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異世界酒場の自由すぎる日々  作者: 秋津 幻
二、女に台と書いて初めと書く
8/12

宴会大作戦―2

まさか分割する羽目になるとは。

一位だった。いえい。

「頑張れーふれーふれー」

棒読みで応援しているのは二位の店主さん。自作ジュースを新たに作っている。

「いやー助かりました」

そういっているのは三位オズバルドさん。リゼちゃんののA2枚だしに2の二枚だしを返すあたり本気さがうかがえる。そこは譲ってあげるところじゃないのか。

「……」

無言で酒を飲むのは黒づくめの人。四位だった。この人についてはキャラがあまりつかめない。その場のノリで動きそうなことくらいは分かるが。

「がんばれーなのー」

ロリコンの手により妨害を受けたもののなんとか五位で上がったリゼちゃん。結構不利かと思われたがそんなことはなく善戦のしまくりだった。

残り三人。レオナルド君が最後のスパートをかけている。

「9三枚ですが」

「パス……」

「……パスですわ」

その状況に曇った顔をする師匠とミレーヌさん。どちらかが負けなようだ。

師匠の手札は1枚。ミレーヌさんは4枚と若干ミレーヌさん不利か。しかし嫌に師匠の顔が青い。

レオナルド君は残り二枚。

「八切りして……あがり!よかったあああ!!」

さも安心したかのように、最後の一枚をたたきつける。ハートの5。文句なしだ。

最初から体中が震えまくり緊張していたのは目に見えていた。ちなみに私は大きいカードがなかった代わりに小さいカードがたくさん集まり、6で革命をした後3でスパートをかけた結果一位と言う結果になった。

都落ちと言うか二戦目もないし。前の世界でネットを使い対戦しまくってたかいがあった。

「あーよかった。まじでよかった。よかった……」

さて最後の二人。次は……順番的にミレーヌさん。

革命状態なので2の方向が弱い。どうするか。

「7二枚……ですわ」

言葉通りにカードをだす。当然師匠は出すことはできない。流して次。

次のカードがすべてを決める。……なんだろうか?

