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神竜の契約者  作者: Mint
第二章
13/41

トルン村へ 

 カインは、アルトリエの入口で待機していた御者に声をかけた。


「お前が、シャノンに手配された御者か? すまない、少し待たせてしまっただろうか?」


 カインが話しかけたのは、体の大きな女性だった。


 背はカインと同等だが……女性にしては高い。


 彼女の腕はカインの腕よりも太く、とても力強そうである。もしかしたら人を運ぶのではなく、荷物の運搬などが主なのかもしれない。


「……ん? あんたがカインかい? ガロンさんから話は聞いてるよ。 さっさと乗りな、トルンまで行くんだろ?」


 言葉使いも男性のようだった。

 カインの質問を聞いていたのかは分からないが、待つことなど、彼女にとって大した問題ではないようだ。


 急かされたカインは、急ぎ馬車へと乗り込んだ。


 乗り込んだ馬車は、有体に言うならば普通だった。シャノンが用意したため、貴族御用達の馬車でも用意されるのかと思っていた。


(これはこれで、シャノンは逆に気を使ったのかもしれねぇな)

(あぁ。意味もなく目立つ必要はないからな)


 おそらく、カインはそんなことを望むような男に見えなかったというのもあるだろう。


 ほどなくして、馬車は走り出した。




 馬車の進みは順調だった。


 天気も良く、草原から吹き込んでくる清々しい風がカインの頬をなでる。


(なんか……やっとのんびりできるな)


 イクスがぽつりと呟いた。


(そうだな、というか色々ありすぎだ。シャノンを助けてから一日も経ってないぞ……)


(そう言われりゃ……そうだな)


 シャノンを救ったのが昨日だということを信じられないほど、カインにとっては充実した時間だった。


 胸を揉んでいただけの気がするが……


(国を出る前にシャノンのためだと聞いたが、ダルキアンの討伐はシャノンに何の関係があるんだ?)


(ん? 言ってなかったか。要約すると、ダルキアンを討伐すればアルトリエが安全になる。そして、俺がダルキアンを討伐したと国中に知れ渡れば、民は俺を認めるだろう。)


(認めて……どうするんだ? 目立つだけだろう)


(シャノンに相応しいということを認めさせるんだ)


(…………は?)


 もうこの男は馬鹿なのだ、とイクスは思うことにした。

 人助けという名目ではなく、好きな女のために、Sランクの魔物を討伐しようという。


 こいつ大丈夫か? シャノン中毒じゃねぇかよ……


 シャノン中毒という病状はゼニスにおいて確認されていないため、そんな薬は存在しない。


 仮にあったとしても、まったく効かないだろうことは試みるまでもないのだった。


(もういい……。ダルキアンの討伐報酬はどんくらいだ?)


 あきれたようなイクスの声を疑問に思いつつ、カインは答えた。


(金貨1000枚だ。Sランクの広大な領地を持つ魔物だからな、妥当だろう)


(一気に金持ちだなカインよ。使う当ては何か考えているのか?)


 単純な好奇心で聞いたが、カインは……もうだめだった。


(もう決めているぞ)


(おっ! 金に欲のないカインが以外だな。で、何に使うんだ?)


 期待を膨らませるイクスだが……絶望へと変わることになる。



(シャノンに贈る婚約指輪だが)




 予想できないイクスが悪いのかもしれない。


(で、でもよ。いくらなんでも全額じゃないだろう? 金貨1000枚なんて中々手に入る額じゃねぇしな)


 これを予想できないイクスが悪いのは、もう明らかだ。


(いや、全額だ)


……

……


 こいつ、シャノンが死んだら、どうなっちまうんだよ……。

 想像できねぇ……


 カインは、どんな指輪がシャノンの華奢で綺麗な指に似合うかを思案しているようだ。


 その顔はとても幸せそうで、イクスも今だかつて見たことがない類の表情だった。


 一人の男が、愛する女の死で荒れ狂い、町で暴れることがあることをイクスは思い出していた。



 だが、カインの場合はどうだろうか。


 町で暴れるで済むか?

