宴会大作戦―1
「って言う感じでした」
そんな、本日ドラゴンを討伐したと言う今までの私には考えられなかった事実を語った。
「通常運行じゃないか。いやー人間じゃないような動きをできるとは成長したね」
店主さんからもらった特性オリジナルジュースを飲む。そのまずそうなうんこ色に反して結構おいしかったりする。
「あの人たちがおかしいんですよね?」
「あいつらがおかしいんだよ」
酒場開店前。料理の仕込みをしながらそんな会話をしている。
なのにあの四人+幼女は酒を飲んでやがる。開店前ですよー。いやリーゼロッテちゃん、略してリゼちゃんは飲んでないがそれはそうと。
「なんであの人たちここにいるんですかね?」
「まーちょっとせっかくの新入りの初戦だしな。ちょっとしたパーティでも……」
「また歓迎会にかこつけたパーティですか」
先日の騒ぎを思いだす。まあなんだかんだ言って飲め食えやの大騒ぎで楽しかったのは事実なのだが。
「あ、そうだ。ちょっと適当に何か買ってこい。今食べたいものでいいから」
「へ?何でですか?」
「ちょっとやることがあってだな……」
***
そんなこと言われてもねえ。
市場を回る。良いものが何かないだろうかと考えながら道を歩く。
乞食という前いた世界ではそうそう見かけないものが列になって座っているのを見て、この世界も世知辛いと言う事を感じる。まあそうだろうな……魔物とかいるんだし。
それにしても歓迎会と言ったが、一体何をするのだろうか。
好きなものを買ってこいと言った。私に好きな食材を買ってこさせてどうするのか?
……さては全員持ち寄ってるとか。
「すいませーんなにか面白そうな食材ないですかー?」
仕入れの時いつも行っているという店、店名BBへと行く。一応昨日店主さんの付き添いで言った所だ。
「おお昨日の店員さん」
「どうも、今日も凄い筋肉ですね」
この店の店主、ブノア・ヴィダルさんは巨漢の男である。この人なら人間ならざる動きをできそうだが。通称BBさん。店名がBBだからな。
「毎日鍛えてるからねー君もやるかい?」
「否が応でもやらされる羽目になりそうなんですけど。あの人達本当に人間ですか?」
そんなことを嘯く私。
「ん?あいつらの戦い方でも見たのか?」
おそらくこの人も昔酒場にいたのだろう。店主さんが酒場からでているところをあまり見たことがないし。
「一緒にクエストに。ちなみに今日です」
本当にあんな事が今日の出来事だと言うから驚きだ。今でもあんなことが現実だったのかと信じられなくなる。
異世界に来てる私が言う事でもないのだが。
「クエストの後、食材……ははあさては。これ持ってけ」
BBさんが奥から一つの商品を取り出す。
それを見た私は、心の中でほくそ笑んだ。
「……なるほど」
「ん?大体なにするかの想像はついているのか?」
「好きなものを持ってこいと言われたので大体。代金は?」
「まいどありー。新しく入った店員はなかなかいきだねえ!」
あるものを購入した。まさかこの世界にもあったとは……一度見てみたかったんだよなあ。
「魔法は覚えたかい?」
「ヒールだけでクエストに行かされましたが何か?」
「回復役がついにあの酒場にも来たのか……今日ちょっとその酒場行くかもしれねって店主に言っておいてくれ!」
「了解でーす」
***
帰ってきたらなにかが始まる集団で固まっている所にいく。今気が付いたがおとといはいなかった黒づくめさんもいることが分かった。
そしてその中心には……
「鍋?」
「はーい座って座ってー」
本日もへこんでいるレオナルド君。碌なことが起きるわけがねえ。
「買ってきたね?ユリーカちゃん」
「BBさんが今日来るかもって言ってましたよ」
「本当ですか?じゃあ今日も一段と楽しくなりそうですね……」
BBさんはこの店によく出没するのか。この酒場の事情を知っていると言うあたりそうなのだろう。
「じゃあ始めましょうか」
「だいじゅうさんかいー」
なんだその不吉な数字は。
「初戦おめでとう闇鍋大会を始めますわ!」
ビンゴ。
いえーいと言う声が全員の口から聞こえる。レオナルド君以外。
「今日は酒場畳んでるから安心しろよ。どうだ。大変なことになりそうだろう?」
「いやな予感しかしないですね」
店主さんが言う。だいたい予想はしてたし。
「闇鍋ですかー……」
闇鍋。それぞれ自分以外には不明な突飛な材料を複数人で持ち寄り、暗中で調理して食べる鍋料理。(ウィキより)
まあイベントのようなものだ。ちゃんとしたご飯になるわけがない。
「では投入開始よ!」
師匠がそう宣言する……闇の食事の始まりだぜ!
