により召喚することができるとされ、氷結魔法の最強の使い手である。


 シヴァの生み出した氷結からは幻想を作り出すとも言われる程だ。


「召喚獣の中でも、シヴァは女の子に絶大な人気がありますからね。エルフの里でもシヴァは人気がありました」


「ですよね! 私もシヴァのような氷結魔法が使ってみたいです!」


 興味があるならそれでいいか、などという簡単な理由でカインはシャノンに任せてみることにした。


「どうせなら、あの木を目がけて魔法を放ってみたらどうだ? イメージはシャノンに任せるから、好きにやってみてくれ。ただし、ゼランの魔力は使うなよ。被害がどれくらいになるか想像もつかないからな」


「はい!」


 元気よく返事をしたシャノンは、目標の木の正面に少し離れて向き合う。


 シャノンは先ほど体験した魔力の流れを意識し、魔法をイメージしていく。


 シャノンがイメージするのは、シヴァが氷結から幻想を生み出すと言われる所以となった魔法。


 眼前の物全てを凍てつかせるというシヴァの代名詞とも言われる魔法。


 やがて、シャノンのイメージが固まった。


 そして、放たれた――――――――。


「ダイアモンドダスト!!」


 シャノンの右手から放たれた目に見えない冷気は、空気中の細かい塵すらも凍てつかせながら対象の木に向かった。


 それは一瞬の出来事。


 樹の幹、枝、葉、地中に埋る根、何もかもを一瞬にして凍らせた。


 


 そしてシャノンの周りを、樹から降る細かい氷の粒子が舞っていた。




 





 正に、そんな彼女は『氷結の幻想』のようだった――――――。


 


 


 


 


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