表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神竜の契約者  作者: Mint
第一章
11/41

シャノンの姉

 シャノンの様子がおかしいと思いつつも、食堂の前にたどり着いた。


 食堂の入口の左右に控えていたメイド二名が、扉に手をかけ開く。


 そこには、信じられないほど長いテーブル、毛足の長い赤い絨毯、天井に吊るされた豪華なシャンデリアさえあった。


 もうカインは驚かない。彼はこの家の次女と結ばれようというのだから。


「さぁ、こちらです」


 シャノンが、長いテーブルの奥へと案内してくれる。


 カインは、奥に見えていた人物たちが遠くて誰なのか良くわからなかったが、奥に進むことでようやく分かる。


 テーブルの最奥、入った扉の真正面に腰掛けているのがシャノンの父だ。


 シャノンの父から見て右の席に女性がいる。


 (あの女性は……誰だ?)


 シャノンに似ているが、シャノンに似ていない。


 顔は、シャノンの姉というだけあり、目鼻立ちがスッキリとしていてとても美しい。

 髪はシャノンと同じく金髪だが、後ろで一本に束ねてポニーテールにしている。

 身長は、座っているため分かりにくいが、シャノンより少し高いくらいだろうか。


 では、どこが似ていないのか、と言うと……


 ()だ。


 姉妹でここまで差が出ていいのか、とカインが思うほどの()()()()


 カインがシャノンに言った『シャノンの姉か、きっと素晴らしい体なのだろうな』というのは、単にシャノンの気を引こうとした悪ふざけだったが、まったく期待していなかったかというと嘘になる。


(ん? あれが姫様の姉か?)


 石は例によって、服の胸ポケットに入れてきたため、イクスが話しかけてきた。


(そうだと思うが……)


(随分と……その……あれだな。悲しいことになってるな……)


(あぁ。あれで姉妹だと名乗るのはキツイだろう……特に、他国へとシャノンを連れた会合は生きた心地がしないだろうな)


 ()


 男に限らず、女が見ても不憫なほどだ。


 そこで、シャノンが気落ちしていた理由に思い当たる。


(あのシャノンの気落ちした様子はただ事じゃなかった。まさかこれが理由で、姉妹が不仲なんてことはないだろうな……)


(そんな馬鹿なことがあるかよ。仮にも一国の姫様たちだぜ。そんな胸のことくらいでよ~)


(だといいがな……)


 ようやく声が届く距離にまで近づいてきた。


「お父様、エスト姉さま、お待たせしてすいません」


「いや、いいんだ。朝食も今運ばれてきたところさ。カインも席に着きなさい。」


 カインが王に呼ばれたときに、姉のエストと目が合った。


「父様、こちらの方がシャノンを救ったという?」


「あぁ、そうだ。シャノンの命を救ってくれた方だ。お前も挨拶しなさい」


「はい、父様」


 エストは立ち上がり、カインの正面に立った。


「初めまして、エスト=アルトリエです。この度は、妹のシャノンを助けて下さり、誠にありがとうございます」


「いや、礼を言われるようなことじゃない。俺もシャノンと出会うことが出来て良かった」


 丁寧な挨拶と優しそうな笑みをカインへと向けるエスト。


 これにはカインも悪い印象など抱くはずもない。


「シャノンも、礼は言ったのかしら?」


「は、はい、姉さま!」


 なぜかやたらと緊張した面持ちで返事をするシャノン。


(なんだ? やたらと硬いな……)

(姉妹っていう反応じゃねぇぞ)