「始まってしまったか……俺は普通にシイタケをぶち込みますよ。……嫌な未来が」
レオナルド君はシイタケか。普通に好きだからよし。
でも嫌いな人は嫌いだからなあ。
「ちょこれーともってきたのー」
いきなりあれだ!?リゼちゃんこの子……やる!
「私はマ○ニー。汁すいそうだけどおいしいから」
師匠の番。この世界にそんなものがあったのか。……先の展開が。
「僕は好物七味を入れますね」
……辛くなった!?
「俺は酒場特製!オリジナルジュースを投入だー!」
色があああああ!!色がああああああああ!!
段々とレオナルド君の顔色が悪くなる!ああこの先の展開が見えるよ!
「ついでに焼き魚投入ー!!」
二つ目だああああ!!店主さんの大好物投入!
そしてついに、ヤクザの人が動き出した!でかいバックを持っているがその中から取り出すのは……豚!?
「……豚の角煮だ」
「おいしそうなのに鍋に入れるのはやめてえええええ!!」
さすがにこらえきれずレオナルド君が突っ込む!
そして次に……ミレーヌさん!
一番この酒場でお茶目と言うかその場のノリで行動すると言うか……どうなる!?
「納豆持ってきましたわ!」
私の大嫌いな奴!やめてえええええ!
「そしてさらにカレーですわ!」
味が一つにいいいいいいい!!いや別にいい事なのか!?
いやそれでも変な色と変なにおいがすると言う事に変わりはない!絶対に、必ずまずい!
「最後に……ユリーカちゃん!何持ってきた!?」
遂に私に振られる……期待にそうようなものを持ってきておりますよ。
「でも状況を知らされてない人が最後っていうのもね、つまんなくない?」
「大丈夫ですわ……この子ならとんでもないものを持ってきて来るはず!」
この人たちゲテモノ料理作りたいだけかよ。
さて私が持ってきたものは……缶切りを背中で隠しながら使用し持ってきたものをあける。
そして……
「私が持ってきたのは……」
ごくり。
どぼぼぼぼ。
「シュールストレミングだああああああああ!!」
「やめてええええええええ!!
「よくやってくれましたわ!!やってくれると思ってましたわ!」
「終わったああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
酒場全体が盛り上がり、歓声が聞こえる。ヤクザの人はその風貌に似あわないガッツポーズをしていた。
レオナルド君の悲鳴はその真ん中で悲痛に響いていたのであった。
そして残ったのは。
絶対に食えない鍋だった。
良い子のみんなも、勉強せずにこんなものを読んでるみんなも、働いてない君も、こんなことは絶対にしちゃ駄目だよ!
「で、誰が食べるんです?」
静寂。レオナルド君、確かにそうだけど一気に盛り下がったよ。
そりゃ作ったのだから誰かが食べなければいけないのだけれどもどうするんだこれ。
「僕は捨てればいいと思いますが?」
つまらないことを言うな。ロリコン。冗談はそのやたら華奢な顔だけにしておけ。
「面白くないから却下ですわ!」
そしてミレーヌさんの予想通りの反応。面白くないからと言うあたりが一番それらしい。
「でも絶対食えないしな……」
「……あのジュースよりかはましだが」
店主とヤクザさん。私はあのジュース結構おいしいと思ったのだけれど。
「そうだ、罰ゲームに使えばいいんじゃない?」
「ぽーかーやるの」
師匠と幼女の反応。罰ゲームに使うと言うのは面白い発想だ。
「大富豪が限界じゃないですかね?」
その言葉を皮切りにして、テーブルの上に一つトランプが置かれる。
最初はグー。じゃんけん……
何回かのやり直しの後、最初がレオナルド君、シャッフルが師匠と言う事になった。
「じゃあ……」
「試合開始!ですわ!」
くじで決めるはずだったのがいつの間にか大富豪やってた。