城へ突入
空を飛ぶカインたちの目の前に巨大な城が徐々に姿を現してきた。
それもただの城ではなく、カインたちと同じ位の高度で宙に浮いているのだ。
「これがダルキアンの居城ということか」
「ですね……」
その城は巨大で、黒い雲のようなものを纏っており、とても禍々しいイメージをカインたちに与えた。
しかし、カインたちも驚いている暇などなく、早速城の入り口を目指して移動することにした。
「このあたりに来ると、流石にガーゴイルの数が尋常じゃないですね……」
「下もただ事じゃないぞ」
空中にはおびただしい数のガーゴイル、地上にはヘルハウンドなどの小型の魔物を多数確認できる。
「あれはちょっと笑えませんね……」
アイラは自分が地上に落ちたことを想像でもしたのか、顔が真っ青になっていた。
「心配するな、お前を落とす気はないぞ」
「はい、私も素直に落とされるつもりはありません」
アイラは、カインの首に少しだけの力を込めて抱きついてきたが、カインも別に嫌ではないため、特に気にせずに移動に専念した。
それからしばらくして、城の入り口の上空に差し掛かった。
「どうします? このまま入りますか?」
作戦といったものをまったく考えていなかったため、行動の順序が定まっていなかった。
「そうだな、入ることには賛成だが……」
そんな曖昧な返答をしつつ、カインは空中に金色の剣を生成した。
「えっ、ちょ……待っ――――」
「待たない」
カインは生成した剣をダルキアンの居城目がけ、魔法による投擲を行った。
剣は高速で城に向かい、やがて……弾かれた。
「まぁ、簡単に入れたら驚くよな」
ダルキアンの居城は魔法障壁により守られていたのだ。
「あなたは何勝手なことしてるんですか!」
アイラが激怒していた。
「これで、私達がここにいることがバレちゃったじゃないですか!」
「なんだそんなことで怒ってるのか?」
「そ、そんなことって―ー」
「まぁ、聞け。今までに何体のガーゴイルを仕留めたと思ってるんだ? とっくにダルキアンも俺たちの接近に気づいてるだろう。それにSランクの魔物に小手先は通じないと思うぞ?」
あんなに怒っていたアイラだったが、カインの回答が適切なものだと理解し黙ってしまった。
「そんなに心配するな。お前が危険な状況に陥らないように俺がいるんだしな」
俯いて表情がよく見えないアイラにそう声をかけた。
「さて、問題の解決策を考えないとな」
アイラを論破したところで、眼前の問題を解決したわけではない。
ダルキアンの魔法障壁は、カインの剣を弾くほどに堅牢なため、カインも多少は本気を出す必要がある。
少し考えて、カインは解決策を思いついたようだ。
「で、解決策は思いついたんですか?」
急に黙ってしまったカインを心配したのか、アイラが声をかけてきた。
「ん? あぁ、なんとかな」
反応がなんとも微妙なものだったため、アイラはカインを急かしてしまった。
「あるならそれでいきましょう。早くしないと、ダルキアンの警戒がより高まってしまうかもしれません」
カインは少し気が進まないようだったが、アイラに従うことにした。
「アイラがそう言うなら仕方ないな。アイラ、少しだけでいいから腕を解いてくれないか?」
「えっ……えぇ、分かりました」
なぜ、そんな要求をする必要があるのか不思議そうなアイラだったが、危険な目に遭うわけではないと思い、カインの指示通りに腕を解いてしまう。
「これでいいですか?」
「あぁ、問題ない。では――――」
カインはアイラを上空に投げ上げた。
「えっ…………えええぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
上に投げられ、声が遠ざかっていくアイラを放置し、カインは金色の剣を片手に障壁へと突撃する。
やがて、カインの剣は障壁に当たったが、障壁を破るには至らなかった。
「やはり、硬いな。だが……」
カインは左手に握った金色の剣に己の魔力を流し込んでいく。
すると、剣先から紅蓮の炎が立ち上り、障壁の間で凄まじい広がりを見せた。
障壁は、かなりの魔力が高密度で組まれているのか、カインの魔力だけでは足りないようなので、仕方なくイクスの魔力も同時に運用することにした。
剣にイクスの魔力も同様に流し込み、紅蓮の炎の威力を上げていく。すると、僅かだが障壁に小さな穴が開いていき、やがて、甲高い音を響かせて砕け散った。
(なんとかなったな……)
「ふざけんじゃないわよーーーーーー!!!!」
カインが安心していると、その横をアイラが落下していった…………。
(おい、アイラを忘れるなよ……)
イクスに注意されるまで完璧に忘れていたカインだった。
その後、落下していくアイラを追いかけ、なんとか抱きとめることに成功したが…………
「殺してやる殺してやる殺してやるーーーーー!!!」
アイラがヒステリックを起こし、カインを風魔法で切り刻もうとしていた。
だが、カインも切り刻まれる訳にはいかないので、大人げなく、そして音もなく、魔法障壁を展開した。
アイラが放った魔法は、呆気無くもカインの障壁に阻まれてしまい霧散した。
「本気で撃つか? 障壁がなかったら俺は死んでいたぞ?」
「あなたなんか死ねば良いんですよ! 何やってんですか! 下の魔物を見て怯えていた私をどうしたいんですか! 魔物の餌にでもしたいんですか! それとも魔物にいいようにされる私でも見たかったんですか! 死んでください! お願いします!」
カインは真摯な瞳で綺麗な女性から『死んでください! お願いします!』なんていう頼み事をされるなどとは思いもよらなかった。
「いくらアイラの頼みとはいえ、死ぬことはできないが……何か俺にできることがあるなら言ってくれ。
なるべく期待に応えられるようにしよう」
アイラの怒りは思った以上に激しく、カインは謝ることよりもアイラに対する利益で応えることにした。
「言いましたね? 何でも言うこと聞いてくれるんですね?」
「何でもなんて一言も言ってないが……」
アイラはカインの反論など聞いておらず、
「そうですね~。これは簡単に決めることはできなさそうなので、ゆっくり考えさせてください」
少しニヤニヤとしたような、それでいてどこか恐ろしい笑みをたたえるのだった。
そして、障壁を壊すことに成功したカインたちは、ダルキアンの居城に降り立った。
カインたちの目の前には大きな門があり、そこから暗い城の中へと続いている。
城の門を開けようとしたときに奇妙な点が一つあることにカインは気づいた。
「そういえば、ガーゴイルたちが襲ってこなくなったな。単純に敵わないことを悟ったのか?」
「言われてみれば、確かに……」
山脈に入ってから城に辿りつくまで、ガーゴイルが引っ切り無しに攻撃をしかけてきたが、城に降り立ってからはガーゴイルたちが近づいて来なくなっていた。
ただこちらを見るばかりで、襲ってくる気配はない。
「カインが虐殺じみたことをするからじゃないですか? 同胞があんなに死んでいくのを見て、自分も行こうという気持ちになるほうがおかしいですよ」
「それもあるかもしれないが……」
ガーゴイルたちはダルキアンの手下だ。
そんな手下連中が自我の思うがままに行動できるとは、カインは思えなかった。
だとすれば……
「行けば分かるか」
「それに……ここまで来て考えても、もう手遅れなところがありますし……」
アイラの言うことははもっともだったので、カインはガーゴイルたちを無視し、門をあけて城の中へと入っていった。
そして、城の広間に足を踏み入れた瞬間、とてつもない魔力をカインたちは感じた――――