最終日
その日も会社に着くと隣席にエミリーの姿は無く、オレの机の上には一枚のメモと資料が置いてあった。午前中は来客があるので、資料に目を通しておいてくださいと書かれたそれを見て、オレは予想通りの展開に思わず笑みを浮かべた。
午前十一時、ホビー部門第三倉庫前。多くのトラックが行きかう中、オレは倉庫の扉の前で息を潜めていた。鍵こそかかっていないが、扉はきっちりと閉められている。オレはイヤホンを取り出し、あらかじめノエルに渡してあった盗聴器から中の声を聴いた。長々とした挨拶に辟易とし始めたころ、ようやく中で動きがあった。イヤホンからノエルの凛とした声が聞こえてくる。
「動くな! 国家直々の命により、貴方がたを連行します」
耳に直接響く心地よい声ににやけそうになるのを抑えつつ、目の前の扉を開けた。
その瞬間。
バンッ!
一発の銃声が響いた。偶然にも扉を開けると同時に響いたその音のおかげで、誰もオレの侵入に気づいていないようだ。慌てて中の様子を確認する。倉庫の中には大量の荷物が置かれている。その中心にはフレッド、そのすぐ傍にケイトとエミリー、少し離れた場所にノエルが立っており、二人が銃を構えている。一人はフレッドに銃を向けたノエル、もう一人はノエルに銃を向けるケイト。
どうやら先ほどの音はケイトの銃から発せられた音だったようで、銃口からは硝煙があがっているが、幸いにもノエルには当たらなかったようだ。ノエルはケイトが発砲したことに反応してすぐさま銃口をケイトの手元に移したが、そこで彼女にとって予想外のことが起きた。
「お前かあああああああ!!!」
突然そう叫んだエミリーの手には銃が握られており、その銃口はケイトの脳天に向けられていた。
ノエルは躊躇わなかった。ケイトに向けていた銃口を素早くずらし、エミリーが発砲するよりも早くその銃身を弾き飛ばした。一方ケイトの銃口は依然ノエルに向けられたままだ。自身が危険に晒されると解っていても、彼女にとってケイトを、そしてエミリーの心を守ることに比べれば取るに足らない些細なことなのだろう。オレは咄嗟に手の中の銃を天に向けて撃ち鳴らした。残念ながら、オレにはノエルほどの銃の腕前はないのだ。よく響いたその音に反応して、ケイトの銃口がこちらを向く。不思議と恐怖はなく、ただノエルを守れることに安堵した。自分の命を粗末にする彼女に後できつく言い聞かせなくてはと思っていたのに、これではとてもそんなこと言えたもんじゃないなと内心で笑った。最後に響いたのは、頼りになる相棒が寸分違わずケイトの銃を撃ちぬいた音だった。




