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神竜の契約者  作者: Mint
第二章
16/41

エルフ

 腕の痛みと日が暮れてきたことを理由に、今夜は村長の家でカインは世話になることにした。


 幸い、村長の家はエルフが守っていてくれたため、被害は少なく済んだようだ。


 他の村人たちはここを避難場所とし、村長の家の外に木材を利用した簡易テントを作成していた。


 やはり、まだ魔物の恐怖が払拭できないのだろう。カインが巨大なガーゴイルを仕留めたこともあり、ここは安全だと思っているようだ。


「これから村人たちはどうするんだ?」


 カインは近くの椅子に腰掛ける老齢の男性に声をかける。


「どう……すればいいんでしょうか。私たちは長くこの村で生活を続けてきました。ですので、移住する当てもなければ、村人たちが移住するための資金もないのです」


 無理もない、とカインは思った。


 これほど小規模の村で、ここに住む村人全員が移住できる金があるとは思えないし、近隣の村に移住するにしても必ず受け入れてもらえるわけではない。


 だが、カインにはその両方の問題を解決する策があった。なぜなら、カインには金と人脈があるのだ。


 金は金貨1000枚という大金。


 人脈はアルトリエ皇国第二王女との繋がりだ。


(こんなことになるとはな……。これも人助けか、シャノンの指輪はまた今度用意することにしよう)


 カインは自分が考えたことを村長に伝える。


「金なら俺が用意する」


 村長は驚いた。見ず知らずの赤の他人が、窮地を救ってくれただけでなく、自分たちの移住のための資金を提供しようと言うのだ。


「で、ですが……かなりの大金ですよ? どうやって――――」


「ダルキアンを仕留める」


 村長は驚いたなんてものではなく、気絶しそうになっていた。


「ダルキアンを……あなたが?」


「そうだ。俺はそのためにこの村に来たんだ。ついでに、ダルキアンの討伐報酬は金貨1000枚。それだけあれば、ここの村人たち全員が移住するのに十分だろう。そうだな……移住先はアルトリエにするといい。俺から国王に話はつけておこう」


 王が頭を悩ませるほどの魔物だ。ダルキアンの討伐と引き換えに、村人を受け入れさせることくらい容易だろう。


「あなたは一体……」


『王』という単語が耳慣れないのか、はたまた、ただ驚いているのか。


 おそらく、その両方に違いなかった。


「ん?」


 村長との会話の途中で、隣の部屋から物音が響いてきた。


「村長、エルフが起きたんじゃないか?」


「本当か! では、私が見て――」


「いや、いい。俺が見てこよう。彼女には聞きたい話もある」


 カインは村長を制して、エルフを寝かせた隣の部屋をノックし、声をかけた。


「目が覚めたか? 少し話しがある。入ってもいいだろうか?」


「はい、どうぞ」


 問いかけに対して、明確な返答があったため、特に体への異常はないようだ。


 カインは部屋へと入る。


「すまない、目が覚めたばかりだろう?」


「いえ、今はそんなことを言っている場合ではありません。あなたが奴を倒したことがダルキアンに伝われば、あなたを標的とするでしょう。ここにいては危険です、早く逃げなさい」