「お願いしますわ!」

カードが叩きつけられる。

そのカードは……Q。ちなみにミレーヌさんの残りのカードはK。

師匠は、出せなかった。

「……そもそも残りのカードがこれで勝てるわけないじゃない!」

師匠がQの上に手札のAを投げつけた。あー無理だこれ。

「負けたああああああ!!」

「勝ちましたわ!」

じゃあと言う事で。

「言いだしっぺが被害者ですか」

「そもそもユリーカちゃんが革命なんてするからでしょう!?」

「手札にあったら使うしかないでしょう」

そんな敵の手札にそんな文句を言われても……

「それにほら、ロリコンのオズバルドさんだってリゼちゃんに放銃してたじゃないですか」

「弟子に負けた……」

へこみだす師匠。あいかわらず胸もたれないで貧乳で御座いまして。戦闘中いじればよかったかな、と今更思う。

「放銃と言えばユリーカちゃん麻雀できる?」

「できますよ、結構うまい自負はあります」

「……やろうか?」

「わたくしも参加しますわ!」

店主さん、黒づくめさん、ミレーヌさん、私で麻雀をすることに決定した。

というか麻雀あるのかよ。ますます異世界感が薄くなってきたんだが。


***


罰ゲームに関しては阿鼻叫喚としかいいようがなかった。

師匠の顔はまだ青い。バケツにどれだけ吐いたのかは分からないが、まだ気分が悪いのだろう。

カウンターでおでこに手を付け肘をつき、それを私が介抱しているという形だ。

完全にやけになって食ってたし……強制とか嫌がっていたとかそういう感じでもなかったが、

「師匠……ゲロはいたからってそんな落ち込まないでください……」

「落ち込んでるわけでもなくただ気持ち悪いだけよ……あの時Aを出してれば……おぇっ」

「ほとんど全部食うことはなかったんじゃないですかね、あの量普通の鍋でも食える気はしませんよ」

「いや負けた側の意地というか……ちょっと店主さん、ベット借りていい?」

「いいよー、リシェちゃん。ナイスプレイだったよ」

「あのジュースがまだおいしく感じるって……シュールストレミングなんて……」

シュールストレミングを入れたのは私なので少しの罪悪感を感じる。大富豪も一位だったし。

ちなみに少し残った分はミレーヌさんが食った。彼女も吐くとまではいかないが体調が悪くなったようだ。

済んでのところで色々と回避したレオナルド君とオズバルドさんは二人で何かを語り合っているようで、リゼちゃんはその近くでぐでーとしている。

「……ユリーカ、と言ったか。ちょっといいかい?」

黒づくめの人が話しかけてきた。私の隣に座る。

「はぁ。なんかよくわからないけどいつも参加している……誰でしたっけ?」

手に持っていた酒を一口飲む。威圧感がすごい。

「……ダニーと呼んでくれ。……少し君と話したいことがあってだな。外に出てくれないか?」

ナンパか何かか。そう突っ込みたくもなったがこれ以上戯言を言うのもなんだ。素直についていくことにした。先輩の話は聞いておくものだし。

「ナンパかなにかか?お前もさては……」

ああ。言わないで置いたのに。

「……ふふっ」

笑った?すいません男のツンデレはいらんです。

とにもかくにも私はダニーさんについていったのであった。


***


「……どうだったかい?初めて死んだ魔物を見た感想は」

第一声はそれだった。

確かに私は死んだ魔物を、目の前で惨殺されていく魔物を見たかもしれない。

「意外と何とかなりましたね。とだけ」

「……店主から話は聞いたよ。どんな感じに道中を進み、ドラゴンを倒したのを見たか。なかなか大活躍だったそうじゃないか」

逆ヒールで弱らせただけだけどな!

「どうもそれは。まあまだまだですしあの人たちみたいになれるよう努力はしていきますけど」

「……そうだな。君は才能もあるみたいだしこれから様々な魔法を覚えていくだろう」

全属性を覚えられるとかいう転生チートみたいな能力を手に入れた人間が才能などということを誇るつもりはないが、すくなくともこの世界では魔法が必須のようだし、なかったらギルドのチーフさんくらいに有能でないとどうにもならないのだろう。現にこの町で乞食をよく見る。

だからこれからの努力が必要なのだろう。

「……ドラゴンについて、今回は後ろからみているだけだったが……この後、魔法を覚えたら君はドラゴンと戦うことになり、彼ら彼女らに鍛えられあのくらい戦えることになるだろう……彼女のことだし」

彼女のことだし。その一言がこれからの苦労を予感させている気がした。

「……その時、君は魔物を自らの手で殺せるか?……そう聞きたい」

「殺せるでしょうね」

人間ですら私はできるだろう。

小学生の頃を思い出す。三年の時だったか。それとも四年か五年か。私はいじめられていた。

なにがいじめの原因になるかわかったものではない――なんてダッシュをつけて強調するほどのことではないが。

母親はこういっていた。『所詮子供のやること。早く大人になりなさい』月並みでもあり、残酷でもある。

いじめられてないて家に帰った日に母親はいなくて、代わりに母親の姉、つまりおばさんが来てこういった。

『私だったら血が舞うんだろうな』

そんな、譫言の様に、思い出のように言った言葉は当時の私に突き刺さった。

そして次の日に、学校でぶち切れて、その時は図工の時間で――彫刻刀を使っていた。

おばさんの言う通りになった。

小学校は無理やり卒業したし中学校は他人から一歩置かれた立場にいたが別の人がいじめられているのを見た。その矛先は私には向いていなかったが――下手したら大変なことになると思った。

