パーティー結成
カインは城に着いてから忙しくなるはずだったが、そうでもなかった。
抱きついてきたシャノンをやんわりと離し、カイン、アイラ、シャノンで国王の謁見までの間、談話室で雑談を楽しむことになった。
アイラは、カインがシャノンと婚約を結ぶ仲であると知り、ぶっ倒れそうになっていたが、シャノンを助けたのがきっかけだと話すと少しばかり納得したようだ。
「美人のアイラさんとの旅は楽しかったですか、カイン?」
微妙に膨れた顔でシャノンはカインを半眼で見つめる。
「楽しかったというほどの旅じゃなかったが、アイラにはダルキアンとの戦闘で助けてもらったんだ。だから、素直に感謝してる」
カインは感謝の意を込めてアイラを見たが、
「私は飛行中にカインにぶん投げられましたけど? それでも感謝してるんですか?」
「あ、あれは――」
「そんなことしたんですか!」
「えぇ、しました。ですから、カインには私の願いを叶えてもらうという約束をしています」
あのときの恨みが未だに解消されていないのか、アイラの瞳が怪しく輝いていた。
「それは羨ましい限りです! もう願い事は決めたんですか!」
自分の事でもないのに、やたらと興奮しているシャノンだが、自分に都合の良い事ばかりがあるけではないと理解が足りなかった。
「実はここに来る途中に決めてきました」
「本当か?」
興味はあるが、カインは到底叶えられそうもない無理難題がこないことを祈った。
「はい。では、発表します」
周囲が緊張に包まれる。
……
……
「カインの旅に同行させて下さい」
少々の沈黙の後、
「……ん?」
「そ、そんなの……私が許しませんからーーーーーーーーーーー!!!」
二人のまったく正反対の反応が談話室に木霊した。
それから少し時間が経ちシャノンがようやく落ち着いたのか、カインはアイラに尋ねる。
「なぜ、俺と?」
それは当然の質問だった。
アイラは危うくダルキアンに殺されていたかもしれないのだ、そんな危険のある旅に同行しようというのは理解できなかった。
「一番の目的は他種族の方たちと接することです。そのためには、世界各地を旅しなくてはなりませんが、一人で行くのか? と考えた時に誰かと一緒のほうが楽しいと思いまして。であれば、旅のお供にあなたほど面白い人は中々いません」
カインはなんとなくアイラの言わんとすることは理解できが、危険性については考えているのか疑問に思った。
「俺は危険な魔物を主に狩るようにしている。つまり、どうしても危険性が高まるんだ。アイラが安全に旅を続けられる保証がない」
「そ、そうですよ。カインには私がいるんですから、絶対に渡しませんよ!」
なぜかシャノンが、しれっと口を挟んできた。
「別にあなたの婚約者を奪うつもりなんてありませんよ……。ただ、カインとの旅は私にとって大きな変化をもたらしてくれる、そんな風に思うんです」
カインはエルフ族であるアイラを見ても普通に接した。本来、それは中々できることではない。
エルフが人里に現れることは少ないこともあり、変な目で見られることも多々あるのだ。
「で、ですが……」
シャノンがカインを不安そうに見つめてくる。
とはいえ、カインとしてはアイラを連れていくことに関して、先ほどとは違って前向きに検討していた。
アイラはある程度の魔法を扱うことができると聞いている。であれば、カインの戦闘がより安全に、かつ効率的になると考えられる。
「安全な旅という保証ができないが、それでもアイラがついてくると言うのであれば好きにするといい。俺としても、一人の戦闘が危険だということも再認識できたしな」
カインが旅への同行を認めてくれたことが嬉しいのか、カインに優しい微笑みを向けていた。
一方、
「…………う、浮気ですか?」
暗い瞳でじっとカインを見つめるシャノンの姿があったが、実は、シャノンに関しても色々と考えていることがあるのだ。
「浮気じゃないが……。シャノンに一つ提案があるんだ」
「…………何ですか?」
