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神竜の契約者  作者: Mint
第一章
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アルトリエ皇国へ

「ここが、アルトリエ皇国か……」


 彼、カイン=アーハイトの前には、見上げれば首を痛めてしまいそうなほどの城門があった。その門の左右に続く城壁は、長い戦いによるものなのか少し古びて見える。しかし、この城壁には歴史と同時に長い戦いを生き抜いたという堅牢さも感じた。


 「おい、そこの者! ぼーっとしているんじゃない! そんなところに突っ立てられたら、行商の馬車が通れないだろう! はやくどけ!」


 カインが陽の光に目を細めつつも城壁に見入っていると、鎧をまとった兵士から怒声がとんでくる。

 最初は誰に言っているのか気づかなかったが、通行人たちからの視線が痛いほどカインに向けられており、やっと気付く。


 「俺……か?」

 「そうだよ! あんただよ! いいから、さっさとどけ!」


 再び、兵士の怒声がとび、カインは素早く城門の端に移動する。


 カインが門の前からどいたことで、後ろに控えていた行商の馬車が次々に門を抜けていく。通り過ぎる行商人たちからは、変なやつ、といった風な視線を彼に注いでいた。


 それもそのはずである。今、カインの体は大きめの外套で隠されている。さらにフードもかぶっているため、正に不審者のそれであり、注目されても仕方がなかった。


 もう少し城門を見ていたいとも思ったが、不審者だと誤解? されても嫌だったので、、さっさと城門に足を踏み入れようとしたが、


 「おい、お前! 怪しい物を持っていないか、調べさせてもらうぞ」


 先ほどとは別の兵士が城門に入る直前で声をかけてきた。城門の前でぼーっとしていたのも理由の一つだろうが、やはりこの格好が失敗だった。

 城門を抜けるだけで二度も声をかけられてしまった。


「別に怪しい物などないが?」

「そんな格好で言われて納得するわけがないだろう」


 中々に誤魔化すことは難しそうだ。

 城門の奥では行商の馬車が並び、力づくで走り抜けることはできそうにない。


 カインは少し考え、決めた。

 その方法は実に単純かつ、大胆なものだった。


「……分かった。すぐに立ち去ることにしよう」

「なんだ、大した用事があった訳でもないんじゃないか。そうしろそうしろ」


 兵士はあっさりと身を引いたことに疑問を感じたものの、カインが背を向け歩き出したことを確認し、元の任務に戻ろうとした……そのとき、カインの足元がほのかに発光していることに気付いた。


「おい、お前! 何をするつもりだ!」


 カインの足元の光が強さを増していく。魔力が徐々に集まっているのだ。


 兵士は急いで取り押さえようと、カインを目がけて突進したが、兵士の体はカインに当たる寸前のところで空を切った。



 カインは跳・んだ。



 これは兵士にとってまったくの予想外だった。魔法を用いた力技で城門を突破するつもりだと考えていたためだ。なぜなら実際に兵士は、カインがこの城門を見上げていたのを確認していた。考えるまでもなく一目見れば、どのような方法を用いても越えられないほどの高さだと気付いたはずだ。


 しかし、カインにはそれができた。


「……そ、そんなバカなことがあるかー! 」


 思わず兵士は叫んでしまった。その声が引き金となり、兵士の視線の先を多くの人が辿る。そこには、城門を超え、城壁へと着地していたカインの姿があった。


 注目を集める気などまったくないため、すぐに城壁から近くの建物の屋根へ同じように跳びつつ移動する。


 当然、その移動が注目されることはわかっていたため、移動する先は人気のない路地を目指した。


 徐々に人気が減ってきたため、近くの路地へと着地する。それと同時に、纏っていた外套を脱ぎ捨てた。この外套を着たまま移動すれば、馬鹿が服を着て歩いている事態となる。


 外套を脱いだ彼の姿は、髪は茶色の中肉中背といった若い青年だった。そんな男があれだけの跳躍を見せたのだ、兵士が声を上げて驚いたのも無理はない。


 やっと落ち着けたのか、カインがふぅっと息を吐くと、頭の中から声が響いてきた。


(相変わらず無茶しやがるなぁ……カイン)


 どこか呆れているような声だったが、それは人の声とは異なるものだった。


(あれくらいしか方法がなかったんだ。仕方ないだろう……じゃぁ、イクス。お前には他に手があったのか?)


(正直、特にないが……下手に注目されるといつか指名手配でもされそうでな。ん? というか、されないほうがおかしいな……勝手に城門を超えちまったんだし。)


(そのための外套だろう? 顔さえ見られていなければどうにでもなる。まぁ、俺の正体よりはこっちが本命だが)


 そう言うと、カインは自分の胸ポケットから拳より少し小さいくらいの石を取り出した。


(あれだけ激しく動き回ったから、なくしていないか少し心配だったが、良かった)


 その石は薄く銀色に輝いていた。その石からは僅かな暖かさを感じる。まるで、陽の光に当たっているかのようだ。


(やはり、この町にいるようだな。アルトリエに入る前よりも輝きが強くなっている。)

(そうか……こいつと会うのも近いか。オレが何年眠っていたかは分からないが、カインと会ってから十年以上になるからな。オレにとっての十年なんてたいしたことないが、それでも懐かしく思うな)


 カインとイクスが、このアルトリエ皇国に立ち寄った目的は、この石に宿る、ゼランとの契約者を探すた

めだった。


 カインの持つイクスの力は絶大だ。つまり、そのライバルであったゼノンも同等の力を持つことになる。


実際にイクスに尋ねたところ同等だということだ。この力を悪用されるわけにはいかない。そのため、持つべき人のところへ、この石を届ける必要があった。


(ここまで来るのに長い時間が掛かったな)


(それは仕方ないだろう。オレの力を使いこなすのは容易なことじゃない。むしろ、あれだけの時間でよくこれほど扱えるようになったもんだ)


 先ほどのカインの城門越えは、イクスの魔力によるものだった。あれほどのことを成すためには、宮廷魔術師でもなければ難しいだろう。


 カインの場合、自分の魔力ではなく、イクスの膨大な魔力を用いなくてはならない。そのための努力は誰にも認められるほどだろう。


(さて、さっさと移動するか。宿も決めなくちゃならないしな。それと金もどうにかしなくちゃな……)

(神竜の力を持つものが金欠で喘ぐことになろうとはな……情けないなカインよ)


 長旅による消費が思った以上だった。船、馬車、食糧、宿、時に悪天候により立ち往生することになったりなどが重なった結果である。ちなみに、カインの手持ちはガロンド銅貨が5枚のみである。さらに、アルトリエ硬貨はガロンド硬貨より信用があるため、両替するとさらに手持ちは減る。精々、1日か2日もてばいいくらいのものだ。


(これくらい大きな国であれば、ギルドがあるだろう。そこに加入して、大物を仕留めればどうにかなるさ)


 各国では、自国の領土を魔物から守るため≪ギルド≫が設置されている。このギルドを通してクエストを受注し達成することで、その国から報酬を手に入れるといった仕組みである。無論、難度が高いほど報酬が高く、危険なものになる。しかし、力あるものにとっては絶好の稼ぎ所である。受注者が増えれば、国もより安全なるため、力ある者は優遇されるようになっている。


(といっても、お前はギルド経験ゼロの初心者だ。それほど大きな依頼が舞い込んでくるとは思えないがな……)


(やるだけやってみるさ。それにゼノンの契約者も見つける必要があるしな。中々に忙しくなりそうだ)


 これからのことを考えて、気分が少し高揚してくるのを感じたカインだった。


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