 こんなときまで、カインの心配をするエルフはやはり変だった。


「俺のことはいい。それよりも、なぜエルフがこんなところにいる。他の仲間はどうした?」


「…………」


 顔を俯け、無言だった。


「答えられないなら、別に構わない。それと、村人を救ってくれたこと、感謝する」


 顔を俯けていたエルフだったが、カインが頭を下げる気配を感じ、顔を上げた。


「いえ、あのガーゴイルが魔法で村に火を放っていたのが目に入ったので、無視することができなかっただけです」


「エルフとは思えない発言だな……お前、名は?」


「アイラ=ハーヴィンです。あなたは?」


「カイン=アーハイトだ。カインでいいぞ」


「では、カイン。あなたはなぜこの村に? ここの村人ではないですよね?」


 巨大なガーゴイルを容易く屠ったのだ、アイラの疑問点は数多くあるだろう。


「俺はアルトリエから来た。目的はダルキアンの討伐だ」


「ダルキアンの討伐ですか。そうですね……強いあなたなら出来るのかもしれませんね。あの、もしよろしければ、私を連れて行ってもらえないでしょうか?」


 そんなことをアイラはカインに頼んでいた。


「なぜだ? 俺一人で十分だが」


「あなたが強いことは知っています。ですが、いつエルフが魔物に滅ぼされてしまうのかと思うと、私はここでじっとしていられないのです」


 先ほどの質問に繋がりそうな答えだった。


「エルフが危険なのか?」


「明確に危機的状況にあるとは言えませんが、エルフの今の不干渉の体制がこのまま続けば、誰の助けも得られずに滅ぼされてしまうでしょう。それこそ、ダルキアンのような強力な魔物に……」


 エルフの里は一つではなく、各地にいくつか点在している。


 それは魔物の移動などの情報を得るためでもある。


 カインは、アイラがここにいる理由になんとなく予想がついた。


 アイラは、エルフの保守的な姿勢が危険だと思ったのだ。いつまでも神に祈り、守られてばかりの生活が長く続くはずがないと思っているのかもしれない。


 それがきっかけで、エルフの里を飛び出すようなことになったのだろう。


 少しでも他種族と手を取り合うために。


 人間もエルフも救おうというアイラの姿勢が、カインは嫌いではなかった。


「いいだろう。ただし、魔物との戦闘には手を出すな。何かがきっかけでお前を巻き込んでしまうかもしれない。それに一人のほうが戦い慣れているしな」


「よいのですか、足手まといかもしれませんよ?」


「エルフが一人加わったところで、俺の戦闘に支障が出るとは思えん。気にするな」


 カインが力強くそう言うと、アイラは安心したように息を吐いた。


「それにしても……あの戦闘は何ですか? 人間にあんな力があったのですか?」


 落ち着いてきたのか、アイラはカインと巨大なガーゴイルの戦闘を思い出し、カインの不思議な力について尋ねた。


「あれは俺がやったんじゃない。この石に宿る神竜イクスがやったことだ」


 イクスが宿る石を見せながら、カインは簡単にイクスについて説明した。普段から別に隠しているわけではないが、無闇に教えるのは控えていた。


「では、あの金色に光る剣も?」


「あぁ、そうだ。他にも弓や槍なんかも生成できる。何より凄いのは魔力の量だ。俺はこいつと長く旅をしてきたが、魔力が尽きるという経験をしたことがない」


 イクスの最大の強みは魔力の量だ。本来、魔力は人ごとに最大量が決まっている。それは本人の努力や才能によって変動するが、やはり限界がある。

 

 一方、カインの魔力量は人の平均より少し上くらいだが、イクスがいるために魔力が尽きるということがない。  

 

 何度か、金色の剣の同時生成数がどれくらいか試したことがある。だが、それで分かったことはイクスの魔力限界ではなく、カインの同時生成限界だった。


 つまり、イクスの限界に到達するほどの剣を生成することが出来なかったのだ。一つ一つの生成でも魔力は消費されるが、同時生成のほうが魔力消費がはるかに激しい。


「魔力の限界を感じたことのない人間ですか……少し怖いですね」


「同感だ。俺もこんな力を持っているためか、偶に自分が人間でないような気がするときがある」


「そんなことはありません! あなたは、私と村人が襲われているのを見過ごすことができなかったのでしょう? まぁ、私が矢の爆発に巻き込まれそうになったことは忘れていませんが……」


 エルフは頭が硬いと思っていたが、そんなことはないようだ。

 いや、アイラが変わっているだけかもしれないが…。


「無我夢中だった、すまない…。前にも人を助けようとしたときがあるんだが、危うく魔力で吹っ飛ばすところだった」


 言うまでもないが、それはシャノンのことだ。


「気をつけて下さいよ? あなたが人を殺めてしまったなら、自分の行動を悔いても悔いても意味がないでしょうから。きっと、一生引きずりながら生きていくタイプの人だと思います」


「あぁ、そうだな。肝に銘じておこう。」


 そんな会話を交わしたあと、カインは自分の部屋に戻り床に入った。








 明日の戦いに備えて―ー―ー―ー―ー




 



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