 町一つで済むか?

 国一つで済むか?


……あるいは――――――――


 ここで、イクスは考えることをやめた。


 神竜を怖気づかせる人間カインはどんな夫になるのか、イクスは気になどしない。


 絶対に。


 それから、カインは馬車に用意されていた食糧を食べ、しばらく横になった。





「な、なんだい、あいつらは!」


 そんな焦ったような声でカインは目を覚ました。


 馬車から見えていた景色は、朝から夕暮れへと移ろうとしていた。



「どうした?」


 カインが尋ねると、御者の女性は前方を指差す。


 そこには、二体の大きなガーゴイルが通り道を塞いでいた。


 ガーゴイルはBランク相当の魔物である。翼を持ち、魔法まで使うため、生半可な冒険者では討伐できないとされている。


「こんなところにガーゴイルが出没するのか?」


「いや、ここじゃない……出没するなら、ダルキアンの領地の付近のはずだ」


 普段主没しないはずの魔物が、こんなところにいるということは……


 カインは嫌な予感がした。


「トルンの村まで、あとどれくらいだ?」


「ここまで急いできたから、ざっと二時間くらいだ……って、おい! あんた!」


 カインは馬車を降りてしまう。


「ここまでで充分だ。お前はアルトリエに戻るといい」


「こんなところから徒歩でトルンまで向かう気かい? それに、あのガーゴイルはどうするんだい?」


  御者の疑問は尽きないようで、次々にカインへと質問する。


「徒歩ではないが、移動手段はある。それに、ガーゴイルくらいならたいしたことはない」


 カインは、ガーゴイルがこちらに気付いていないことを確認しつつ、金色の()()を生成する。


「あんた、それ……」


 御者は驚いたようだが、カインは気にしない。


 ガーゴイルまでの距離は通常の弓の射程を超えているため、矢が届かずに命中も困難なはずだったが、カインにはそれが出来る理由があった。


(たまには弓も使わないと、アランに叱られるからな)


 カインに戦う基礎を教えたアランは、弓の名手であり、カインには容赦しなかった。その甲斐もあり、通常の弓の扱いと、イクスの魔力を用いた弓の扱い、両方において高い命中率を実現させることができるようになった。


 カインは大弓の生成を確認し、矢の生成も行った。

 その矢はカイン自身の魔力で精製したもので、灼熱の火炎を纏った紅蓮の大矢である。


 それは炎のみで精製されているため、カインは直接ではなく魔力障壁を間に挟むことで掴んでいる。


(へぇ、オレの力を使わなくても、それくらいは作れるようになったんだな)

(お前に頼りっぱなしの俺じゃないさ)


 カインは一体のガーゴイルに狙いを定め、紅蓮の大矢を放った。

 あえて、カインは一本しか紅蓮の大矢を準備しなかった。


 理由は簡単。


 それで十分だからだ。


 矢はガーゴイルの胴体を見事に射抜いた。

 その後、ガーゴイルの体が膨れ上がり、爆ぜた。


 それは、もう一体を巻き込むほどの火炎の渦となった……。


(俺の腕は落ちていないようだな)

(落ちたら、アランにどやされるぞ?)


 近くで見ていた御者は茫然としていた。


「あんた一体……」


 声を無視し、カインは移動を開始するための翼を生成する。


(急いだほうがいいな。トルンの村よりも手前でガーゴイルを見かけたということは……)


 カインは最悪の事態を考慮せざるを得なかった。


「お前もここを離れろ。近くに魔物が潜んでいるかもしれない」


 未だにカインの翼を見て茫然としているが、身の安全には代えられないようで、


「わ、分かった。あんたも気を付けるんだよ」


 そう言って、馬車を元来た道に向けると、すぐに走り出していった。


(俺達も行くぞ)


 そして、カインは金色の翼を羽ばたかせ、急いでトルン村へと向かった。









 







 


 

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