 イクスもカインと同じような反応だった。


 いくつかの疑問は残るが、とりあえず、食事の席に着くことにした。


 シャノンは王から見て左側の席、カインはその左の席に座った。


「では、食事にしようか。今日はカインも朝食を共にするだろうから、とっておきを用意させてもらった。例の物を頼む」


 近くにいるメイドに王が言いつけ、それからしばらく、甘く芳醇な香りがしてきた。


 メイドが持ってきたのは、金色の壺のような容器だった。


 それを一人一人のグラスに注いでいく。このグラスは細かい不死鳥の細工が施されていた。


「まぁ、お父様。これはカデンツァのジュースですね。良く手に入りましたね」


「カデンツァだと……」


 それはカインも聞き覚えがあった。いや、ゼニスという世界にいる人間で知らない者はいないだろう。

 カデンツァは遥か北で栽培される最高級の果実だ。


 それは氷に閉ざされるほどの寒冷地帯でのみ育ち、その栽培を手掛ける者は少ない。ゆえに、最高級であり、入手困難とされていた。


「父様もやりますね。客人へのお礼とはいえ、カデンツァとは。 いくらしたんです?」


「うむ、カデンツァを10個ほどだ。だから……ざっとアルトリエ金貨500枚ほどか」


 カインは気が遠くなった。


(果実に金貨500枚……皇族は違うな……)

(お前なんて、銅貨が5枚しかなかったもんな)


 本当にその通りだ。とんだ玉の輿になりそうだ。


(いや、シャノンの家族の世話になるつもりはない。シャノンと俺の食い扶持は、自分で稼ぐ。主にクエストでな)


(へぇ、やる気あるんだな。てか、いつの間に姫様をお前が養うことになったんだ?)


 そういえば、イクスには言っていないことに気付く。


 あのときは寝間着だったしな、と思い、改めてイクスに伝える。


(俺、シャノンと婚約することになった)


 ……


 ……


(……ん? おかしいな、婚約と聞こえちまった。コンニャクの間違いだろ?)


(いや、婚約で正解だ。竜は耳も良くないといけないな)


 ……


 ……


(マジかよ……)

 

 歴戦の竜が『マジかよ』とは、少し笑えてしまうが、


(マジだ)


 特に笑いもせず、カインは即答した。


(じゃぁ、旅はどうするんだよ? 世界の平和はどうした?)


(旅は続けるが、シャノンをどうしようか迷っている)


(迷う? 何にだ……?)


(シャノンは、ゼランの契約者らしい)


 ……


 ……


(もう驚かねぇ……受け入れてやろうじゃねぇか)


 強くなったイクスである。


(だが、まだ覚醒していない。その間に俺は一つのクエストを受けてこようと思う。なんでも、ダルキアンというSランクの魔物の討伐のようだ)


(なるほど、それも姫様……シャノンでいいか、カインの嫁だしな。シャノンのためか?)


(その通りだ)


(愛してるねぇ)


(ゾッコンというやつだ)


 そんな会話をしつつ、食事を進め、カデンツァのジュースを味わう。


「これは美味いな」


「お父様、カインも気に入ったそうです」


「おお、そうかそうか。まだあるから、たくさん飲むといい」


「すまないな、さすがにカデンツァを味わう機会などなかったのでな」


 メイドがカインにカデンツァを注ぐ。


 シャノンも注いでもらおうとしたのか、残りを飲み干そうとグラスを傾けたときだった。


「そういえば、シャノンよ。いつからカインを呼び捨てにしているんだ? 昨日は『カイン様』だったじゃないか」


 シャノンは吹き出した。赤いカデンツァのジュースが垂れていく。


「ご、ごほっ、ごほっ……いきなりですね。お父様……」


 シャノンの深い胸の谷間に赤い滴が流れていく。


 カインは、そんな光景から目が離せなかった。それが……まずかったらしい。


「ふむふむ、そういうことか……」


 王が納得したような顔でこっそり頷いていた。


「シャノン様、失礼します」


 控えていたメイドがシャノンの胸を拭いていく。


(うっ……プルプルと揺れて)


 そんなこんなで、やがて、食事を終えた。


 「もう……いつまで見てるんですか?」


 立ち上がったシャノンに小声で注意され、カインは少し情けなく感じた。


(カインも男だしな……)


 竜には同情される始末である。


 


 












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキングはこちら

面白かったという方は 評価、ブックマーク、感想 をいただけると幸いです。

連載中:『与えられたスキルは『ソードマスター』と『剣技』はこちらからどうぞ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