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魔境にて  作者: そら
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朋美の日常

2018・12.20書き直ししました。


 私、原口朋美は大人うけの悪い子どもだった。


 幼い時から、小学6年になった今にいたるまで常に一人でいたが、それに対して「寂しい、辛い」とかの感情が一つも湧き上がってくる事がなかった。


 子供らしい喜怒哀楽を出さないそんな子に、両親でさえ関心を向けるのをやめ、他の兄妹にその愛情の全てを与えて、それで一家は完結していた。


 その中でさえ朋美は何かを感じる事はなかった、ただそれをそういうものだと受け止めていた。


 初めは同じように用意されていた食事もやがて姿を消したが、食べるものはそこら中にあり、それで困る事もなく、お金もそれが多いのか少ないのかはわからないが自分のランドセルの上に置かれているので充分だった。


 住んでいる家は近所で比べてもとても大きな家なので、もしかしたらお金持ちといわれるものなのかもしれない。



 で、話は変わるが私たちの子供社会は異質をとても嫌うし、反対にわざわざその異質を作り上げて自分たちの中にある原初の破壊衝動に素直にかつ残酷に従うという習性がある。


 いわゆる昨今問題とされる「いじめ」というやつだ。

 

 それを現在私がうけている。


 簡単な無視からはじまり、かなり度を越したものまで受け続けてきたけれど、それに対しても私は感情がそれほど動く事がなかった。


 自分でもこれは生き物として何かダメなんじゃないかな、と思うんだけれど、今もほら「ごめんね,ごめんね,でもやんなきゃ私がいじめられちゃうの」といって私を学校の備品の汚れたモップでグチャグチャになすりつけ、しかもついでとばかりに叩いてくる名前も知らない子に対しても、殴られるのは痛いから逃げる事はしても、それが悲しいとか嫌だとか何でとか心はひとつもざわつかなかった。


 この「ズレ」を何とかしようと思ってはいるのだけど、じゃあ具体的にどうしたらいいのかわからず途方にくれて今まできた。


 これでも途方にくらいくれているのだけれど、いかんせん表情がピクとも動かない、泣くまねくらいすればいいのに、「泣く」ことを知らないのだ。


 ほかの人のそれはもちろん目にするし、赤ちゃんの時は泣いたはずなのに、そのマネでさえ私にはハードルが高すぎる。


 私がいじめをうけ追いかけられて、痛いのは嫌だしつかまればめんどくさいので廊下を逃げるためかけていても、先生たちにはその姿が見えないらしい。


 一度階段から落とされて足の骨を折った時も、全校集会で「ふざけてはいけません」と話しがあっただけだった。


 あの時は先生に聞かれた時「押された」と一言だけだが答えたんだけど。




 そんな日々の繰り返しの中、朋美は家にも帰らずプラプラ意味もなく歩いていた街の中で、若いお兄さん達の集団を見た。


 その出会いは初めての感情を朋美にもたらした。


 その気持ちを一言でいえば「かっこいい」だろうか?


 普段があれな残念仕様の朋美だが、その時だけは違った。


 追いかけたのだ。


 必死に子供の足で追いかけて、何度もためらいながら、一番最後にいる男の人に朋美は初めて自分から接触した。


 まあ、ツンツンとその人のシャツをつついただけだが、自分からリアクションをおこすなど物心ついてから初めてなので、やり方を知らない朋美なりに考えてお兄さんにアピールを一生懸命してみた。 

       

 そのお兄さんが全然気がついてくれないので、そりゃあ触れるか触れないかの囁かなタッチなど気づかなくて当然なのだが、朋美は「がさつそうにゲラゲラ笑ってるおバカそうな人だから気がつかないんだな」と失礼な事を思い次の行動に移った。


 「声をかける」だ。


 だが考えてみてほしい。


 赤ん坊のころならいざ知らず、小学校6年の今まで人に話しかける事などなかった朋美だ。


 その声は本当に蚊の鳴く音より小さくて、声を出すことになれていないせいもあり小さすぎるのだ。


 そのまま声をかけながら「あの、あのすいません・・・」と言いながら、とうとう入った事もない裏通りにまでついてきてしまった。


 存在感がうすいせいか彼らは後ろをとことこついていく朋美に気づく事が全然ない。


 大声で朋美からすれば爆音に近い声でそれぞれ勝手にしゃべってる。


 で、次に朋美が思いついたのが、この自分でさえ気づくのだからと、よく学校の廊下などを歩いている時突然される「蹴り」を思い出したのだった。


 あれはさすがの朋美でさえ一瞬びっくりするし、まじそれなりに痛いし気がつく。


 ちょっと悪いかなあと、ほんの少し頭の隅に浮かんだが朋美だが、朋美とてはじめてのことに必死なのだ。


 ちゃんと気づいてもらえるよう、学校でされるよりも強めにいこうとうんうん考えたすえ、後ろに少うし下がり助走をつけて思いきり最後尾のその男の背中に向けてジャンピングキックした。