何も期待していないような表情だったが、カインの方になんとか顔を向けてくれた。
「俺と一緒に来ないか? もちろん、シャノンは姫としての立場があるから、無理強いはできないんだが……」
「行きます!!」
食い気味の即答だった。
しかし、疑問を抱いたのはアイラだった。
「え? あの、どうしてシャノンさんを連れて行くんですか? この国のお姫様でしょう? それに戦闘経験なんてないはずでしょうし……」
アイラの疑問はもっともだ。
シャノンには戦闘経験はない。そして、姫が国を出るとなれば一大事である。
だが、シャノンはゼランの契約者である。
それほどの強大な力を持て余すというのは、少し危険が付きまとうとも考えられる。
であれば、カインの近くで力の使い方を学ぶ、戦闘経験を積むというのはシャノンの安全性を高めることに繋がるかもしれない。
「実はシャノンには俺と似たような力があるんだ。そして、俺としては、シャノンの力は人を助けることに役立ててもらいたいと思っている」
「本当に? では、シャノンさんもカインのように空を飛べるんですか?」
半信半疑といった表情でカインを見るアイラ。
「いや、まだゼランが目覚めていないから、それは不可能だ」
カインの発言でギクッとしたシャノン。
そう、カインの知らないところでゼランはとっくに目覚めており、何度も夜の空中散歩をシャノンは楽しんでいた。
ゼランが目覚めてから一週間ほどになるだろうか。シャノンは空を飛ぶことが楽しくてしょうがなく、毎晩のように飛び回っていた。
「……あの~、実は……ゼランはもう目覚めてしまいまして、ついでに空も飛んだりなんて……あははは」
しばらくの沈黙。
やがて、
「あの噂は本当だったのか……」
頭に手を当てつつ、カインが口を開いた。
『噂』とは、アルトリエの上空を銀色に光る何かが飛んでいたというものだった。
そして、それは毎晩のように現れ、ある程度の時間が経つと消えてしまうらしい。
「飛んでしまったことはもういい。それで、何がきっかけだったんだ?」
そのカインの問に対し、シャノンは出来る限り詳しく説明した。
「……というわけなんですが」
カインの忠告を無視し、ゼランの能力で空を飛んでいたことがやましいことのように思えたのか、シャノンは俯いていた。
だが、カインとしては叱る気などさらさらないようで、
「凄いな、シャノン」
単純にカインはシャノンを評価していた。
カインはイクスの魔力を制御するために血の滲むような努力を続け、やっと身に付けたのだ。
しかし、シャノンはそんなことなどするまでもなかった。
「そ、そうですか? すいません、危ないと忠告されていたのに……」
「いや、いいんだ。それはあくまで俺の場合だ。それにしても、イクスとゼランで魔力の性質が全く違うのか? それとも才能的なところか?」
その質問にはイクスが答えた。
(あぁ、どちらかと言うと性質のほうだな。オレたちの性格は真逆だったからな)
(イクスが適当、ゼランが繊細とかか?)
(お前、失礼だな……まぁ、そんなもんだが)
イクスの返答を聞いて安心してしまった。
カインとしては、女の子のシャノンにイクスと契約されては溜まったものではない。
男のカインでさえ、体仲が傷だらけなのだ。シャノンがカインと同じ目に遭うことなど想像したくもないのだろう。
「では、シャノンさんはゼランの力を扱うことができるんですね?」
「はい。ところで……『シャノンさん』というのはどうも慣れないので、シャノンで結構ですよ?」
「いいんですか? お姫様にそんな呼び方……」
「いいんですよ。私から見たら、アイラさんは私の姉のようにも見えますので」
「では……シャノン、あなたの実力試験でもしてみましょうか。私としては旅の仲間の戦力は把握しておきたいので」
カインもそれには同意見のようで頷いていた。
「謁見の際に、国王にも俺から旅のことについて頼んでみよう」
そんなこんなで、カイン、シャノン、アイラの三人は共に旅をすることになったのだった。