高校に行くとしても相当偏差値の低い学校に行くことになったはずだったし、勉強を続けてもどうにもならないと思って不登校になった。

そして、今に至り転生。

まったく、都合のいい話だ。

そんなシリアス。そんなお涙ちょうだいなお話。

「……だろうな」

そんなことも、この人には見抜かれていた。

ダニーさん。この人は少なくとも師匠やミレーヌさんやらとはとちがう世界を生きてきた、ような雰囲気を醸し出している。

だからこそ話しかけてきたのだろうし。

「……君は、魔物を弱らせるための方法を考え、それを実行した」

「子供が虫で残酷なことをするのと同じことだと思ってますよ」

「……君は、傷つけられていくドラゴンではなく戦う彼らの方を見た」

「先人の戦い方は参考になりますしね」

「……君は、子供の方を見るドラゴンに、ヒールではなく弱らせる魔法をかけた」

「子供をみて悲しむよりも一思いに殺された方が良いと思って」

嘘はついていない。魔法はかけた。それが逆ヒールなだけであってヒールをかけたわけではない。

ヒールをかければもう少し生きていたのかもしれないが、どうせ殺される運命なのだから仕方がない。そういうことにしておこう。

「……冒険者にはそういう残酷さが必要だ。何も経験のない君がなぜそういう残酷さを知っているのか?と思ってね」

「子供をなめすぎじゃないですかね?」

このくらい誰でも知っている。そんなことは本を読めば書いてある。

排すべきものは排すべきと。

なーんてかっこつけているだけだけど。

「……君のいた世界はどんな世界だったかい?」

「一見平和に見えても完全な平和になり切れてない感じです」

こんなことを長々っしく語ってもどうせ結論何て出ない話題だ。この一言につきる。

二人は黙っていた。

空を見て、延々と考えていた。

ここで私は良い関係を作れるのだろうか。

人間に対し刃を突き立てないだろうか。


***


「よーうジェービズ。なかなかいい店員を見つけたみたいじゃないか」

BBの店主さんが来た。でもこれだとこの酒場の店主とかぶるからな……BBさんでいっか。

「久しぶりに店主さん以外の呼び名を聞きましたわね……うっ」

「おいおいミレーヌ。闇鍋食ったのかよ。シュールストレミング入りの闇鍋なんて食うもんじゃねえぞ」

「進めたのお前かよ!?お前のせいで大変な惨状になったんだぞ!?」

私とダニーさんは残酷さとは何かについて延々と話し合っていた。結論?出るわけなかろうが。

いやーそれにしてもダニーさんはいい人だ。私の身の上話がかすむくらいだ。

子供の頃村を襲った山賊を一人でぶっ殺したとか頭おかしいことしやがって。自分のやったことが小さく思えてくる。

まあ私の身の上話なんてものはみんなにはさっき言ったし、師匠にも時間があったら話すつもりだ。

大体この世界でおこることではちっぽけな事だし。

それぞれ色々抱えてると言う事もわかったし。

「よっと、俺にも酒くれよジェービズ!新たな店員に乾杯だ!」

カウンターに座りそう宣言する。しかし他の人間の反応は芳しくなった。

「あー私も少し休ませてもらいますわ……」

体調の悪そうなミレーヌさん。……さすがにシュールストレミングはやばかったか?

「俺もそろそろ宿屋に戻ることにしますよ。疲れたんで」

そりゃそうだ。私と同じくらいの年齢らしいしドラゴンと戦ったら疲れるだろう。

「僕もうちのハニーが寝てしまったので……」

「すぅ……」

すやすや寝ているリゼちゃん。それを背負うオズバルトさん。

そんなわけで四人とも出ていった。師匠は……ここで寝かしとくのが正解か?

「お前らはいいよ。たまにうちの店来るだろうが。ん?ダニーラもいんのか。久しぶりだな」

「……久しぶりだ」

「おー四人いるじゃん!麻雀できんな!」

確かに麻雀もやりたいが……もう夜だ。

「あーそろそろ寝ていいですかね?三人でゆっくりお楽しみください」

「ちっ……まあしょうがないな。たまにはうちの店こいよ!」

そういって酒場の二階へと上がる。一番端の部屋には師匠が休んでおり、その隣が私の部屋だ。

私の部屋の中へ入る。大量にある魔法の本を見るだけで頭が痛くなりそうだ。

ベットの布団の上に横たわる。ああどうするべきか。

眠れるわけがあるか。あんな経験しておいて眠れる奴はタダのアホだ。

立ち上がり、本棚を見る。

その中から『生』の属性本を見つけ出す。

基礎の基礎とかは師匠から教わるべきだが、ヒールくらいは習っている生属性なら何とかなるだろう。

少しでも、師匠に、みんなに近づきたくて。

私は本を読み始めた。

いつもの癖が出た。シリアス入れたくなる病って奴ですよ。

第一部完ってところですかね。次回から日常編突入。三部は来ない。

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