 ・・・それは朋美が驚くくらい綺麗に決まりその男を前方に綺麗に倒した。


 その男は一番最後を歩くくらいまだまだそのグループでは半人前で、だがそこに入れるくらいの立派な身体と根性はしていた。 


 で、そのタッパに押されたその前を歩く男も数人同じようにまさかの将棋倒しになった。 


 ガハハハと大口をあけて笑っていたのが災いをしたのか、油断していた。


 さすがに前方にいるえらそうな雰囲気をしていた男達は、突然のその動きにもびくともせず、一気にその雰囲気を剣呑なものとして振り向いた。


 そこには呆然と倒れたままの男や立ち上がろうとする仲間の男達の姿があり、小さな朋美も跳び蹴りを綺麗に決めたはいいが、ズチャっとそのまま着地を失敗し倒れ、擦りむいたあちこちをその舌でペロペロ舐めながら、やはり立ち上がろうとしていた。


 普通ならその視線に入るはずだが、ちょうどその路地裏にある店の一つから、同じような物騒な男達が出てきたのがそこに重なった。


 自然と視線は子供のちっぽけな朋美をスルーし、彼らにギン!と目をやり、彼らもその視線に挑発された。


 結果は「何だ!やるか!この野郎」「よくもやりやがったな!この野郎」そういう信じられない展開になった。

 

 冷静にお互い考えればいいのだろうが、いかんせんそれで彼らは生きてきた。


 やられたらやり返す、やられなくともやってやる。


 朋美からしたらありえない事だが、ものごとは一度そう認識されたらそれが真実になる事が多い。



 今まで聞いた事のないあまりの怒鳴り声にさすがの朋美も路地の壁に思わず引っ付く。


 ピトッと引っ付いたまましばらくすれば、やがてその路地には実力が伯仲していたらしく、倒れ呻く男達の姿だけがのこった。


 様子を窺いつつ大丈夫だと判断した朋美は、そっと自分を惹きつけてやまないそれに近づいた。


 倒れたお兄さんの剥き出しの腕に刻まれた模様や文字。


 くいいるように沢山のそれを目に焼き付けた。


 それが朋美とタトゥ-と呼ばれるものとの出会いだった。




 それから朋美はタトゥ-や紋様にのめりこんだ。


 大きな図書館にある美術の棚には、とても綺麗な西洋や東洋の紋様が書かれたものが古代のものから最新のまで沢山あり、それらも同じく朋美はむさぼるように読んだし、たくさんノートにも写して朋美の宝ものになった。


 やがて学校にはいかなくなった。


 だって時間があれば、紋様をうつしたり、インターネットの検索を覚えたので、深くそれらを勉強していたかった。


 中学生になる頃には、さらさらとそれらを思い浮かべ自分でも描けるようになっていた。


 中学生になっても学校にいかず本屋さんや図書館をふらふらさまよい、家にいればパソコンにかじりついたままの私は「問題児」となり、おかしい事にいじめられても毎日小学校にいっていた時よりも周りの大人、親や学校の先生方から優しい扱いをされるようになった。



 「私たちの育て方が悪かったんです・・・」


 「小学校からの報告は受けております。親御さん云々というより本人の問題ですし、中学校としても一度も登校されないのでは・・・」


 そう言いながらどちらの目にも自分に関係ない所での私の状態に、親はやはり私は変な子どもなのだと安心して、学校は一度も登校しない生徒に責任などないからと、一緒に座っている私を、優しい表情で見てくる。 


 なんて世界は単純なんだろう、お互い罪はなく切り捨てられるなら、こんなに優しくなる。


 



 最近は自分の腕にボールペンや墨で気にいってる紋様を書き入れて楽しんでいた。


 唯一今の時代でもいきている刺青を入れる仕事につくつもりで、私は自分の肌での練習も重ねていた。


 東洋の竜に西洋のシンボル文字、今回はあの有名な薔薇十字からのいくつか、ついでに生命の木のシンボルも入れてと左胸から左腕にかけて朝からずっと描き続けて完成したのは陽がくれはじめた頃だった。


 自慢じゃないが墨で描かれたそれはとても綺麗に仕上がっていて、裸のまま見る鏡に写るその姿は自分でも惚れ惚れするものだった。


 私はさっと簡単なワンピースをはおり、黙々と本日最初の食事を簡単にとり頭の中ではさっき完成した自分の図案を思い浮かべていた。


 その時どうしてそう思ったのかわからない。


 突然何かが足りない、そう思った。


 私は手元にある皿に残ったケチャップの赤をふざけ気分で指ですくいとった。


 そうして左腕に見える図柄の開いている隙間にちょんちょんとつけていった。


 その最後に残った指先のケチャップを舐めた瞬間、暮れなずむ空の暗いオレンジ色の光がバァ~と部屋中を満たし激しい鈴のどれだけの数の鈴なのか、その音のシャンシャンとかさなる音に体じゅう囲まれ、鈴の音に押しつぶされるように目を見張っている内に私の意識は暗転した。 




 次に気づいた時、私はぼぅ~と立っていた。


 ただし、周りは陽もささぬくらいの世界遺産級の大木に囲まれ下ばえの草ぐささえ私の膝ほどもあり、苦しいくらいの濃い緑の匂いに溢れた私の知らない場所だった。


 「え?ここどこ?」冷静な第一声を発した私を誉めてほしい。


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